お芋さん太郎
2025-11-16 23:12:28
950文字
Public ONEPIECE
 

麦わら草子

#ゾロ #サニー号 #エピローグ


春夏秋冬、朝昼晩と賑やかな船内が、この時間ばかりはシンと静まる。

夜の航行がない日は不寝番のひとり以外はみんなそれぞれ寝てしまうから、普段から寝る時間が遅いゾロが当番のときは、この穏やかな時間が少し長い。

滅多にない時間を楽しみながら、沈む月をながめる。
宴でやる酒も良いが、ひとりでチビチビ舐める酒もまた格別だ。

『波を枕に ねぐらは船よ』とはよくいったもので、ゆらゆらゆれる船は全体が揺りかごのよう。
ミシミシときしむロープの音に「わかってる、寝やしねェさ」とマイペースに返すのもいつものことだ。

ふと船室のテーブルに、ロビンが昼間読んでいた本が置いてあるのに気づいた。
ワノ国で人気の、古い日記をまとめた『随筆』という書物らしい。

ゾロは好んで本を読むタイプではないが、村のジジーに――もしかしたら先生だったかもしれない――昔聞いたことがあるような気がして、少しだけ気になった。
拝借して展望室に戻り、グニャグニャと走る文字を追いかける。

春はあけぼの。
夏は夜。
秋は夕暮れ。
冬はつとめて。

四季折々の鮮やかで繊細な描写に、読み始めて10秒で眉間に皺が寄り、13秒でまぶたが落ちた。

咎めるように波が寄せ、揺れた拍子にマストのロープがどこかに当たって音が鳴る。

「ハッ寝てた。悪ィな、サニー」

一瞬のことに飛び起きたゾロは、バツが悪そうに頭をかいた。

3行も読んでないのに、もういいやと本を窓辺に置く。
ロビンにとってはおもしろい本なのかもしれないが、ゾロにとってはたまらなく退屈だった。

小せェ海軍支部の磔場から始まったゾロの新しい日常は、とにかくすべてが刺激的だ。
サニーでの毎日はもちろん、メリー時代も、小舟時代も、騒がしくて愉快で、そこらのヘタな物語よりもずっとドラマチックで。

あふれんばかりのロマンを乗せたこの船にいる限り、どこの誰やも知らない物語に気をとられている暇などありゃしないのだ。
目指すは最果て、玉座のてっぺん。
他の誰にも譲る気はない。

波間の向こうがキラリと輝き、新しい朝を告げた。

夜明けの太陽が顔をあげ、太陽の船首の夜露を光らす。

また今日も始まった。
おとぎ話のようにおかしげで、とびきり自由な日常が。



おわり