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シノハラ
2025-11-17 00:47:26
3742文字
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レイシオとスクリューガム
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懐古趣味
デジタルワクチン開発をスクリューガムから依頼されるレイシオとレイシオとザンダーについての話
※bilibiliに動画が上がっていた時に作ったネタです
2025/12/13改稿
秘書の手も介さず一通の手紙が手渡され、封を切る暇もなく大量のダンボール箱が届いた。
しかもダンボールの方は第一陣であるらしい。
差出人を確認してから1とナンバリングされた箱を開けると、いっぱいにコピー用紙が詰まっている。
それから遅れて封筒を開けて、簡潔に記載された依頼概要を確認してレイシオは盛大に舌打ちをした。
その音が消えきらないタイミングで、メッセージが二通舞い込んでくる。
一つは大学の運営局からでもう一つはスターピースカンパニーからのものだったが、書いてあることはどちらも似たようなものだった。
要するに、今抱えている仕事も予定も全てうっちゃって、スクリュー星の王の命に従うこと。
元々断るわけにはいかない案件ではあったので、しっかりと根回しをしてくれたのは感謝するべきなのだろう。
ひとまずどう考えても研究室に入りきらないダンボール箱を研究棟の前にある広場に運ぶよう、体力自慢のゼミ生に指示をした。
それと同時に事務局に連絡を入れて、広場の周辺を立ち入り禁止にして間違ってもオムニックが立ち入らないように指示を飛ばす。
ついでに目隠しのテントの設営も依頼してから、一旦通話を切る。
それから研究を介して知り合ったコンピューターウイルスに詳しい研究者やスターピースカンパニーのホワイトハッカー、果ては元教え子まで目ぼしい人物をリストアップする。
その全員に無茶を承知で
――
と言うよりそもそも自分からして無茶を強いられている筆頭なのだが
――
かの天才スクリューガムの名を利用してでも予定を開けて、第一真理大学に集まるよう招集をかけた。
突然の要請に困惑する面々をトークルームに招待して返信しつつ、レイシオは中途半端に目を通していた手紙に再び視線を落とす。
鉄墓の所在の特定とウイルスのサンプル抽出の成功。
そのウイルスの解析とワクチン作成の音頭を取る人物として、スクリューガムはレイシオに白羽の矢を立てたのだ。
能力において他に適切な人物がいないわけでもなかっただろうが、条件に合致する有機生命体はレイシオくらいだったのだろうと思う。
世界で二人だけしか知らない暗号化キーを改めて送る必要がない相手、つまり階差宇宙の起動に使用するキーを知るレイシオが適任だったという事だ。
複数の星から断片的にプリントアウトされたらしいダンボールが様々な運送業者の手を借りてどんどん積み上げられていく端から封を開けていくと、文章の体を成していない文字列が延々と並んでいるのが確認できた。
この一枚一枚が無機生命体を狂わせ、深刻さで言えば雲泥の差であるものの有機生命体にも神経障害を引き起こすウイルスの一端を示しているのだろう。
どういう手法かはともかくとして、前述の通りスクリューガムは鉄墓からウイルスを取り出す事に成功した。
ただ、これらを解析してワクチンを作り出す余裕はなかったらしい。
そうして彼は外部に頼ろうとして、凶行と表現しても差し支えない方法を選んだようだった。
スクリューガムの管理下にあるネットワークはともかく、他所の回線を使う事を彼は憂慮した。
カプセル化していれば問題はないはずだが、リスクが現実化した時の事を思えばやるべきでないというのはレイシオも同意するところだ。
デジタルに問題があるのであればアナログで送りだせばいい、と言うのが彼の結論だったらしい。
スクリューガムの徹底した管理下で暗号化されたウイルスをあちこちの施設で断片的にプリントアウトし、ダンボールに詰め込み研究者の元に送る。
そうして研究者は事前に知っている暗号化キー
――
即ち階差宇宙の起動キーを用い、頭の中で復号化しながら解析に着手をすればよい。
めちゃくちゃな事を言っているとレイシオも思うので、スクリューガムだってそう思われるとは考えていたのだろう。
手紙には協力者の謝礼に糸目をつけるつもりはないと明記されていた。
その条件をトークルームに投下すれば、軽口が多いのが欠点の男が星もらって良いですか? なんて尋ねてくる。
言ってみれば良いんじゃないかと我関せずの反応をすれば、さすがにたじろいだようだった。
どこぞのギャンブラーやナナシビトよりよほど扱いやすくて何よりだ。
本人が本当に欲しがるかどうかは別として、後者ならほぼほぼダメ元で口走っているだろう。
ついでに大学の敷地に入る頃には共感覚ビーコンの電源を遮断すること、と申し付ければあちこちから悲鳴が上がった。
そりゃ学会共通語くらい喋れますけど、効率落ちるどころの話じゃないですよ。
そう、一見建設的な不満が書かれるが、広場まで来てプロジェクト概要を聞けば一様にもう一度悲鳴を上げることだろう。
手紙をもう一枚捲ると、レイシオが想定していた通りの取り扱い方法に現在のスクリューガムの見解、マダム・ヘルタのコメントと続く。
おそらくマダム・ヘルタはスクリューガムにコードを触れさせない代わりに多少手を出してくれたようで、どちらかと言うと彼女のコメントの方を指標にするのが妥当だろう。
――
かつてオムニックは反有機方程式の克服に膨大な時間を費やしました。
しかし、現在の我々であればこの問題は些細な障害にしかならないでしょう。
それが手紙の最後に記されていた言葉だった。
きっとそうだろう、とレイシオは思う。
それは頭脳がどうこうという問題ではなく、スクリューガムの手によって世界が再構成されたと言っても差し支えないからだ。
たとえどれだけこのコードを読み込んだとしても、ビルドして動作していなければ生身の有機生命体であるレイシオにはちっとも恐ろしくない。
もちろん、普段は頼り切りの電子機器にしばらく触れられないのはネックではあると認めなければならないが、理解しただけで処理系統を乗っ取られかねないオムニック達が抱える難題と比べれば些細な事である。
読み切った手紙を封筒に戻しつつ、レイシオは石紋症の血清の完全な分離に挑んだ日々を思い返す。
病の王と名高いそれは有機生命体特有の病であり、無機生命体には縁遠い現象だった。
だからこそとその病の打倒のために積極的に助力してくれたオムニックの数はレイシオの両の手の指では到底足りない。
手紙を厳重に保管しようとして、結局シュレッダーにかけた上で溶解処理を選んだ。
手ぶらになってから研究棟の階段を下り、建物から伸びる影を離れ積み上がるダンボールの下に向かう。
見上げれば空は高く晴れ渡っているのでしばらくは問題ないだろうが、夜が来るまでに照明の申請も必要になる。
タイミングよく異様な状況に気づいたらしい研究秘書が駆け寄ってくるのを見つけてから、レイシオは最初に届いたダンボールの箱から一枚目の用紙を取り出した。
* * * *
「それをどちらに?」
いつの間にか鉄墓から取り出したらしいコードの最後の断片がこの空間の外に零れ落ちるのにようやく気がついて、ザンダーはスクリューガムに尋ねた。
こうなってしまっては直接外に働きかける事はできないので、単に興味を満たす以上の意図はそこにはない。
「あなたが交流している天才クラブの人物ではスティーブン・ロイドが適切でしょうか」
「否定」
ぱっと思いついた人物を述べてみたものの、どうやら外れだったらしい。
ザンダーの状況を適切に理解しているスクリューガムは自分の行動をザンダーに検知された事を気にしていないようで、その口調は一切の乱れはない。
「其の一瞥を未だ受けぬ、全ての生命のための学者の下に。卓越した知を有するという事と現状を打開する力を持つ事は全く別の問題だと私は考えます。そうは思いませんか」
なるほど、と一つ頷いてザンダーはスクリューガムの意見を受け入れた。
それから続く感想を述べるのにほんの少し時間がかかったのは、単純に感傷がザンダーの精神を疼かせたからである。
「この世界の知は今のところ停滞するエネルギーであり、天才はただの鉱夫に過ぎません。そして鉱夫に自らが掘り起こした鉱石を世に流通させられるはずもない。その采配は最適な一手です」
その学者とやらがこの無機生命体の期待に応えられるのか、ほんの少しだけ興味が湧く。
結局のところそれはかの星神の枠組みの内側の物語でしかなかったとしても、スクリューガムが口にした肩書きは在りし日の真理を追究する者の理想を思い起こすものでもあったので。
たとえばかつての私がそうあれたなら、世界は今なお自由なままだっただろう。
そうして自由を享受したまま、朽ち果てていけたのだろう。
現代の価値観を考えればたまったものではないだろうが、ザンダー・ワン・クワバラの人生はそうあるべきだったと思わずにはいられない。
羨望と嫉妬に似た感情が疑似シナプスの隙間に浮かび上がるのを感じながら、私は一人の研究者として何らかの形で結果を出そうとしているオンパロスに意識を寄せた。
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