望月 鏡翠
2025-11-17 21:27:47
1040文字
Public 日課
 

#1909 リュネストの領地で、ある日のこと9

#毎日最低800文字のSSを書く/我らが王の身罷りて 二次創作

 商人とのやりとりは簡単ではない。
 こちらが何かをして欲しくないといえば、そうすればトルガの陣営に痛手を与えられるのだという情報を敵に囁きに行く。そうしてニコニコと微笑んで、他方には物を売りつける。
 一筋縄では行かない相手だ。
 金になるのなら、なんでもするだろう。
 プライドはもちろんあるが、商人が追いかけるのはまず利益だ。
 そういう意味では、貴族より簡単な相手とも言える。利益をちらつかせてやれば彼らは必ずそれを取る。
「試しもする。情報も、商品も人も、持つべき者が持たねば消費される一方だからな」
「商人としても名を挙げていたトルガ様に、見込んでいただけるとは光栄です」
「やめろ、過ぎた賞賛はむしろ嫌味だぞ」
 商人の心にもないお別科を手で払う。
「それで、何を教えていただけるのですか?」
「今後、売買を制限する品だ」
 商人ならば市場の動向を左右する情報は手にしたいことだろう。わかっておけば、他のものに先んじることができる。
 そも、規制がかかる品があるという時点で商人の顔色が変わった、
「それはいつ頃から」
「それも情報のうちだろう?」
 商人は考えているようだった。こちらの情報が大した価値ではない可能性もある。トルガの欲しがるものを手にしているという優位を手放してまで、聞き入れる必要があるのか。その損得を考えているのだろう。
「今この場で私との会話から上手く情報を聞き出せるというならそれもいいだろう。わざわざ面倒な交渉ごとをする必要もなくなるぞ」
 会話を長引かせて失言を誘って、少しでも情報を聞き出そうとしている。
 見透かしたように冗談めかすと、観念したように商人は脱力した。
「仕方がありません。せっかくの申し出ですから、お受けしましょう」
 商人はトルガが想定していたよりも早く折れた。てっきりもっと粘ると思って、次の手札も用意していたのだが切らずに良さそうだ。いざとなったら、輸入した穀物に関しては供出という扱いにして、税をかけないという措置を取ることもできた。そうなれば、彼は純粋に商品の売り上げだけを手元に残すことができるようになる。悪い話ではないはずだし、トルガのところとのみ商売をするメリットも生じる。
 だが今回使わなかったのなら、この手段は次回交渉のカードとして使うことができる。
 この国動乱が落ち着くまでどのくらいの年月を要するのか、誰にもわからない。それまでに何度もこうして商人たちと交渉することになるのだろう。