お芋さん太郎
2025-11-16 23:09:18
2172文字
Public ONEPIECE
 

夏は夜

#ブルック #ロビン #しっとり


まばたきも忘れるほどの美女と、パチリと目が合う。
ブルックには、目もまぶたも無いのだが。

彼女は読んでいたぶ厚い本をパタリと閉じて、記憶をたどるような声をもらした。

「ブルック、その曲……
「あれ? ご存知ですか、ロビンさん」

月夜も闇夜も趣があるが、この日は無意識にため息が出そうなくらい、美しい星空だった。
世界をおおう豪華なプラネタリウムにピッタリな音色を。
そう思って奏でたバイオリンのバラードは、どうやらロビンの琴線に触れたらしい。

「聞いたことがあるわ。子どものころに」
「そういえば、ロビンさんも西の海のご出身でしたね」
「ええ。たしか、これは……子守歌」
「母が子を想う歌です。未来に幸あれと願う歌」

ブルックが子どものころといえば80年も前の話。
あのころ馴染んだ歌の話を、孫ほども歳の離れているロビンとするのはなんだか不思議な感じだ。

ロビンはうっとりと音色に耳を傾ける。
波のリズムの中、なめらかに揺れ響く音階に体をあずけ。

そして、ぽつり。

「ずっと、うらやましかった」

ブルックの骨ばった指が一瞬とまり、ごまかすように再開する。

ブルックはロビンの過去を知らない。
今の彼女のとびきり素敵な部分をいくつも知っているのだし、詮索するのは野暮なので。

しかし8歳のころから高額な賞金を懸けられ、こうして海賊をやっている事実から、ブルックにも察せるものはある。
こうして麦わらのクルーとしてニコニコ楽しそうに日々を過ごせるのは、きっと彼女にとって奇跡のようなものなのだろう。

チラリと盗み見たロビンの横顔が、なんだか幼い子どものように見えた。
聡明な彼女はいつも凛としてるから、ブルックにはそれがちょっと意外で。
何も知らないけど、何も知らないからこそ、何かしてあげたいと。
そう思った。

だって、仲間だから。

骸骨なので脳みそは無いが、フル回転で考え考え、たどり着いた答えは、魂(テャマスィー)。

音楽だ。

他でもないロビンのために、子守歌を奏でればいい。
欲しいものが手に入らず、大切なものを失った子どものころの小さなロビンのために、優しい優しい子守歌を。

「あら? 曲調が変わったわ」
「ロビンさん。私、あなたのために――
「ブルック~~~!!」

と、ここで乱入者もとい船長の登場である。

「お前いま、いーい感じの曲ひいてたろ! なんの歌だ? 肉の歌か?」

彼が来たからには、この場は静かでいられない。
ロビンもブルックもそういう彼が大好きなので、もちろん『いい意味で』だ。

「ふふ。違うの、ルフィ。この曲は西の海の……
「そうですルフィさん、『肉の歌』です!」
「え?」

ロビンの説明に少しかぶせ気味でブルックが言った。
ルフィが「やっぱりなー」なんてウンウン頷いている横で、ロビンが不思議そうに首をかしげる。

ブルックはお構いなしに言葉を続けた。

「これはね、ルフィさん。ロビンさんのための『肉の歌』なんです」
「なんだロビン、おめー肉の歌が好きなのか! よォし、それじゃ歌うぞ! 野郎どもー!!」

ルフィがサニーの船首に飛び乗り、力いっぱい叫ぶ。
なんだなんだとクルーが集まると、甲板の芝生にズラリと影が並んだ。

「おい、なんだよルフィ突然!」
「肉の歌だ! ロビンのために肉の歌うたうぞ!」
「肉の歌? なんだそれ?」
「そんな歌が……? 初めて聞くわい」
「あんたね、ロビンのためならもっといい歌にしなさいよ!」
「ぐー……
「アウ! スーパー! な曲なんだろうな!?」
「ロビンちゃん、いまはお肉の気分? いますぐ焼いて来るからね~ン!!」

野次も文句もそっちのけ。
船長の号令が夜空を駆ける。

「よーし、やれ! ブルック!!」
「かしこまりました! 1、2――
「あ~、もう。バカばっかり……

ブルックが持ち替えたギターをかき鳴らす。
あの子守歌のリズムと調子を変えただけの曲である。

でも弾むように楽しく。
走るように豪快に。
とびきり自由に!

この船にただの子守歌は似合わない。
たくましく今を生きる、肉が大好きな海賊のような曲に仕立て、奏でた。

ルフィとウソップが、肩を組み歌う。

小さなチョッパーと大きなジンベエが、手をつなぎ踊った。

フランキーは即席でドラムを作り、こんなにうるさいのにゾロはまだ寝ている。

サンジが超スピードで焼いた肉は、一瞬にしてルフィの腹におさまった。

肩をがっくり落とすナミだって、笑いながら歌い始めるのは時間の問題で。

そんな彼らを見て、ロビンはたまらず笑いをこぼした。
過去の痛ましい記憶をなぞっていた心が、あっという間に今へと連れもどされたのだ。

どうやら彼女の中の小さなロビンは、温かい場所へ無事にしまわれたらしい。
ブルックは、ロビンの大人っぽいいつもの笑顔にひとりでこっそり安堵して、ヨホホと声をギターに乗せた。

リズムにあわせ無数の星がピカピカまたたく、夏の夜空の下である。
嬉しそうに、楽しそうに、音楽に合わせて手拍子を打つロビンと目が合った。

「ありがとう」と告げる口もとに、ブルックはパチンとウインクを返す。

ブルックには、目もまぶたも無いのだが。