白殊皎(しらよし こう)
2025-11-19 20:00:00
1778文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

闇の中でも輝く星で

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
帰還してすぐ血まみれのままの土方が近藤を探してストームボーダー内を彷徨う。
その理由は特異点の敵にあった。

 それは唐突だった。

 近藤は数日前から気分が沈んで、取った霊基は黒の剣士だった。
 この姿のときは新選組の皆もいい顔はしない。
 それはそうだろう。
 かの特異点で自分たちを消し去ろうとしたものの姿など好むはずもない。

──だが。

 つかつかと一直線に近藤に向かってくる男がいた。
 黒の外套を血で真っ赤に染めて凄まじい形相をしている。
 そして、射程距離に入ると逃れる隙もなく近藤を抱きしめた。
……歳!?」
 濃い血の匂いがした。
 まだどこかから出血をしているのではないかと思わせるほどだったが、そうではないようだ。
 土方は近藤を強く抱きしめ、その朱鷺色のような、それでいて不可思議な色の髪に顔を埋め、獣のような荒い息を繰り返す。
──あ、いた!
 短く声がして、少女マスターが駆け寄った。
「主?」
──ごめんね、特異点の調査に行ってたんだけど、その先で土方さんエネミーの精神攻撃を受けちゃって……
「精神攻撃」
 近藤はぽかんとして聞き返した。
 それが自分に何の関係があるのだろうと。
──あのね……近藤さんを……



 マスターに頼まれて近藤は自分に抱きついたままの土方をなんとかなだめ彼の部屋に連れて行った。
「歳、俺は大丈夫だ。何もされてはいない」
 マスターによると、調査先で遭遇した首魁はサーヴァントであろうとも幻惑し、酷い精神異常をきたす呪術の使い手だったという。
 近藤の記憶する限り、土方は聖杯の蠱惑の声すら退ける狂戦士バーサーカーとは思えぬ精神の強靱さを持っていたはずだった。
 それが何故こうなってしまったのかというと……
──近藤をうしなう幻を見せられたらしい。
 それも一回ではなく、繰り返し繰り返し、生前のものも混ざり合ってかなりえげつなく土方を取り籠めたのだ。
 その場では土方は正気に見えた。
 最終的に宝具を使い、その敵を仕留めカルデアに帰ってきた時点で、この状態になったという。
 無言のまままず部屋へ、いないとみるや鬼神のような形相で帰還後の様々な検査チェックも無視してストームボーダー中を探し回った。
 そして廊下の片隅で佇む近藤を見つけると、こうして抱きついて離さなくなった。
 遠隔でなんとかメンタルのチェックをすると、かなり危ない数値が見えているという。
 下手をすると精神崩壊するレベルだということだ。
 故に、精神状態が落ち着くまでは傍にいて、また何か要求されたらできるだけ応じてほしいと近藤は言われ、それを請け負った。
「歳、姿を変えるから」
 そんな状態ならば、こんな混迷を極めた闇に墜ちた姿よりも、浅葱の羽織のあの姿の方がいいだろうと土方に声をかけるが、土方は首を横に振った。
「あんたで……いや、あんたがいい」
 あのくらき京の特異点で闇に抵抗し、屈しそうになりながらその中でも立ち上がったこの姿がいいと。
「──ッ……
 それを聞いて近藤の紅い目がなおさらに赤く染まった
 本当にどこまでこの男は自分を信じ、深く想ってくれているのだろう。
 いつもの優しい抱擁ではなく、正直苦しいほどではあったが、精一杯抱き返し、常日頃自分がしてもらっているように背を撫でる。
「近藤さん……いるよな、ここにいるよな、どこにも行かねぇよな」
 土方は譫言うわごとのように繰り返す。
 この誰よりも強い心を持つ男が、たった一人を喪う幻で砕け、崩れてしまうようになったとは。
 それは自分のせいなのだと、そう痛感した。
 けれど、きっと土方は否定する。
──あんたは俺の唯一の星なのだと、必ず戻るべきしるべの燈火なのだと。
「うん、俺はここにいる。どこにも行かない。歳の傍にいる」
──おまえが望むなら、この身体くらいいくらでも差し出す、とも言いたかったが、それも今の土方は望んではいまい。
 きっと『もっと自分を大事にしろ』とこんな中でも怒られるだろう。
 癒やしているつもりが、自分が癒やされている。

 自分が土方の星であるように、土方もまた自分の星であり暖かな居場所を作ってくれる最上の存在なのだと近藤は思い知らされる。
 早く混乱が解けるといい、と思う反面、このまましばらくいたいとも思った。

 正気に戻ったら伝えよう。
 誰よりもおまえを想っていると──。