お芋さん太郎
2025-11-16 23:08:13
3345文字
Public ONEPIECE
 

春はあけぼの

#サンジ #フランキー #ギャグ


サンジの朝は夜明け前だ。
それが春なら、なおさらのこと。

その日は、いつも同じころに起きるブルックが珍しくまだ寝ていて、サンジはそっと男部屋を出た。

だんだん鮮やかに色づく水平線に、紫色の雲が細く薄くたなびいている。
ひと息ぶんだけ吹き出す煙草の煙は、それとよく似ていた。

雪が降るほどではないとはいえ、肌寒い朝。
キッチンに行く前に、展望室に登る。

「フランキー、なんか飲むもんいるか?」
「おうサンジ! 相変わらず早ェな!」

不寝番のフランキーに声をかけると、元気な声が返った。
彼は部屋の真ん中で、両腕を合わせて高く掲げるいつものポーズを決める。
しかしこちらとしては決して朝一番で見たいものではない。

野郎のは、とくにだ。

……相変わらず変態だな」
「そう褒めんなって!」
「ま、それより飲みてェもんがないか聞きにきた。朝食にはまだだいぶあるからな」

ニヨニヨと変な笑いで照れているフランキーを、しかめ面でぶった切って本題にもどる。

コーヒー、紅茶、緑茶にミルク、そして酒、その他もろもろ。
好みがてんでバラバラなクルーたちの要望に応えるため、船にはなんでも用意してある。
その8割は美しいレディたちのためではあるが、残りの2割……いや、1割はむさ苦しい男どものために消費してやってもいい。

「じゃあコーラを頼むぜ!」
「海パン一丁のくせに冷たいのでいいのかよ。てめェが風邪ひこうが知ったこっちゃねェが、ナミさんやロビンちゃんにうつされたら、おれが困る」
「なんでサンジが困るんだよ。じゃあ……

悩むそぶりも見せずに答えたフランキーに、サンジがツッコミを入れた。
この船の船医はチョッパーだが、食による体調管理はどちらかというとサンジの領分なのだ。

フランキーはあきれた顔をして、目線を斜めに泳がせる。
大好きなコーラを飲みたいのはやまやまだが、確かに少し冷える朝だ。
バック宙にひねりを加えたみたいなサンジの優しさを受け取るべきなのか。

3秒きっちり考えて、出した答えは。

「ホットコーラ」
「は?」

サンジはくわえたタバコを落としそうになり、その反応がおかしくてフランキーはいやらしく笑った。

「おれはコーラを飲みてェし、おまえは温かいもんが良いだろうと言う。だから、あいだを取って『ホットコーラ』だ」
「コーラなんて温めたら炭酸が飛んじまう。美味しさは半減だ」

サンジの相槌は疑いをはらんだ声色だったが、フランキーはそんなサンジを気にせず、ゆったりと昔を懐かしむように語りだす。

「2年間バルジモアにいたとき、よく飲んだもんだ。あそこは冬島でずっと寒かったからな」
「本当かよ……!」

職業柄か、生来の気質か。
サンジの食への興味と情熱は人一倍だ。
フランキーの思い出話は、彼の探求心に激しく火をつけ燃え上がる。

「その話、詳しく聞かせてくれ」

ふたりは顔を見合わせて、悪い顔してニヤリと笑った。



「フランキーと! ……フランキーと! ……おい。フランキーと!」

隣に並んだ巨体が、腕で軽くサンジを小突いた。
サンジはため息をひとつ吐くと、モゴモゴと小さく口を開く。

……サンジの」
「スーパー3分クッキング~!」
「おいこりゃ何の茶番だ」
「なーに、気にすんな! おれは形から入る派だ」

調理台の前に野郎ふたりが並んで、謎のお料理コーナーが始まった。
ホットコーラの話を聞きたかっただけなのになんの罰ゲームだと、サンジは内心うなだれる。

「さて、本日のメニューは春の少し寒い日に嬉しい “おれ特製 ホットコーラ” です!」
「裏声やめろ! それが許されるのは可憐なレディだけだ!」
「ツカウザイリョウハ、コチラデス」
「ロボ調!」

フランキーはふざけながらコーラ瓶を取り出した。

「これを、こうして!」
「ほう」

腕からニュっと出てきた栓抜きで蓋をあけ。

「こう!」
「へえ」

お気に入りのカップに注ぎ。

「温めます!」
「おい待て」

キランとしたいい笑顔でグッと親指を立てる。
時間にしてほんの10秒。
勢いしかない。

サンジはそれに待ったをかけ、戸棚から食材をいくつか取り出した。

「既製品そのままってのは、おれのプライドが許さねェ。せっかくだからスパイスを足してやる。ジンジャー、シナモン、ブラックペッパーを少々……
「ほー、すげェな。料理みてェだ」
「バーカ、料理だよ。最高に美味くしてやらねェと、人にも食材にも失礼だ」

ためらいなくカップにスパイスを足すサンジに、フランキーは感嘆の声を上げる。
スパイシーな香りに、思わず腹が鳴りそうだった。

しかし、メインイベントはここからだ。

「さて。それで、どうやって温めるんだ?」

サンジの経験則では、炭酸飲料の美味しさをそのままに温めるのは難しい。
火で温めるとどうしても高温の部分と低音の部分ができてしまい、高温の部分から炭酸が抜けてしまうためだ。
お手並み拝見、と腕を組みながらフランキーの挙動を見守る。

フランキーはカップをテーブル――たった今フランキーが3秒で作った回るテーブルだ――にチョコンと置き、くるりと回転をつけた。

「そう、問題はそこだ。鍋でコーラを沸かすのは難しい」

説明口調で人さし指をピっと立て、それをそのままカップに向ける。
誘導のままに視線はカップへ。

その瞬間、フランキーは男のロマンとギミックがたっぷり詰まった腕をかまえ。

「しかし、人知を超えたおれのスーパーな身体がそれを可能にする!! フランキー “マイクロ” ラディカルビ~~~んぐェ!」
「おいてめェ! キッチンを吹き飛ばす気か!?」

ビームは不発のままに、フランキーはサンジに蹴り倒された。
彼はすぐに起き上がって声を荒げる。

「吹き飛ばしゃしねェよ! 言っただろ、ちゃんと『マイクロ』って」
「んだよ、それ」
「ビームの開発途中で偶然できた機能だ。素材の中の水分子をマイクロ波で振動させて、熱を発生させる」
「長ェな。5文字にまとめろ」
「あたためる」
「よし」

サンジがコクリと頷いた。
フランキーは気を取り直して、再び腕をかまえる。

「フランキー “マイクロ” ラディカルビ~~~ム!!」
「おお!」

クルクル回るカップがパチパチと弾け、なんだかこう、すごそうな雰囲気だ。
しかし、いささか火花が大きすぎやしないか。
不信に思ってフランキーを見やる。

すると彼はびっくりするほどに冷や汗を流して、かすれた声でサンジに問う。

「なあ、あのカップ。まさか金属がついてたりなんか」
「そういやフチの装飾に少しついていたような……

答えるや否や、いっとう大きな火花が散って。



バチバチッ……バーン!!


――爆散。


「運悪くカップに金属がついていた。それに気づかず爆発したが……これ、おれのせいか?」

フランキーがサムズアップしながらいい顔して言うと、言葉を無くしたサンジの頭にカップの取っ手がコツンと当たった。

床はコーラでグチャグチャ。
壁には破片がめり込み、素敵なダイニングは見るも無残だ。

そうしてサンジは炎を背負う。

「今度はおれが爆発しそうだ。怒りで」
「もうしてるけどな! アいや、ごめんなさい」
「食材を無駄にしたあげく、船までこんなにしやがって」
「すいません」

『おれがやりました』プラカードを首から下げて、正座して。
フランキーは大きい体を小さく丸めて謝罪する。
頭の上にはタンコブが積み重なった。

いたたまれない時間に終わりを告げたのは、船長の高らかに伸びる大声だ。

「朝だーーー! サンジ~~~、朝メシ~~~!!」

サンジからしてみたらもっと言いたいことはあったが、説教はひとまずここまで。
最悪な目覚ましは、どうやらこの状況で最悪な人物を引き寄せたらしい。

2人はぐるりと一周、汚れた部屋を見まわして。

「仕事の時間だな」
「さあ、どう切り抜ける?」

フランキーは工具を。
サンジは鋭い包丁を手に持つ。

ここからはお互い、職人の時間だ。