moto
2025-11-19 15:00:58
1558文字
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ハローハロー、またおいで

さまささワンドロワンライお題「帰り道」


事務所を出て、帰路につく。最近、日が落ちると肌寒くなった。そろそろ上着が必要だろうか。道行く人たちを観察してみると、厚手のコートやダウンを着ていたり、長袖のTシャツだけだったりと様々である。上着といっても、簓が持っているのは、こちらへ来た時に着ていた薄手のジャケットのみだった。もっと寒くなったらあれでは心許なく、厚手のものを買わなければならない。
 商店街を歩いていると、あちこちから簓に声がかかる。たまに立ち止まって世間話をして、今度は繁華街へ向かう。平日の夜だというのに、明るく、賑わっている。ここでも声がかかり、挨拶を交わしながら先へ進む。馴染みの中華屋で麻婆豆腐定食を食べる。汗が出るほどの辛さで、体の芯から温まった。常連客や店主と賑やかに会話し、笑う。喫煙所で見知らぬサラリーマンと取りとめのない話をして、人で賑わう駅前にぼんやりとたたずむ。楽しい夜である。それなのに、こんなに大勢の人々がいる中、簓は今、ひとりぼっちであることに気づく。せっかく美味しいものを食べ、おなかいっぱいになり、たくさん話し、笑っても、それでもなんだか心が寒々しい。はへー、と気の抜けたため息をもらす。また来たな孤独感。今回も付き合うたるわ。どないする?みんな集めておもしろ話しよか。毎回同じ?まあそう言いなや。ちゃんと新しいネタは仕込んで……
 ジャケットの内ポケットからネタ帳を取り出そうとした時、近くでワッと声が上がった。同時に身体を震わせる低音がドンッと響く。馴染みのある感覚に目を見開くと、とんでもない風圧とともに人が飛んできた。あんなにいた人々が散り散りになっており、倒れた人物はスタンドマイクを支えにして立ち上がる。背後では棺を抱いた髑髏がおどろおどろしく燃えている。
「さ、左馬刻ぃ!?」
「あ?簓か、ちょうどいい、手伝え」
「は!?何してんの!?」
「見りゃわかんだろ、絡まれてんだ」
 慌てて駆け寄った左馬刻の隣で向き合うと、マイクを持った輩がズラリと並んでいた。
「俺様が一人んとこ狙ってきやがった卑怯者どもだ」
「ええ、こんなとこでやりあうん?」
「てめえら!怪我したくなけりゃ逃げとけ!」
 左馬刻が怒鳴りあげる前に、日々のラップバトルに慣れてしまった人々は、すでに安全な場所で遠巻きにしている。
「簓ぁ、もたもたすんな!行くぞ!」
「はああ、しゃーないなあ!」
 招き猫の鳴き声が、楽しげに響き渡った。

「は〜、やれやれ」
 寒々しい夜の空に、煙草の煙がただよう。禁煙区間であるので、じろりと警官に睨まれたが、これだけの暴漢を制圧したのだから見逃されたい。連行される暴漢たちを眺めながら、左馬刻がもう一本煙草に火をつける。
「左馬刻一人に人数集めすぎやろ」
「ハッ、弱虫のクソザコ野郎どもめ」
「フッ、フフッ」
「あ?なんだよ」
「腹いっぱいになってぼーっとしてたら目の前に左馬刻飛んでくるとは思わへんやん、あかん、おもろ。フッフフフフッ」
「こっちもお前の前に飛んだとは思わねえわ」
「フハッ」
 ひとしきり大笑いする。左馬刻も簓につられてか吹き出している。
「まあ、俺様一人でも良かったが、てめえがいて早く片付いたわ」
「そやろそやろ。どういたしまして〜」
「フン」
 にかりと笑って拳を向けると、同じく拳をぶつけてくる。
「腹減った」
「合歓ちゃん待ってるんやろ」
「おー、今日はクリームシチューつってたな」
 左馬刻はスマホを取り出し、急いで今から帰る旨を送っている。
「はよ帰らな」
「おう、じゃあな」
「また明日な〜」
 左馬刻と別れて帰路につく簓の足取りは軽かった。
 ほなね。早く去っていった孤独感に向けて。
 さて、甘いものが食べたくなったので、コンビニに寄って帰ろう。