お芋さん太郎
2025-11-16 23:10:05
2681文字
Public ONEPIECE
 

秋は夕暮れ

#ウソップ #チョッパー #ほのぼの


紙にペンを滑らせる瞬間が好きだ。
べつに紙じゃなくて布や壁でもいいし、ペンはチョークや筆だってかまわない。

海賊として海を自由に旅するウソップは、キャンパスの上ではよりいっそうの自由を感じる。
インスピレーションが湧くと初めての島を勇敢に進む戦士のように気分は高まり、巨大怪物との激しい戦闘のようにその情熱のすべてをキャンパスにぶつけるのだ。

船で一番のアーティストを自負しているウソップなので、手抜きはしない。
自分の才能を恐ろしく思うばかりである。
本当に。

さて、そんなウソップが船の欄干で休憩する海鳥をスケッチしていたら、無情にも彼らは飛び去ってしまった。

代わりにチョッパーをモデルにしたところ、途中まで鳥を描いていたこともあり、スケッチブックの中のイケメントナカイには鳥足と翼が生えている。
まあギリギリパンクハザードにいそうなラインだしバランスはとれてるので、直しもしないでそのまま続行。

目線を上げると夕暮れのまっ赤な空を、芸術なんて知らない海鳥たちが三つ四つ、二つ三つと陸に向かって飛び急ぐ。
近くに迫る次の島は、秋島だ。

「うおぉぉぉ~! 空が赤ェ~!」
「なんだよチョッパー、大げさだな。ただの夕焼けだろ?」
「違うんだよウソップ! 夕焼けじゃなくて本当に空が」

ボタリ、と重たい音がして。

「赤い……

ウソップの首筋を、血を思わす赤い液体がつたった。

「そ、空が落ちてきた~!!」
「ギャー!!」

夕焼けがそのまま溶け落ちたみたいな、鮮やかな赤だった。
それを頭からかぶったウソップのパニックがそのままチョッパーに伝染。
ふたりが悲鳴をあげているとナミが船室から顔を出し、あきれた顔で言い放つ。

「ああ、それね。『えのぐ雨』よ」
「えのぐ雨?」
「絵具みたいなカラフルな雨が降るのよ。すぐに止むし、人体には影響はないわ」
「あ、そーなのか」
「へー」

どうやらこれもグランドラインのオモシロ気候らしい。
よく見ると赤だけではなく、青や黄色、ピンク、紫と鮮やかな雫が、甲板の芝生に花を咲かせたみたいに彩っている。

まあ怖いものじゃないと分かればこちらのものだ。
むしろ有効に使ってしまおう。
これらを溜めておけば絵具の節約にもなりそうだ。

そう思ったウソップは、急いでチョッパーに指示を出す。

「おい、バケツ持ってこいバケツ! 何か入れるものだ! あとで絵ェ描くのに使おうぜ!」
「お! そうだな、さすがウソップ! えーっと、バケツ、バケツ……
「あはは、無駄無駄! えのぐ雨の色素はバクテリアが分解するから、数十分もすれば消えちゃうの。溜めてたって、絵具としては使えないわ」
「えー!?」
「つまんねー!」

はい、無駄でした!

とはいえ、パステルカラーに染まった甲板をあとで掃除しなくてもいいのは楽で良い。
あとさき考えずに遊んだっていいということだ。

お遊びその1。
自分が蛍光ピンクになってることにも気づかないで、のんきにグースカ寝ているゾロに悪戯を。
チョッパーを手招きし、プスプス笑いながら彼の額に『肉』と書いた。
当然ながら腹筋は爆発!

お遊びその2。
帆に掲げた麦わら帽子のジョリーロジャーを、長鼻マークに変えてやった!
消えてしまうのが惜しいくらいのいい仕上がりで、気分も上々だ。

お遊びその3。
窓には赤い手形を大量に。
廊下を歩いていたフランキーが、飛びあがって驚いた。

お遊びその4。
甲板には地図を描いてみる。
ナミほど上手くはないが、こういうのは雰囲気が大事だ。

「そこ、ドラムな」
「え? そうなのか?」

ピンクの丸に桜を散らすと、チョッパーがニコニコ笑った。

ウソップがさらに筆を走らせる。

「ここはアラバスタ」
「ウソップ、壁に空島描いてくれ!」
「よしきた!」

たどった航路をなぞるように島を繋げ、まだ見ぬ島に夢をはせる。

「これは……えーと、薬草の島」
「じゃあここは、クリームソーダが湧き出る泉だ」
「いいな、それ!」

ここがグランドラインである限り、どんなトンチキな島だって無いとはいえない。
可能性は無限で、だからこそウソップもチョッパーも海に出たのだから。

そしてゾロがだんだん緑色に戻り始めたころ、ウソップは「あ」と声を上げる。

「どうしたんだ?」
「もうひとつだけ、描きたい島がある。ありったけの色をかき集めてくれ、チョッパー」
「おう、わかった!」

集まった色はまるで虹みたいにカラフルで、かなり不確かになっていた。
きっともう数分で消えてしまうだろう。

しかしウソップはその島を描かずにはいられなかった。
急いで筆を動かして、あらゆる色で最後の島を描く。

そしてぼんやりとそれを見つめた。
まだ完成ではないのだ。
足りないものがある。
そしてウソップは、何が足りないのかすでに知っている。

「なあウソップ、これって――
「ウソップ、チョッパー! おもしろそうなことしてんな~、おれも混ぜてくれよ!」

なにか言いかけたチョッパーをさえぎってやってきたのはルフィだ。
彼の頭にはタンコブができていて痛々しいが、万年食糧不足のこの船でコックに逆らったのだからその仕打ちは当然だ。
同情はしない。

「遅ェよ! もう色が消えちまう!」
「だってよ、おれはちょーっとつまみ食いしただけなのにサンジのやつが」
「肉30個は『ちょっと』って言わねェよ! それよりお前、こっちの、ここに立て」
「えー? なんだなんだ?」

ウソップは少しも悪びれないルフィを引っ張った。
彼を一番最後の虹色の島に立たせ、自分の指で四角を作っていいアングルを探す。

「なにやってんだよ、ウソップ~!」
「もうちょっと待ってろって……あ、ここだ!」

後ろに3歩、右に2歩、ちょっとだけしゃがむ。
するとちょうどルフィの背後から、ジョリーロジャーが顔を出すのだ。
帆に描いたでっかい誇りは、すでに麦わら帽子に戻っている。

チョッパーもそれをのぞき込み、満足そうに頷いた。

「おーい、いつまでこうしてりゃいいんだよ~」

ルフィが待ちきれないようにウズウズと体を揺らす。
それがあまりに彼らしい。

虹色で描いた島は、そんなルフィによく似合う。
だからこれで完成だ。

「ルフィ、その虹色の島だけどよ」
「ん?」

ルフィが視線を足元に落としたタイミング。
その一瞬で、虹色は透明へパッと変わる。

「ラフテルだ」

これぞ、芸術。