白殊皎(しらよし こう)
2025-11-17 20:00:00
4010文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

拈華のみでは伝わらぬ

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
近藤さんが土方さんは自分のどこが好きなのか考える話。

言わないとわからないこともあるのです。

──歳は私のどこが好きなんだろう、何故こんなに尽くしてくれるのだろう。

 ある日近藤勇はそんな思いに囚われた。
 自分が新たな主の召喚に応じてからまだ日は浅いが、生前えにしをつないだ新選組の隊士や他の英霊達の支えもあって、かなり馴染めてきたと思う。
 その中で自分に世話を焼いてくれている最大の人物と言えば、まず間違いなく土方歳三が挙げられる。
 彼は随分前から今の主の召喚に応じ、その戦闘力の高さに加え、狂戦士バーサーカーという位置づけにも関わらず、理性を持った戦略家として数多の困難を乗り越えることに貢献してきたという。
 生前からそうだった。
 その才があれば、自分など追い越してもっと先まで進めたであろう彼は、最後の最後まで──いや、死して英霊になった今でさえも自分に尽くしてくれている。
 自分はそれに甘え、縋り、いつしか現実から目を背け──最後には裏切った。
 この邂逅では絶対にそうはなるまいと思うのだけど、そう思えば思うほど土方の献身がどこから発露してくるのか気になるようになった。
『あんただからだよ』
 一度本人に聞いてみたことがあるのだが、眩しいものを見るように目を細めてそう言われて終わりだった。

──姿?
 確かに自分は少しは整った顔貌かおかたちと体軀を授かってはいるがそれだけとは思えない。
 それに土方は女性の方が好みのはずだ。
──志?
 生前もそうだったが、今回のマガツヒノカミ騒動の時といい、最後には情に流されたり、すべてに目をつむって投げ捨てたり、はたまた裏切ったりした自分に、土方がかけるほどのものがあるのか疑問である。
──能力?
 個人としての戦闘能力はそこそこある方だとは思う。
 群として皆を導いたりする力もないわけではないが、土方がそこに魅力を感じてくれているかどうかには疑問が残る。
──後は……
 指折り考えてはみるがどれも違うような気がしてその方面の思考を放棄し、逆に自分は土方のどこが好ましいのか考えてみる。
 容姿は男の自分から見ても精悍で、惚れ惚れしてしまう。
 あの鋭い眼光も、ふとした折に見せる笑顔も、知ってしまえば目が離せなくなる。
 性格も竹を割ったように真っ直ぐで、厳しい一面もあるが情には深い。
 最後の最後まで彼について行った新選組の隊士がいたことからも、それは実証済みだろう。
 能力は言わでもがな、個においても群においてもあれほどのものを持つ者はそうはいない。
 剣の腕、軍略の深さ、このカルデアでいうのならバーサーカーという霊基にもかかわらず理性で御することも知っている。
 ならばそんな男が何故──。
 結局はそこに流れ着いてしまった。

「近藤さーん、いますか? いますね! シミュレーションルーム行きましょう〜。沖田さんが稽古をつけてあげますよー」
 そこへスパーンと音がしそうなほどの勢いで部屋のドアを開け、沖田総司が顔を出した。
 土方にもよく注意をされるのだが、また電子錠ロックを掛け忘れていたようだ。
「──総司」
 生前と同じ、いやそれよりも遥かに天真爛漫としたその勢いについ口元が緩む。
「お願いしようかな」
 これ以上考えていても堂々めぐりのような気がして、近藤はその申し出を受けることにした。



「何か考え事ですか? いつもより勢いがないですよ」
 沖田総司との立ち合いは、木刀であっても油断ができない。
 手加減されず一瞬の隙を突かれれば、命すら持って行かれるだろう。
 そんなやりとりであっても、近藤はそれが好きだった。
「そうかい? 全力のつもりだったんだけどな」
 滴る汗を拭い、木刀を置く。
「どうせ土方さんの事でも考えていたんじゃないですかー?」
「──えっ……
 沖田の言葉にドキッとして目が泳ぐのが自分でもわかった。
「ありゃ、図星ですか」
……ま、まぁ、そう、か…………
 自分の肩を木刀でとんとんと叩きながら小首を傾げる沖田にしどろもどろで答える。
「何を悩んでいるか知りませんが、ちゃんと話した方がいいですよ! でないとまた──いえあの時以上に土方さん狂っちゃいますよ。まぁ、今も十分狂ってますが」
 総司はどこまで知っているだろう。
 彼女が戦線を離れた後の自分と土方のことを。
 歴史の流れとして、召喚された時に聖杯から流れ込む知識で知ってはいるのだろうけれど。
「土方さんは近藤さんでなきゃ駄目なんです。他の誰か、はいないんです」
「そう……なのかな。なら、なんで……
 土方を狂わせるほど、自分が何をしたのだろう。
『無自覚って怖いですねぇ……
 思ったより深刻な顔をして黙りこくった近藤に沖田は盛大に溜息を吐いてみせる。
 これ以上自分が言うことは近藤の為にも、土方の為にもならない。
 近藤が、いや土方も──。
 互いに抱いているものが、単なる憧憬程度ですむものではないと自覚しない限り、あの悲劇は繰り返されるであろう。
「ありがとう、総司。もう少し、考えるよ……
 来た時よりも危ない足どりで、近藤は道場を模したシミュレーションルームから出て行った。




「近藤さん!」
 今自分が使っている部屋に戻ったつもりが、そうではなかったらしく気づくと目の前に土方がいた。
「と、し……? なんで……?」
「どうしたよ、なんかあったのか?」
 今日の土方はマスターと一緒に周回に出ていたのだが、戻ってきたら複数のサーヴァントに『お前さんとこの大将が真っ青な顔して彷徨ってたぜ』と言われ、大慌てで探しに来たのだ。
「わからない……わからないんだ!!」
 近藤はそのまま相手の胸に身を投げて嗚咽を始めた。
「近藤さん……ひとまず部屋に……
 土方は近藤を抱き上げる。
「あらぁ、お熱いことやねぇ」
 その様子を通りすがりに目撃した酒呑童子は、鈴のような声でころころと笑ったという。



 すれ違うサーヴァント達の視線も気にせず急ぎ足で自分の部屋に入るとロックをかける。
 そして露に濡れて萎れた華のようになってしまっている近藤を一番座り心地のいいところへ、と寝台に座らせ、自分はその前に膝をついた。
 家具などに無頓着な土方は大して部屋の内装を変えたりしていないからだ。
「なにがあった、近藤さん。言ってみろ。誰かに何かされたのか?」
 もし近藤が他のサーヴァントの態度や言葉でこうなったのならそいつはころす!! と土方は息巻いた。
「──違う、違うんだ……とし……
 炎気を纏ったように揺らめく土方の魔力を見て、近藤は涙を新たにする。
「なんで、お前は。そんなに……私に優しいんだ……なんで……そんなに尽くしてくれるんだ……
「近藤さん──」
 稀有な左右色の違う瞳から、真珠のような涙が零れ落ちる。
『あぁ、俺は、また──』
 それを見て土方は胸の奥がキリリと痛んだ。
「近藤さん」
 立ち上がって腕を伸ばし、抱きしめる。
「俺は……あんたをに言わなくちゃならないことがある」
……?」
 改まった空気に近藤はわずかに意識をそちらに向けた。
「俺は、あんたが……。いや、違うな……
 近藤が少し落ち着いた事に安堵しつつ土方は言葉を続ける。
「俺は──あんたに恋をしてもいいか?」
「え?」
「古のように、純粋に相手をかなしいと思える恋を」
 冗談か、聞き間違いかと近藤が顔を上げれば、ちょうど視線のぶつかる位置に土方の端正な顔があった。
「──あんたは俺よりも遥かに強い。だから必要は無いと思うかもしれないが俺にあんたを護らせてほしい。それが駄目ならばせめて共に歩ませてほしい。今度は──置いていかないでくれ」
 こつり、と土方が額を合わせてくる。
「──これが俺の、正直な気持ちだ。あんたにしか明かさない、真実だ」
……とし」
 聞いて、近藤の瞳に新たな涙が湧き起こる。

──あぁ、これだ、これだったんだ。

 一言、言ってしまえばよかったのだ。
 秘めることなく、己の気持ちを土方に伝えればよかったのだ。

「とし…………!」
 近藤はそのまま土方の胸に飛び込んだ。
「私も……私もお前と恋をしたい……! 私にも……おまえを護らせてほしい。そしてずっと一緒にいてほしい……!! こんど……こそ……
「近藤さん──」

──あぁ、なんて幸せなんだろう、想いあい、心が通じあうということは。

「もう、絶対に離れたくない!」
 背に回る逞しい土方の腕を心地良いものと感じながら近藤は泣きじゃくる。
 それは、近藤の肩口に顔を埋める土方も一緒だった。



──以降ストームボーダーでは、折に触れ見つめあい、言葉を交わし微笑みあう二人の姿がそこかしこで見られるようになった。

「最近ほんっとにお熱いね。なのに沖田ちゃんのご機嫌は上々ときてる。なんかしたの?」
「えー? 何もしてませんよ~。距離は昔から近かったですし、なーんにも変わってないんじゃありませんか?」
「それ言っちゃう? まぁ、昔から距離がおかしいのは本当だけどさ」
「ですです。あの距離で何にも話さないからこじれるんですよ!」
「やっぱりなんかしたでしょ!?」
「し て ま せ ん !」
「はいはい」

 そんな一番隊隊長と三番隊隊長のやりとりもどこ吹く風、通じ合った二人に怖いものはないようだ。
 時には新選組どころか、周囲を思いっきり巻き込んだ大喧嘩も繰り広げることがあるのだが、いつの間にか元の鞘に収まっている。

 おそらくカルデア史上最速で巻き込まれたくないバカップルに名を連ねることだろう。

──それでも、周囲は祝福する。
 すれ違いの果てに別たれることの辛さを知っているから。
 手を取り合い、心を通わせることの素晴らしさを知っているから……