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桜霞
2025-11-21 19:00:00
22257文字
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【RKRN】しのぶれど【雑夢】
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タソガレドキ忍軍事件帖 豊部勘定方贈賄之件
本作品は、弊雑夢小説「しのぶれど」のスピンオフ作品です。
「しのぶれど」夢主の兄とタソガレドキ忍軍がタソガレドキ領で起こる事件の解決に挑戦したりしなかったりするお話です。
なんでも許せる方向けです。
感想はコメントまたはうぇ~ぶぼっくす(
https://wavebox.me/wave/3h8k2hh1wwxb53he/)までよろしくお願いします!
タソガレドキ城下町の高洩町で屋台を構えていた四郎兵衛は、明け六つの鐘を聞いて窯の火を消した。外に出していた看板なども片付けて、肩にかけて運べる程度に屋台を変形させていく。
四郎兵衛の住まいは高洩町ではない。町人地の堀河町というところにある長屋街に部屋を借りている。堀河町には四郎兵衛のような、地方出身の土地を継ぐことができない次男、三男などが集まっていた。地方で土地を持てない、または地主から借りられない農民出身者は、仕事を求めて戦に出るか、城下町に商売をしにくることがほとんどだった。その中でも屋台は時と場所を選ばず商売ができるし、また間口を持たないので掛かる税も少なかった。
山間にあるほんの少しの窪みを少しずつ扇状に広げて発展していったタソガレドキ城下町は、早朝霧に包まれることが多い。四郎兵衛は慣れたもので、ほとんど見えない視界でも危なげなく我が家への道を進んで行く。この時間帯に濃霧に包まれることには幼い頃から慣れっこだったが、城下町に来たばかりの頃は、ちょっと歩けば壁にぶつかるんじゃないかとひどく緊張していたのを思い出す。今となっては、濃霧の向こうから差す日差しがひどく眩しいくらいだ。
帰ったら味噌汁でも軽く腹に入れて、昼まで寝よう。今日はなかなか稼げたから、その後の飯はちょっと贅沢してもいいかもしれない。
いい気になりながら、四郎兵衛は足取り軽く進んだ。何度か角を曲がって、次の角を曲がれば高洩町の中央に敷かれた通りに出る。その通りから橋を渡れば、堀河町まではすぐだ。
「、おっ、と、とと」
がっ、と音を立てて、足が何かに躓いた。均衡を崩した屋台ごと倒れないようになんとか踏ん張って安全を確保し、ホッと安堵に胸を撫で下ろす。
一体何に蹴躓いたのだろう。誰ぞが何かの道具でも置きっぱなしにでもしたのかしらん、と四郎兵衛は来た道を何歩か引き返した。よく目を凝らして地面を見ると、うっすら翳のようなものの輪郭が、少しずつ明瞭になっていく。どうやらそれが人の手の形をしていて、その向こうに肩衣の武士が倒れているらしいと見て、四郎兵衛は呆れ混じりに溜息をついた。
高洩町は蛍雪町とも呼ばれるくらい、一晩中灯りの絶えない町だ。中央の通りに面して軒を構えているのはどれも春を売る女たちが商売をしているところで、大体の店が夜通し営業する。客も朝まで帰らない、或いは飲み潰れて帰れない者も多く、四郎兵衛も何人か介抱してやったこともある。酔っぱらいの世話など一銭にもならないが、酩酊している人間に悪さはしないという信用は何にも代えがたい。その信用が客を連れてきてくれることだってある。四郎兵衛は一旦肩から屋台を降ろすと、倒れている武士の傍に片膝を着いた。
「兄さん、こんなところで寝てちゃあ、肩衣の御紋が泣いちまいやすよ。ほら、起きた起きた。もう明け六つの鐘ァ鳴り終わりましたぜ」
肩を揺さぶって、四郎兵衛は一瞬ぎくりとした。皮膚が、肉が、四郎兵衛の手に反して固く、冷たい。自分の顔が強張ったのを感じながら、四郎兵衛は「おい、兄さん、」と先程より強めに背中を揺さぶった。
「、
……
」
手に、衣以外の感触が伝わる。この感触には覚えがある。生唾を飲み込み、おそるおそる己の掌を見て、四郎兵衛はヒッと息を呑んだ。
乾いた血が、砂のようにこびりついている。
背中を袈裟懸けに一刀両断され、更に心臓の辺りを串刺しにされたらしい男が、高洩町の路地裏で死んでいた。
◆
黄昏家家臣細田の屋敷は、武家町の中でも一際山側に配されている。屋敷は他の家臣のものに比べてこぢんまりとしており、抱えている下働きなども少ない。細田家家中の者はほとんどが領地に下がっており、それらを当主朔定の正妻が統括している故である。また、目付という、領内外の情報収集や統括、各家臣の監視、他領地の内偵全般などを行う役職柄、朔定が地方を巡回していることが多いため、主だった家中の者も城下の屋敷を本拠地にすることはほとんどなかった。細田家長男朔之丞本人の意向もあって、城下の屋敷には下男と下女が一名ずつ、家中の者の娘を女中として二名、世話役として数代前から細田家に仕えている三隈一家のみが同居している。城下の細田家は三隈一家が切り盛りしていると言っても過言では無かった。
それぞれの一日の仕事は、下男は庭先などの掃除から、女中以下は朝餉の支度から始まる。三門の内助が誰よりも早く起きて勝手場に水を入れ、薪をくべて火を熾す。後からやってきた女中たちが五穀を研ぎ、味噌汁のための出汁を取る。出汁と味噌の香りがふわりと漂って屋敷の目を醒ます頃、勝手場にひょこりと顔を出したのは朔之丞だった。三隈の内助である藤が小さく瞠目して、あらお早い、と声を上げる。
「おはようございます、若様」
おはようございます、と女たちの声が揃う。おはよう、と返す朔之丞は肩衣姿で、すっかり出仕の用意を整えている。
「あ、若様。こんなところに。そのお姿は、もう出られるので」
朔之丞の背後から、三門恒元が目を丸くしながら顔を出した。うん、と朔之丞が顎を引くようにして首肯する。
「ちょっと気になることがあってな」
「はあ、気になること」
朔之丞が腰を下ろす。炊きあがったばかりの五穀と、味噌汁、漬物が乗せられた膳がすぐに差し出された。その傍らで、藤が呆れたように嘆息しながら言った。
「昨日は子の刻を過ぎてからのお帰りでしたでしょ。今日ぐらい、もう少しゆるりとして行かれてはいかがです」
「そうは言っても。昨日で片付かなかったことですので」
「
……
まさかとは思いますが。こんなに朝早くから、高洩町などに行かれるおつもりではございますまいな」
「違います」
いただきますと手を合わせて、朔之丞は朝食に箸をつけた。藤が半眼で、じろりと朔之丞を睨めつける。耐え兼ねて、朔之丞は口の中の物を呑み下した後、渋々と訳を話した。
「今日早くに家を出るのは、勘定方に顔を出すためです」
「勘定方? 何故です。どこぞで不正でもございましたのか」
「そういうわけでは。ただ、昨日高洩町で会うはずだった豊部殿が現れなかったので、確認に行こうかと」
「ではやはり高洩町にお行きなさる」
「違いますと、先程申しました」
むっとして、朔之丞は口いっぱいに五穀を頬張った。これ以上は喋らないという無言の抵抗を、しかし藤は気にも留める様子がない。
「そのようにふらふらなさっているから、いつまで経っても嫁が来ぬのです。何も、我らが殿の御評判故にということだけではございませぬ」
「まあ、藤、若様もかような年頃であらせられるのだし」
「かような年頃なればこそ、ややこの一人や二人、居ておかしくないと申しております。いつまでそのように身軽であらせられるおつもりかっ」
朔之丞は黙って味噌汁を啜った。カッ、と藤の眦が吊り上がる。
「若様っ、私めの話は、聞くに値せぬとでも申しますかっ!」
「ごちそうさまでした」
「若様!!」
お粗末様でございましたという女中の声に片手を挙げて応えて、朔之丞は早足で玄関の方へ移動した。その傍らに、朔之丞の大小の刀を持った三隈が膝を着く。刀を腰に差し、藤の金切声を右から左へ聞き流しながら、朔之丞は「行って参ります」と門を潜って屋敷の外に出た。
さしもの鬼藤の声も、屋敷の敷居さえ超えてしまえば届かなくなる。やれやれと溜息を吐いて、朔之丞はタソガレドキ城に向かって足を勧めた。
いつもより半刻ほど早く出発しただけで、見える景色が幾分か爽やかに映る。朝の萩山の空気は清涼で、時折雲の中を歩いて城へ進まなければならないときがあった。
城中の顔馴染みと、今日はお早いですな、ちょっと野暮用が、等の挨拶を交わして、勘定方に宛がわれた部屋に向かう。
勘定方は目付からの検地などの情報からある程度の予算を決め、その枠内で戦の準備や普請などの出費を決める、タソガレドキの財政における要である。この役職を拝すのは、黄昏家と古くから付き合いのある後山家である。目付と勘定方の仕事は密接に絡み合っているため、細田家と後山家は何かと親交があり、細田家に弟が生まれたら朔之丞は後山家になどという冗談も交わされるほどであった。朔之丞にとっても第二の家族のような家であり、何かと頼りになる存在でもある。
朔之丞が顔を出すと、既に登城していた後山家の祐筆が小さく瞠目して笑みを浮かべた。
「おお、これは目付の。お早い登城でございますな」
「おはようございます。朝早くに申し訳ございませんが、豊部殿は来ておられますか」
「豊部殿。はて、いや、まだ来ておらぬが
……
」
何か、と無言で促されて、実は、と朔之丞は少しだけ声を潜めた。
「昨日、話しがあると言われまして、高洩の諷屋(うたいや)に呼び出されたのですが、姿を見せなかったのです。何か、ご存じではありませぬか」
「さて
……
心当たりは無いが」
祐筆が小首を傾げる。何故うちの豊部が目付の、しかも朔之丞のところに声をかけたのだと書いてある顔に、朔之丞は笑みだけを返した。
「確か、昨日豊部と務めていたのは飯森あたりだ。追って話を聞いて、本人が来たら朔之丞殿のところへ行かせよう」
「かたじけのうござる。では」
一礼して、朔之丞は踵を返した。己の職場である、目付の役職にあてがわれた部屋に向かっている途中、何やらどたどたと足音がする。
瞬きして騒がしい足音の方へ視線を巡らせると、どこか血相を変えた若侍たちが勘定方の部屋の方へ、急ぎ足で向かっている。ほとんど小走りだったので、朔之丞は「こら」と窘める声を上げた。あっ、という顔をした若侍たちが慌てて立ち止まり、「朔之丞さま」と一礼する。
「何があったのだ、騒がしい。軽々に城内を小走りで移動するでない」
「はっ、申し訳ございません」
「しかしなにぶん、火急の件とも申しましょうか
……
」
「なんだ。申してみよ」
顔を上げた若侍たちが目配せし合って、やがて一人が代表して口を開いた。
「先程、高洩町にて、家中の方がひとり、亡くなられているとの由、申し受けまして」
「うん?」
「御家紋から、おそらく豊部殿ではないかと」
なに、と言いかけて、朔之丞は小さく瞠目するに留めた。
朔之丞の沈黙をどう受け取ったのか、もう一人がおそるおそる、朔之丞の顔色を窺うようにして言葉を選ぶ。
「今から、勘定方と、目付の方、二手に分かれて、ご報告に上がろうかと思っていました」
少し思案する素振りを見せて、朔之丞は「目付への報告は良い」と端的に言った。
「私が今聞いた。勘定方へは、私が検めにゆくことも伝えてくれ」
「かしこまりました」
お前は勘定方に、他二人は持ち場へ戻れと言って、朔之丞は再び方向転換をした。時刻はとっくに普段の業務を始めるべき時間になっていたが、ここで通常業務を優先すると、却って手間になることを、朔之丞は身に染みてよく分かっていた。
城下で武士などの身分ある者が殺された場合、遺体は一度城内に運びこまれ、目付が身元を検めることになっている。遺体の家族が城下にいる場合は屋敷に運ばれ、領地に下がっている場合は遺体の処理をどうするかを早急に決める必要がある。季節によりけりだが、領地に届くまでに遺体が腐敗し、原型をとどめておらず、運搬が困難になることがほとんどだからだ。
朔之丞は、一度城の外に出た。門からは出ず、入口から死角になっているところに隠されている木戸から地下に移動して、死体の安置所に移動する。朔之丞の足音を聞いて、顔の半分を懐紙で覆った下男たちが待ち受けていたかのようにして前に進み出た。
「源五郎。遺体は?」
「へえ、こちらに」
下男たちは手慣れた様子で朔之丞を案内した。彼らは城下から直接雇われている町民たちであり、城の敷居を跨ぐことはなくとも、おおよそあらゆる雑事を仕事としてこなしていた。
遺体は茣蓙を被せられて、戸板の上に寝かされていた。下男が茣蓙を退けると、昨日までは生きていた豊部が、最期の痛苦にもがいたまま亡くなっていた。カッと見開かれた目は虚ろに白く濁り、口の周りは酸化してどす黒くなった血がこびりつき、簡単には剥がれなくなっていた。
死後、かなりの時間が経過してから見付けられたのだろう。死後硬直を経た体は楽な姿勢を取らせてやることもできず、瞼を閉じさせてやることもできない。
「確かに、豊部殿だな」
「左様で」
「勘定方には私から伝えよう。遺体は高洩町のどこで見つかった」
「うどんの担ぎ屋台でさ。堀河の四郎兵衛ってやつのもんで。店じまいをして帰ろうってときに、躓いたと」
「そうか」
遺体の胸当たりは特に出血がひどく、すっかり変色してしまっていた。胸の中央部分には、深い刺し傷がある。
「傷はこれだけか」
「いえ、お背中にも」
源五郎が声をかけると、へい、と下男たちが遺体の肩と足を持って上下を入れ替える。硬直してしまった体がぴたりと戸板に張り付いて、背中が大きく袈裟懸けに斬られているのを見て、朔之丞は嘆息して遺体の傍に屈みこんだ。
「この状態で見つかったんだな」
「左様でございます」
豊部の左手に、特に真新しい傷は無い。改めて全身を見渡しても、ろくに抵抗したようには見えなかった。おそらく背後から奇襲され、抗う間も無く心臓に刃を突き立てられたのだろう。朔之丞は念の為、傍らに置かれてあった豊部の物らしい刀を手に取った。鞘を払ってみても、血糊や人の脂で濁ったり、曇ったりした跡がほとんどない。あったとして、手入れを施された後だと分かる。
ということは、豊部は抜刀すらしていない。背後から己を襲い来るものに、豊部は気が付かなかったのだ。
或いは、気付いていながら背を向けた。もし、下手人が豊部の信頼を得ていた人物ならば、奇襲の成功率は跳ね上がる。
───やはり、昨日、何が何でも話を聞いておくべきだった。
◇
太陽が山の陰の向こうに沈み始めると、城内もどこか気楽な雰囲気に包まれる。ほとんどの者がその日の仕事を終えて帰路に着くからだ。
朔之丞もその内の一人だった。何人か、これから宿直で一晩城に詰めることになっている者達とすれ違い、軽く他愛のない話をし、笑って別れた。
やり残した仕事も、明日に回した仕事もない、珍しくきりの良く一日が終わった日だった。
さあ、あとは帰って寝るだけ、と軽かった朔之丞の足取りに待ったをかけたのは、どこか青白い顔をした豊部だった。
豊部は血の気の引いた顔で、何に怯えているのか常にきょろきょろと辺りを見回して、今にも影から化物が飛び出してくると言わんばかりに、何かに怯えていた。
余りにも挙動不審なせいで、却って注目を浴びているのにも気が付いていない風情だった。豊部の様子を窺い、小首を傾げながらも結局話しかけようとしなかった他の者同様、朔之丞も「何かあったのかな」と内心に思うだけに留めて、豊部の視界から外れようとした、ちょうどそのとき。
「さっ、朔之丞殿」
裏返った声に、朔之丞は思わず足を止めた。眉を顰めて豊部の方を見ると、豊部は先程の声音を恥じ入るように何度か咳払いをした。
「これは、豊部殿。如何なされた」
朔之丞は、つい今しがた普通に話しかけられた体で応えた。どこか安堵を眦に滲ませた豊部が、それでも不安そうに自分の背後を顧みる。
「ここでは、その、なんだ。申し訳ござらぬが、こちらへ」
「はあ」
豊部有竹は豊部家の次男である。長男は当主である父と共に、後山家の領地の一部を預かって運営している。有竹は親戚筋の武家屋敷に食客として居候している筈だった。本来であれば婿養子などに出るなどして己の家を持つことに野心を抱くところ、有竹は己の性根に合わぬとして、生来の几帳面さと地頭の良さを黄昏甚兵衛に買われて、勘定方の一員として禄を食んでいた。戦でも大きな武功を立てるような人物ではなく、後方支援で走り回ることを是とするような、文字通り、竹のように風に揺れ、しかしてそれだけでは倒れない程度のしたたかさを兼ね備えている人物ではあった。
その有竹が常に周囲を警戒し、顔色を悪くさせて、視線をうろうろと彷徨わせていると、人相が骨の形から変わってしまったかのような印象を朔之丞に与えていた。
人通りの気配が遠い城内の廊下の一角で、有竹は周囲をこれでもかと確認してようやく、思い切ったようにして口火を切った。
「朔之丞殿に、どうしてもお話したき儀がござる」
「はあ。して、それは」
「ここでは、誰が聞いているか分かりませぬ。壁に耳あり、障子に目ありと申します」
「はあ
……
」
確かに、壁や障子どころか天井裏や床下に耳と目をつける忍者たちの存在を知っている朔之丞からすると、城内どころか城下で話をしている限り、豊部の警戒の努力は全くの無駄骨を折っているようにしか見えない。となると、ここで話そうが、また日と場所を改めて話をしたところで無意味である。
「今ここではどうしても話せぬ内容なのですか」
「だめだ。誰が聞いていると知れぬ」
とは言え、どこか切羽詰まった色を宿している豊部の気迫からして、あまり先延ばしにしても良いものではないように思える。
今日は早く帰れると思ったのになあ、しかもなんか余計大変そうな仕事に繋がる情報だったら嫌だなあ、と惜しむ気持ちを抑え、朔之丞は宥めるようにして言った。
「その、あまり気にされぬでも良いのではないでしょうか?」
「何故です」
「何故、と申されましても
……
」
忍軍の存在は、公然の秘密と言ってもいいくらい、城内のある程度の者に、その存在を知られている。朔之丞は、豊部が忍軍の存在を知っていて彼らにこの話を聞かれたくないのか、そもそも知らないでこのように朔之丞に頼み込んでいるのか、咄嗟に判断しかねてしまった。
「朔之丞殿、どうかお頼み申す。戌の刻に諷屋まで来てくださらぬか。豊部の今後の進退に係る話なのです。どうか」
「しかし
……
」
「頼む。この通り」
ばっと頭を下げる豊部。朔之丞はとっさにかける言葉を失い、豊部に聞こえないよう、静かに嘆息した。
「承知いたしました。戌の刻に、諷屋ですね」
朔之丞の言葉に、顔を上げた豊部は瞠目していた。やがて朔之丞が豊部の話を聞いてくれるらしいと分かると、目に見えて肩の力を抜き、「そ、そうか、」と却って手指を震わせていた。
「すまない、朔之丞殿。恩に着る。まことに、」
何度も礼を言って頭を下げる豊部を宥めすかし、朔之丞は何とかして豊部と別れた。
それが朔之丞の見た豊部有竹の最期である。
◇
豊部の今後の進退に係る話について、有竹が朔之丞に話そうとした途端に、何者かに殺害された。
殺害現場に居合わせたわけでも、有竹の話そうとしていた情報に心当たりがあるわけでもない朔之丞は、面倒臭さに重くなった足を高洩町に向かわせた。
勘定方と城の門番に確認したところ、有竹は酉の刻を半刻程過ぎた後に城を後にしている。城から高洩町までは大人の足でおおよそ四半刻で辿り着くが、朔之丞が有竹に会っていないので、有竹が殺されたのは、戌の刻までの半刻程の間と見て、ほとんど間違いないだろうと朔之丞は踏んでいた。有竹を殺した犯人は、有竹が朔之丞に接触するまでに始末してしまいたかったはずだ。
朔之丞は諷屋で亥の刻から半刻ほど有竹を待った。その前後で、朔之丞自身が何か怪しい人影や気配を感じたわけではない。
高洩町は眠らぬ町とされているが、それは町の中央を通る通りに限った話である。夜闇の中では炎を焚くと、その灯りが届くか届かぬかというところは特に暗がりが深みを増す。裏路地はあまり治安がいいとは言えず、逢引の最中にまぐわっている男女や、あからさまに堅気ではなさそうな男たちがたむろしていることもある。夢を売っている者達の現実が横たわっている場所でもあるので、厄介事を呼び込みたくなければ、不用意に覗き込んではいけないところだ。有竹が死んでいたのは、そういう場所だった。
高洩町で、有竹が死んでいた場所は、もうすっかり綺麗になっていた。
血の跡には新しい砂が巻かれ、鉄錆のにおいもまったくしない。高洩町の者達は、そこに死体が転がっていたことなど無かったかのように、今晩の仕事に向けて気忙しそうにしている。朔之丞は、傍らを通りがかった町人に、気さくに声をかけて呼び止めた。
「もし、少し物を訊ねたいのだが」
「え? あたくしですか。へえ、なんでございましょ」
朔之丞を通り過ぎようとして声をかけられた男は、不思議そうにきょとんとした顔で、しかし素直に朔之丞の傍に戻ってきた。
「今朝、ここに死体があったのは知っているか」
「あ、へえ、存じ上げております。どこぞのお武家さまとか、その程度ですけども」
「おそらくその武家が殺されたのは昨日の戌の刻より少し前と思われるのだが、見つかったのは朝方だ。それまで騒ぎにならなかったのが不思議でな」
「いやあ
……
この辺りじゃあ、往来ですっ転んでる野郎なんぞ珍しくもなんともございませんで」
男は頭をぽりぽり掻きながら言った。
「四郎兵衛の奴が血相を変えて番所に行くまでは、それが仏さんだとは、だーれも思いもよりませんで。ここはこの通り、表通りじゃございやせんから」
「そうか
……
、いや、引き留めて相すまぬ。礼を言う」
「へえ、ごめんなすって」
男が朔之丞から離れていく。朔之丞は改めて殺害現場を眺めた。ここは裏路地の中でも更に入り組んだ場所になっているので、表通りから覗き込んでも死体は一見では発見されない。朔之丞がこうして立っていても、通りがかったのは先程の男一人のみだ。遠くの方に視線を上げれば、時折人影が行き来するのが見えるが、皆一様に、朔之丞の方をちらりと一瞥するだけで、まるでそこに何があったかなど気が付かなかった素振りで立ち止まろうとさえしない。
朔之丞は嘆息した。
有竹が朔之丞に伝えようとしていて、またそれを知られたくなかった者が、有竹を咄嗟に口封じする程の事とはなんだろう。
先程から折に触れて何か思いつかないかと脳内をさらってみているが、特にこれといったものは見受けられない。また、有竹の死体に、下手人を指し示すようなものもない。事件の目撃者を探そうにも、この通りに面した窓は無く、表の喧騒が賑やかであればあるほど、裏での物音はあってなきが如しだ。
豊部家の次男で、婿養子にさえ出されなかった有竹は、絶対的な味方がいない一方で、殺したいほどに恨まれ憎まれるような相手もいなかったはずだ。勘定方でも、仕事をするにあたり、有竹が面倒事を起こしたという話も聞かない。同時に、何事か尽力して後山を助けた、という話も聞かない。
有竹と関わりのあった人間関係からは、何某かの手がかりは得られそうにもなかった。また、飛び抜けるほど優秀ではなかった有竹が、とてつもなく重大な情報を持っていたとも思えない。もしそうであるならば忍者隊が動いていない筈はなく、そして忍者隊が動いているならば、何かしら常のそれではないように見受けられる仕事が目付に回ってきている筈だった。
とすると、有竹が持っていた情報は、おそらく勘定方で仕入れることのできる情報だ。しかし、申告される税と実際のそれとの食い違いの有無などを調べる目付と違い、勘定方は主に目付からの情報を基に、何にいかほど金銭を支払うか、またそれがどこの誰の蔵や財布から出されるべきかを決める。勘定方の知っている話は、目付なれば知っている筈のことが多い。そして朔之丞は、目付を仕切る細田家の跡取りとして、それなりの仕事を任され、また責任を負う立場だ。この観点から考えても、有竹が朔之丞に何を言おうとしていたのか、皆目見当もつかない。
この一件は、下手人不明のまま、片付けるしかないのだろうか。有竹の所持品は全て無事だったから、物取りとも考えにくい。
───一度城に戻って、誰ぞに相談した方がよいかもしれん。
斜陽が目に眩しい。空は橙色に染まり、高洩町は徐々に微睡みから目を醒まして、客を出迎える準備を始めている。他方、城下のほとんどは一日の終わりを迎えようとしている。朔之丞が細田家の屋敷に戻ったところで、誰も咎めるものはいないだろう。
朔之丞は迷った。屋敷に戻るか、城でまだ調べられることを探すか。
「あれ?」
「、ん?」
反射的に、声のした方を振り返る。特徴的な丸い目に太眉の若者を見て、朔之丞は、おや、と瞬いた。
「貴殿は、確か。えーと、妹の」
あぁ、と若者が小さく首肯した。
「そうです。あなたは、奥方さまの、兄上さまではないですか?」
その一言で、彼が忍者隊に連なる者だと察した朔之丞は、若者に改めて向き直った。
「うむ。細田朔之丞と申す。妹がいつも世話になっており申す」
「え! あ、いや、こちらこそ
……
」
まさか丁寧に頭を下げられるとは思っても見なかったのか、若者は慌てた素振りで姿勢を正し、こちらも礼を返した。
朔之丞は顔を上げ、改めて若者を見遣った。若者は特徴的な忍び装束ではなく、どこにでもいそうな町人風の筒袖に絞り袴を身に纏っている。そして若者の方から声をかけてきたということは、人目につく往来でも今は話してもよいということなのだろうが、以前、忍者に名を聞くのは控えて頂きたいと迂遠に咎められたことが思い出され、朔之丞は二の句に迷ってしまった。一方、若者は少し不思議そうに小首を傾げた。
「こんな時間に、どうしてこんなところに? 今日はくれ屋も、あけ屋も閉めるそうですよ」
「ああ、そうなのか。まあ、昨日あんなことがあったばかりだからな
……
」
若者が瞬く。一歩朔之丞に踏み込んだ若者に合わせて、朔之丞も少しだけ背を屈めた。
「ということは、昨日の豊部の件をご存じで?」
「あぁ、知っている」
「もしかして、調べに来たんですか? この件は目付にて預かられるということでしょうか」
「あ、いや、違う。私が個人的に気になっただけでな」
「?」
手を振って否定した朔之丞に、若者は不思議そうに片眉を寄せた。隠すことでもないので、実は、かくかくしかじかこういうわけで、と昨日の豊部との会話を端的に伝える。若者は、なるほど、と頷いて腕を組んだ。
「うーん。
……
では、今からお時間いただいても良いですか?」
「時間?」
「はい。ついてきてください」
朔之丞が場所と由縁を聞く前に、若者は踵を返してしまった。慌てて後を追うと、若者は人の合間を縫うように進んで行く。誰も彼も若者を避けようとせず、しかし若者はそれを当然として、紛れるように移動する。ともすれば見失ってしまいそうで、朔之丞は若者の後を追うのに集中しなければならなかった。
若者は表通りから裏路地に移動し、何度か角を曲がった後、小さな暖簾のかかっている戸を開けて、朔之丞を先に通した。敷居を跨ぐと、出汁のよい香りがふっと鼻先を擽る。店内は朔之丞が今まで見てきた料理屋と違い、店主の料理する場所が中央に設置され、それを取り囲むように座席が用意されていた。手元に並べられた包丁を使い分け、青物を切り、魚を捌いている店主は、朔之丞達の方を見ようともしない。
「こちらです」
若者も店主に挨拶さえせず、朔之丞を店内の奥の方にある階段に促した。朔之丞は戸惑いながら、ひとまず店主に「邪魔をする」と声をかけて会釈をしたが、横から若者に「早く」と急かされてしまった。
階段を上がる途中、上の方から、「あれ?」と声がする。聞き覚えのあるそれに、朔之丞は伸びあがるようにして階上を覗き込んだ。しかし、一見すると、間仕切りもない開けた部屋には誰もいない。
かと思いきや、音もなく、闇色の装束がどこかから降り立った。その背後に、またもう一人雑面をつけた者が降り立って、朔之丞達を出迎える。顔を上げたその人を見て、朔之丞は「あ、」と口を開けた。
「これは、雑渡殿。押都殿も」
「義兄上殿ではありませんか」
装束の下に包帯を巻いた隻眼の男が、物珍しそうにまじまじと朔之丞を見つめる。私がお連れしました、と朔之丞の背後から若者が言った。
「はあ、そりゃまたどうして」
「それも含めて、ご報告させて頂いて宜しいでしょうか、組頭」
朔之丞がひとまず若者の報告を先に聞くことにした様子を見て取って、四人は車座に腰を下ろした。
「まず、組頭の予想通り、実際に豊部が殺されたところを見た者はいませんでした。しかし、不審な音を聞いた者はいました」
「不審な音?」
「はい。誰何の声、おそらく肉を斬る音、断末魔のようなもの。それから、『あれはどこだ』『あった、これだ』という会話があったようです」
若者の報告を聞いて、朔之丞は内心舌を巻いた。通りがかった町民一人に話を聞いて、城に戻ろうとしていた自分とは天地の差だ。
「会話が聞こえたのは、宵五つ
……
戌の刻の鐘が鳴る前だったとか。そして、豊部の殺された理由ですが
……
」
若者が朔之丞に視線を移す。受けて、朔之丞は昨日の有竹との会話を、雑渡と押都にも語って聞かせた。話を聞いた押都は腕を組み、雑渡は頬に手を当てて「なるほど」と独り言ちた。
「義兄上殿の方は、何かお見掛けした物や事はございませんか」
「私の方では、特に何も」
ふうむ、と雑渡が思案する素振りを見せる。
「何者かによって殺された豊部有竹は、義兄上殿に何某か伝えようとしていた。そして、豊部有竹を斬った者は、有竹の持っていた何かを奪って行った
……
」
「有竹程度の者が、殺されてしまうほどの物を持っていたとは思えませんが
……
」
「細田殿の前だぞ。口を慎め」
若者のあっさりとした言葉に、雑渡が幾分か声音を落とす。若者は肩を跳ねさせると、すぐに手指をついて「申し訳ございません」と低頭した。
「ご無礼を。なにぶん、若輩でございまして」
「構いませぬ。思うところは同じでございます故」
気遣わしげな雑渡に、朔之丞は苦笑した。見たところまだあどけなさの残る若者は、叱られたこどものように身を縮こまらせている。朔之丞は改めて、雑渡に向き直った。
「雑渡殿。つかぬことをお伺いするが」
「はい。なんでしょう」
「貴殿らがこの一件について動かれているということは、殿自ら此度の件について、何か仰っておられるのか」
「
……
さて」
雑渡が小首を傾ける。朔之丞は片眉を寄せて雑渡を覗き込んだが、年上の義弟は飄々として言った。
「しかし、我らの財布を預かる勘定方に不審死を遂げた者がいるとなっては、黙って見過ごすわけにもいかぬでしょう」
「
……
左様か」
これ以上追い縋って聞いても、おそらく雑渡から引き出せる情報は無いだろう。忍者隊はその特性から目付と共に仕事をすることが多いとはいえ、直轄しているのは細田ではなく、黄昏甚兵衛その人だ。雑渡は、直々に甚兵衛の命を受けて動き、時には目付たちを置き去りにして、二、三手先を行くことがある。
朔之丞は、雑渡の濁した回答の意味を、ほんの数瞬思案した。
「
……
豊部殿の伝えようとしていたことについて、私にも心当たりはない。明日、勘定方に当たってみるつもりだが」
「御同行させていただいても?」
「御随意に」
「かたじけない」
それきり、雑渡が口を噤む。微かな沈黙の意味するところを正確に受け取って、朔之丞は嘆息しながら腰を浮かせた。
「おそらく該当すると思われる帳簿は三番の棚に。棚の戸には仕掛けがございますが、田の字の順に板を動かすと開きます」
では、と朔之丞が一礼する。雑渡も低頭を返し、押都と若者もそれに倣った。階段を下りる朔之丞の顔が見えなくなる瞬間、朔之丞が視線だけを雑渡に寄越して小さく笑っているのを見留めて、雑渡も思わず口元を緩ませた。
やがて、階下の引き戸が開閉される音が聞こえる。あからさまに肩の力を抜いた若者───尊奈門が、はて、と不思議そうに首を傾げた。
「さっきの、急に何だったんでしょう?」
押都はゆるりと雑渡を見遣った。嘆息した雑渡が、「まだまだだな、尊奈門」と低く呟く。尊奈門は弱冠不満そうに、ええ? と眉を寄せた。
今回の件は勿論、黄昏甚兵衛の耳にも入っている。勘定方は、タソガレドキが今後、どの分野に財力を継ぎ込んで何に注力するかについての情報がこれでもかと集積されている。豊部が何かしらの情報を朔之丞に伝えようとして、おそらくそれに関わるだろう何かが奪われたとあっては、最悪、タソガレドキの今後の軍事情報などが漏洩した可能性も捨てきれない。
だが、甚兵衛は、調査の命を、忍軍に下した。忍者隊について承知であり、領内外の規律を司る目付に対しては、未だ何の沙汰も無い。事件が発覚してから一日が経過しても尚、黄昏甚兵衛が目付に指示を出さず、その一方で忍軍に調査をするよう指示をしたということは、甚兵衛が、勘定方に情報を連携している目付に対しても疑惑の目を向けている、ということでもある。
朔之丞は、あの数瞬の沈黙だけで、雑渡の背後にいる甚兵衛の思惑をすべて察して、その上で、我らに痛む腹など無し、ということを、ここまであっけらかんと示して見せたのだ。
なるほど、あの親にしてこの子ありである。雑渡は口端だけで笑った。
◆
草木も眠る丑三つ時。
城下町の灯りは最低限に落とされている。タソガレドキ城も塀の周りの松明だけは煌々と燃えているものの、他に灯りは無い。
城内は暗く、また星や月の光が届かない場所は、一寸先までとっぷりとした暗闇が揺蕩っている。その暗闇を照らすのは、城内を定期的に巡回する見張り番の灯りだけだ。
見張り番は、静まり返った廊下をゆっくりと進み、時折立ち止まって、暗がりに何も潜んでいないか、灯りが遠くまで届くように辺りを照らす。
灯りが足音と共に通り過ぎた直後、一層濃度を増した暗闇の中で、影が動いた。
暗闇を伝うように移動する影は、やがてとある部屋に音も立てず侵入する。
部屋には文机が均等に並べられ、それぞれに算盤が置かれていた。文机の傍に置かれた盆には、何事か記された書類が束になって収まっている。影は部屋の奥にある襖を開けた。等間隔に並べられた棚に、書物が平積みにされて置かれている。手始めに一番近くにあったものを確認し、ついで隣のもの、そして更にもうひとつ隣のものを確認した影は、次いで少し離れたところの書物を手に取り、ぱらぱらとめくって中身を確認した。
同じことを何度か繰り返し、来た時とまったく同じように戻してあるのを確認すると、影は再び暗闇を伝って移動した。
次いで侵入した部屋は、先程と同じような造りの部屋だったが、襖の奥には、表と裏にそれぞれ引き戸のついた棚が等間隔にびっしりと並べられており、書物は立てて収納されていた。影は、三、と記された棚の、引き戸の取っ手の傍の木を動かし、少しだけ動かして問題ないことを確かめると、一気にすべての戸を開け放した。周囲の気配を窺いながら、書物の幾つかを手に取って、ぱらぱらと流し見る。常人では絶対に読めない文字列を、影の双眸はしっかりと追いかけて記された内容を頭に入れていた。
その視界の端が、ふっと明るくなる。弾かれたように、影がぱっと顔を上げた。
見張り番の灯りが近付いてきている。
同じ主君を頂いていても、今の影は一見すると、ただの侵入者だ。余計な揉め事を起こすのは避けたい。
手に持っていた書物を、静かに素早く、棚に戻す。灯りが強くなり、足音まで聞こえるようになった。
床が軋む。
見張り番の手にしている灯りが、障子の向こうを照らす。見張り番は気紛れに障子を開けて、中を検めた。
そこには、棚が均等に並んでいるだけだった。
隠し扉から城の裏側に移動した影───高坂陣内左衛門は、覆面を降ろして小さく一息を吐いた。縦横無尽に行き交っている梁と柱の間をひょいひょいと移動し、高坂は小さな坪庭に面した廊下に出た。足音もなく進み、とある部屋の前で膝を着くと、「戻ったか」と中から声がかかる。は、と一言短く返事をして、高坂は障子を開けた。
「ご報告いたします」
部屋の中には、雑渡と山本、そして押都が揃っていた。手招かれて部屋に入った高坂は、少しだけ声を落として早速報告を始めた。
「組頭の御指示通り、勘定方と目付の保管しているこれまでの予算配分や検地、年貢の記録などを確認して参りました。御推察の通り、目付の記録に比べると、勘定方のものは一部欠落がございました。また、少々不可解な点もございました」
「欠落の方から聞こうか」
「はい。勘定方の記録から欠落していたのは、普請などの予算配分にまつわるもので、特に豊部に関わるものかと」
「言い切れるのか」
山本の問いに、高坂は首肯した。
「今後幾つか予定されている治水、および橋、神社、および仏閣、その他街道の普請には、豊部を含めた幾つかの武家が関わっている筈です。そこから豊部のものだけが、一部欠落していました」
「なるほど
……
」
「では、不可解な点というのは?」
押都が問う。高坂は少しだけ眉根に皺を寄せた。
「私の算盤勘定に誤差があるとも存じますが
……
目付の記録を信ずるならば、豊部にかかる負担が、他と比べて些か軽いように思えるのです」
◆
翌朝。
太陽が山の端から完全に顔を出そうという時分になって、大勢の足軽たちが隊列を組んで、タソガレドキ城を出発した。
向かう先は武家町、目付監察細田家屋敷である。先陣は近衛衆が甲冑を着込んで全体を率いている。
一方、こんこんと眠っていた朔之丞は、自分を揺さぶる不快な感触に、急速に意識を浮上させた。
「若様、起きてください。若様」
「ン
……
なんだ、まだ日も顔を見せておらぬのに
……
」
「それが、皆さまお揃いでございまして」
「はあ
……
?」
とにかく起きてくださいと言う三隈に、身に覆いかぶさる眠気を気力で振り払い、なんとか起き上がる朔之丞。みなさま? と首を傾げ、三隈に羽織を着せられ、部屋の外に顔を出そうとすると、ほとんど同時に「おっ、起きたか」と同輩たちが揃ってどやどやと姿を見せた。
「信? お前達まで
……
、ウチで何やってるんだ」
「俺達もよく分からん。何か知らんが叩き起こされて、細田の屋敷に行けと槍を向けられてな」
「やり?」
「───これはいかなる狼藉ですか!!」
遠くからはっきりと轟いた怒号に、朔之丞たちはびくりと肩を跳ねさせた。三隈が一人、申し訳なさそうに顔を顰めている。
「おーおー、藤山が大噴火してら」
「お前達、何をしたんだ?」
「って、そこで俺達かよ」
お前達じゃないのか、とあくまでまっすぐ同輩たちを見つめる朔之丞に、小野信右衛門が口をへの字に曲げた。
「俺達じゃない。目付に勤めている者達が細田の屋敷に集められて、沙汰があるまで外に出るなと言われたんだ」
「なに?」
「大殿の御下命らしい」
甚兵衛の命令と聞いて、朔之丞は片眉を持ち上げ、顎を引いた。
門にほど近い土間の辺りでは、藤が今にも薙刀を振り回さん勢いで眦を吊り上げ、凄まじい剣幕で近衛衆たちを一人で迎え撃っていた。
「大殿からの御下命など、畏れ多くも大殿におかれましては、なんたる見当違いであらせられるのか。突然大義名分もなく来られて槍を向けられるとは、そなたらの主君は我らが忠義を何と心得ておられるのか!!」
妙齢の婦人の一歩も引かない剣幕に、近衛衆たちはうっかりたじろいだ。その様子を見て、足軽たちも思わず顔を見合わせてしまう。
「そなたらが答えられぬとあれば、これがいかなる由縁か、私が直接大殿にお伺いさせて頂きます。さあそこをお退き!!」
「お藤。ちと待て」
腰の引けている近衛を庇うようにして、朔之丞が藤の前に割って入る。藤は落ち着くどころか、更に怒声を張り上げた。
「今更起きてきて、なにが『ちと待て』ですか!! これが戦なら、あなたはとっくに首だけになっていると心得られよ!!」
「うん、分かった。そうだな。心得ておく」
「肝に銘じなされ!!」
「分かった。分かったから。それより皆に飯を食わせてやってくれ」
「あなたは私を飯炊女とでも思っていなさる!!」
途中から、三隈が藤の噴火を引き取った。怒気が遠のいていく様を、近衛たちは呆気に取られて見送った。
「すまぬ。驚かせたな」
「、あ、いや」
「で、殿からはなんと」
瞬いた近衛が姿勢を正す。
「これより後、沙汰があるまで、目付に勤めている者達は全て細田家の屋敷内で待機せよ。その間、外出は許さず、必要なものがあれば我ら近衛を必ず通すように。また、外部との連絡も一切禁ずる。くれぐれも、自刃など、早まった真似はせぬように、とのお達しでございます」
「承知仕った」
一礼した朔之丞が、あっさりと踵を返す。てっきり多少の狼狽や戸惑いを見せるだろうと思っていた近衛たちは拍子抜けした。
他方、朔之丞の帰りを出迎えた同輩たちは、朔之丞の冷静が伝播したのか、すっかり落ち着いている様子で、出された食事を勢いよく掻き込んでいた。
「お前のとこの漬物、相変わらず美味いな」
「ッアー、この味噌汁、とても美味い。これぞ実家の味というやつか」
「小野、お前、細田の屋敷に馴染みすぎだぞ」
馴染み具合なら皆が皆、信右衛門とどっこいどっこいのいい勝負である。朔之丞は一瞬半眼になって遠くを見晴かしたが、女中が膳を出してくれたので、皆と同じように腰を下ろした。
「で? 俺達これからどうなるんだ」
「どうもならん。しばらくこの屋敷でゆっくりしていろ」
「ゆっくりって言ってもな」
皆がちらりと藤の方を窺う。藤は先程の怒り心頭から一転、まんじりともせず、険しい顔で口を噤んでいる。青年たちは、身を寄せ合って声を潜ませた。
「このままでは、お取り潰しの可能性もあるんじゃないのか」
「おいおい、巻き込まれて切腹とかごめんだぜ」
「俺もだ。この屋敷、抜け道とかあるのか。どうなんだ、小野」
「何故そこでおれではなく信に聞くんだ。いいか、取り潰しなどということにはならない。少ししたら、近衛も退散する」
「随分言い切るな」
「少しって、どのくらいだ?」
朔之丞が動きを止める。そうして思案する素振りを見せた。
「豊部まで、ここから行って帰ってくるとして、急げばどれくらいかかると思う」
「豊部? 豊部って、後山の領地のか」
「お前、分かるか?」
「さあ
……
一日半かそこらじゃないか?」
皆の視線が、朔之丞に集まる。朔之丞は、ず、と味噌汁を啜った。
「じゃ、早くて三日、遅くて五日だな」
「?」
「何がだ」
「だから、近衛の帰るのが、だ」
「なんで豊部が関わってるんだ?」
「この間、高洩町で殺されたのと、関りがあるのか」
「ある。と、思う。だが、詳細はおれにも分からん」
朔之丞の言葉に、青年たちは互いを見交わした。誰ぞが口端を下げ、誰ぞが肩を竦める。
「じゃ、しばらく世話になる」
「あとで布団出すか」
めいめい己の暮らしやすいようにいろいろやろうと言い出す中、朔之丞は、蔵を開けて、足軽たちに軽食でも振舞ってやるよう、女中に指示を出した。
一方、時を同じくして、後山の屋敷も同じように近衛衆により封鎖されていたが、細田の屋敷と違い、上へ下への大騒ぎを起こしていた。ある者は今ここで戦おうと言い出し、ある者は腹を詰めると言い出し、ある者は屋敷に火を放とうと言い出すものもいた。固く閉ざされた門扉の向こう、後山家と彼らに仕える武士たちが喧々囂々と己らの意見をぶつけ合っているのを横目に、五条と高坂は後山家屋敷に侵入した。
屋敷じゅうの廊下を下男や下女、女中が駆け足でどたどたと行き交っているので、下手に屋敷に近付くことはできない。しかし、彼らの視線は主に門扉の外、塀にそって屋敷をぐるりと囲んでいる足軽たちと近衛衆に向けられている。素早く屋根に上った二人は、姿勢を低くして、そこだけがぽつんと切り離されたかのように人気の無い離れに移動した。かつて豊部有竹にあてがわれていた部屋である。
高坂が部屋の外に残り、五条が中に入った。板間の離れは大して広い部屋でも無かったが、屏風が置かれて部屋を半分に仕切っていた。屏風の向こうには畳が一枚敷かれている。ここで寝起きしていたのだろう。
寝間に長持ちなどがないのを一目で確認し、五条は文机の傍に移動した。長持ちや唐櫃を、音を立てないようにして開け、中身を物色する。季節の着物に、網代笠や藁で編まれた合羽などがあり、その中に紛れるようにして、簡素な文箱がしまいこまれていた。五条は文箱の中身を検めて、ここ最近やりとりされたものが残っていたことを確認すると、覆面の下で小さく笑った。文を幾つか懐に収め、矢羽音で高坂に合図し、二人は手早く脱出した。
高坂と五条が後山の屋敷に侵入している頃、反屋と椎平、そして尊奈門は、後山の治める領地に向かって山中を駆け抜けていた。面倒な関所での取り調べを避け、有竹の死を豊部に報せる馬に追いつくかどうかというところで、豊部の領地に入る。
豊部の屋敷は、所謂武家造りである。城ではないが、出城並みの規模と広さを持ち、かつ耐久性に優れている。豊部の屋敷には、戦の際は山城のように機能するような設計が特に施されていた。敷地の周囲を囲むようにして二重、三重に板壁が置かれ、ところどころに狭間と見られる穴が空いている。等間隔に見張りも立っており、一見すると死角がほとんどないように感じられる。反屋と椎良は山の稜線に沿って移動し、尊奈門は二人と別れて反対方向へと進んだ。近くの枝葉を集め、種火を起こし、息を吹き込んで火を熾す。枝葉を重ねて更に息を吹き込むと、はっきりとした煙が立ち昇る。尊奈門は簡素な焚火の周囲に手早く百雷銃を仕込むと、すぐにその場から跳躍して距離を取り、反屋と椎良に合流した。
「
……
あ? おい、あそこ、煙じゃねえか」
「うわ、ほんとだよ。おおい!! 誰か砂持ってこい!!」
「水も用意しろ!!」
山火事は足が速い。煙の状態で素早く鎮火しなければ、豊部の屋敷とて無事では済まない。どやどやと人が集まりだして、───百雷銃が火を噴いた。
銃による一斉掃射のような音が山じゅうに木霊する。驚いた獣たちが叫び、すわ敵襲かと腰を抜かした見張り達が音のした方へ一斉に集まった。
自分たちの侵入経路に人気がなくなったのを確認して、三人は順番に敷地内に潜入した。すぐさま三手に別れ、椎良は蔵へ、反屋は屋敷内へ、そして尊奈門は全体を見渡せる屋敷の屋根に、へばりつくようにして身を伏せた。
「何事だ、騒がしい」
「はっ、急ぎ確認して参ります」
「何があった!」
「何者の仕業か」
「いえ、それが人影はなく
……
」
「探せ! 遠くへ行ってはいまい」
はっ、と足軽たちの声が揃う。戦時ほどではないが、それなりに数が揃っている。尊奈門はさっと辺りを見回し、足軽の数をざっと確認した。
平時にこれだけの足軽を抱えようと思うと、かなりの出費になる。しかし、どの足軽の顔色も決して悪くなく、敷地内に漂う雰囲気もどことなく落ち着いている。飢えていたり、何かが損なわれているとき特有の、陣中のような険しさがない。衣食住をしっかり与えられている証左だろう。
蔵に侵入した椎良は、整然と並べられている品物を見て、思わず内心感嘆した。米俵が幾つも積まれている他、長柄、刀、鎧、銃、大砲など、今から城のひとつやふたつでも落とすのかというほど、物資が充実している。また、蔵の特に奥まったところへしまいこまれていた箱を開けると、後山の領地では採取できない筈の砂金がぎっしりと収納されていた。椎良は砂金を一袋、それから米俵の傍に落ちていた、「大和田」「百地」と書かれている木片を拾い上げ、蔵から脱出した。
反屋は天井裏を移動し、表の騒ぎに引き寄せられて誰もいなくなった部屋の天井から、ひょこりと頭を出した。足音や気配が遠いのを確かめて、音も無く部屋に降り立つ。文机や床の間の傍に置いてある箱を手早く検めて、反屋は血濡れた書物と、その書物の内容が書き写されている書類の束と、豊部有竹から送られたと見られる文を発見した。文箱を元に戻してから書物などをまとめて懐に収めて跳躍し、反屋は天井裏に姿を消した。
入れ替わるようにして、屋敷内に、小さな焚火を消火した足軽たちが戻ってくる。板塀の周囲にも見張りたちが戻り始め、塀のほとんどを占めていた死角が、少しずつ塗りつぶされて狭くなっていく。尊奈門は、二人に聞こえるように矢羽音を発した。
「周囲に人影はなく、また先程の音を出せるようなものも見つかりません!」
「そんなはずはあるか!! もっとよく探せ!!」
「はっ、」
「しかし、どこにも曲者の影はありません!!」
「よく探せと言っている!!」
尊奈門が仕掛けた百雷銃は軽く、また燃えやすい材質でできているため、足軽程度にはその痕跡を見つけることはできない。豊部の采配に、内心で下手糞と毒づいて、尊奈門は二人から発された矢羽音を聞いた。瞬いた尊奈門はサッと懐から焙烙火矢を取り出すと、流れるように足で導火線に火を着けた。音を聞いて着火を判断し、狙いを定めて投擲する。着弾したのを確認して、尊奈門は身を翻した。その向こうで、焙烙火矢が派手に爆発する。
悲鳴と怒号が飛び交う中、尊奈門は堂々と足軽たちの背後を駆け抜けた。板塀の傍で待機してくれていた二人の手足を借りて、尊奈門が先に脱出する。その後に反屋と椎良が続き、三人は大騒ぎになっている豊部屋敷から難なく脱出した。
五条が発見した文、そして反屋が回収した文を照らし合わせると、今回の事の発端は有竹からの手紙だということが発覚した。
有竹の疑問は些細なものだった。後山からは豊部本家は火の車とはいかないまでもそれなりに苦しい財政で、近く殿に年貢の赦免を願い奉る話さえ出てきているのに、有竹には「豊部本家が金を出すから、どこぞの姫君と婚姻を結ばないか」という話が来ていたからだ。目付から連携される情報に豊部に不作の文字は無く、また自然災害の記録も無い。食い違う話を、どういうことだと文で確かめると、「本家を助けるためと思って、気が付かなかったことにしてくれないか」と返事があった。有竹はここで、豊部本家が後山に対し、ほとんど偽りを述べていることを確信した。豊部本家は普請だのなんだの様々なところで問題が生じ、目付の調査通りに年貢を納められないと後山に申し立てて、予算について特別な配慮を貰い、実際の費用負担を軽くすることで、私服を肥やしていたのだ。
有竹からの諾の返事がないことに焦れた豊部本家は、城中に勤めている遠戚に連絡を寄越し、有竹を見張らせ、いざという時の判断を委ねた。有竹は自分が監視されていたことに薄々勘付いていたために隠れて朔之丞と会おうとしたが、却ってその動きが目立ってしまい、高洩町で殺された。また、証拠となる帳簿の記録は有竹の血で染まってしまったため、豊部本家に持ち帰り、複製したものを勘定方の記録棚に戻そうという心算だったのだ。
◆
五条達が回収してきた物的証拠を元に、後日豊部家は取り潰しの沙汰を受けた。当主並びに有竹の兄は屋敷で切腹、正妻たちが後を追い、有竹の兄の幼い娘は恩赦を受けて後山に養子として引き取られた。
監督不行き届きとして後山は数日謹慎し、その間の仕事は特にお咎めのなかった目付たちが代わりに実務を担当することとなった。
目付は、ちょうど各地の視察から帰ってきた朔定が持ち帰ってきた情報の整理や、慣れない勘定方の差配、そして何より豊部が着服していた税の再配分に振り回されることとなり、日の出前に登城し、夜九つの鐘を聞いてしばらく経っても己の屋敷に帰れない日々が幕を開けていた。要するに残業三昧である。
豊部有竹殺害において実際の調査を請け負っていた忍軍には、褒美として豊部の火薬類が八割方贈呈され、武器弾薬の研究や潜入時の費用として、砂金の一部も下賜されることになった。
「収まるところに収まってようございましたな」
予算折衝に苦心するのは武士たちだけではない。降って湧いた経費に、押都の雑面も心なしか頬を緩ませているように見えて、雑渡は微笑んだ。
「気持ちはわかるけど、衝動的な無駄遣いはだめだよ」
「承知しております」
「組頭!」
ひょこ、と顔を覗かせたのは尊奈門だ。その後ろに高坂もいる。二人の手にはそれぞれ高そうな菓子と茶があった。
「これ、奥方さまの兄上さまからです! この間の件の御礼ですって」
押都は小さく嘆息し、雑渡は苦笑した。念のため、目付と勘定方の今後についてちょっと様子を見ておいでと探らせに行ったら、まさか茶菓子を持たされてほくほくの笑顔で帰ってくるとは。修業が足りないと言おうか、これはこれで可愛がられていると言おうか。
「流石は奥方さまの兄上さま。気が利きますねエ」
あ、これ兄上さまから組頭にです、と尊奈門が折りたたまれた紙を渡す。開いてみると簡素な文であり、宛名は義弟殿としか記されておらず、かなりぼかした書き方を
されていた。
───おかげさまで、忙しくさせて頂いております。直接お礼を申し上げられないご無礼をお許しください。有竹殿も浮かばれていることでしょう。
さらりと書かれたそれに、雑渡は喉奥をくつりと鳴らした。見るともなく視界に入ってきたそれを確認した押都が、声音を落として雑渡の方に姿勢を倒す。
「人をやりますか」
「いいや? いーんじゃない、べつに」
雑渡は紙を放って、菓子のひとつを手に取った。高坂の入れる茶は、湯を少し注いだだけで香りが立って、余程いいものなのだと察せられる。
先程の文に書かれていた言葉は、「ただでさえ忙しいんだからこれ以上手間を増やさないでもらえますか」「あんた達の仕事は終わったんだから、茶菓子でもしばいていてください」ということでもある。まんざら文面そのものが嘘の気持ちでもなさそうなところが、彼の人徳を感じさせた。
「余計に気を遣うでしょ。義兄上殿は頭いいからね。大丈夫だよ」
隻眼を撓ませる雑渡に、押都は嘆息して、肩を竦めた。
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