雪成はす子
2025-11-20 00:19:02
2456文字
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愛し愛しと云ふこころ

あんまり祝ってる感じがしないベポちゃんお誕生日おめでとう!なSS
🎸🐬くんのカテゴリなんですがどちらかというとシャチとベポの会話がメインというかニコイチがメインな感じです
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 スワロー島に居た時、大怪我をしてローさん達に助けられて暫く経った頃、俺はベポに訊いてみた事があった。
「なあベポ、お前さ、何で最初に俺らに出会った時に『友達になれるかも』って思ったんだ?」
「えっ?」
「ローさんに聞いたんだよ。お前が森に居た俺たちに話しかけた理由。あの時の俺たちは紛れもねえチンピラだっただろ? 終いにゃ喋るクマってだけでお前をいじめたんだし、普通に考えて友達になろうなんざ思わねえと思うんだけど」
「うーん……説明、ちょっと難しいんだけどさ」
 鍬を置いて、ベポはぽりぽりと頭を掻く。
「その、二人から『声』が聞こえたんだ」
……声?」
「うん。言葉とは違う声がしてた。二人とも寂しいってずっと叫んでた。おれもひとりぼっちで寂しくて、だから同じように寂しいって叫ぶ声の方に向かったら二人が居たんだ」
 ベポの言葉に、俺はうーん……と首を傾げる。
「俺たち、別にそんなこと思ったりしてないと思うんだけど……だって、ずっとペンギンと一緒に居たのに寂しいなんて思うワケねえじゃん」
「でも、聞こえたんだ。ペンギンからも、シャチからも、ローさんからも」
「ローさんも?」
 俺の問いに、ベポはこくりと頷く。
「ローさんが近付いてきた時、おれ、びっくりしたんだ。一番大きな『寂しい』が聞こえてきたから」
 ベポがぎゅっと拳を握る。
 俺たちを助けてくれたローさんと、『寂しい』という言葉がその時は結び付かなかった。
 何か深い事情を抱えているのは分かっていたけれど、あの時は自分たちが一等不幸なんだと思い込んでいたから。
「おれも、ローさんも、ペンギンも、シャチも、あの時はみんな『寂しい』って叫んでた。でも、一番寂しいって叫んでたのはローさんだった。あの後二人ともローさんに気絶させられて別れちゃったけど、色々あったけど、それでもこうしてあの時の皆で暮らせるのが俺は嬉しいんだ」
 そう言ってニコニコと笑うベポに、俺は心臓がきゅっと締め付けられるのを感じていた。
 大怪我をしてこの家に運び込まれてから、ベポはいつもローさんと一緒に俺たちを看病してくれていた。
 あの家を出て以来、俺とペンギン以外の全ては俺たちを害する悪いものだと決めつけていた。それはきっとペンギンも同じで――いや、もしかしたら俺以上にペンギンは周りを敵視していたのかもしれないけれど――とにかく、俺たちにとって周りの者は全て敵だった。
 友達になりたくて話しかけて来たベポを、俺たちは。

「うわっ、シャチ⁉ ど、どうしたの?」

 戸惑うベポに構わず、俺はベポをぎゅっと抱きしめる。頬に当たるふわふわとした感触に、胸が締め付けられるようだった。
 やがて包帯が巻かれた手が、俺ごとベポを抱き締める。小さな嗚咽が聞こえて、ああ、泣いてるのは俺だけじゃないと何処か安心できた。
「ごめん……ごめんな、ベポ」
「ベポ、ごめん、おれたち」
 しゃくり上げる俺たちに、最初こそベポは戸惑っていたがやがてくしゃりと笑った。
「おれは気にしてないよ。おれ、ゼポ兄ちゃん探してここまで来ちゃったけど、こうしてみんなに会えて良かったもん」
 だから大丈夫だよと言う声に、俺たちはますます大きな涙を零した。

  ***

……なんて事もあったなぁ。懐かしい」
「思い出させんなよ……くそ」
 ギターの手入れをしながら言うと、ペンギンが大きなため息を吐いて頭を抱えた。
 ペンギンにとって、弟たちの前で号泣したなんて記憶は消してしまいたい黒歴史なのかもしれない。でも、俺にとってはそうは思えないのも事実なのだ。
 ベポという存在は、俺たちにとって確実に良い変革を齎した。
 本人はあくまでキャプテンの――ローさんの功績だと言うだろうが、ローさんとはまた違った形でベポは俺たちに変革を齎したのだと俺は思っている。
 ベポが聞いたという『声』がどういったものだったのかは俺には分からない。
 見聞色の覇気の片鱗だったのか、それともベポの優れた聴覚に由るものなのか。

 ――そして俺たちがどうして『寂しい』なんて声を上げていたのか。

 あの時は分からなかったが、今は何となく思い当たる。


「ところで、肝心の主役は今どうしてる?」
「ベポならキャプテン起こしに行った。……けど、戻ってきたって報告がねえって事は二人で寝てるかもしれねえな」
 ちょっと起こしに行ってくる、とペンギンが立ち上がる。俺もギターを抱えて立ち上がり、先に食堂に向かった。


 俺たちはきっと、寂しかった。
 世界にたったふたりぼっちで、お互いさえいれば他には何もいらないと突っぱねて、お互い以外のものを全て拒絶していた。
 手のひらの中の温もりを手放さない事だけが、あの時は何よりも重要だった。
 手のひらの中の温もり以外、何もいらないとさえ思っていた。

 寂しい寂しいと、心の中でずっと叫びながら。


 食堂の椅子に腰かけてギターを爪弾いていると、後ろからがばっと抱きしめられた。
「シャチー!! おれ、『新時代』歌いたい!! ウタちゃんメドレーがいい!!」
「ああ、分かってるって!! 今日はベポの歌いたい曲をいっぱい歌おうな!!」
「うん!!」
 弾けるような笑顔で頷くベポに、つられて俺もベポをぎゅっと抱き締める。
 あの頃と変わらない、ふわふわした感触が頬を擽った。
 その感触が愛おしくて、俺はベポの頬をそっと撫でた。


 お互い以外何もいらないと嘯きながら、俺たちはずっと寂しいと叫んでいた。
 誰も気づいていなかった声に、自分たちですら気付いていなかった声に気付いてくれたのは。
「誕生日おめでとう、ベポ」
「へへっ、ありがとうシャチ!!」
 あの時の過ちは、きっと俺たちは一生赦せない。
 だからせめて、今日は高らかに、ただ一人の為に歌おう。

 生まれてきてくれてありがとう、と。
 今、高らかに歌おう。

かなしかなしといふこころ