お芋さん太郎
2025-11-16 19:30:44
2308文字
Public ONEPIECE
 

今年のルフィ

ルフィ誕生祭2025
#サボ #ドラゴン


革命軍の拠点には、電伝虫の飼育小屋がある。

活動の際に必須アイテムな電伝虫だが、現地調達はなかなか難しく、野生の電伝虫を捕まえて加工する暇もない。
だから革命軍は独自の技術で養殖し、作戦時に実働メンバーへ配るのだ。

地産地消100パーセントで効率が良く、環境にもやさしい。
それが革命軍のやり方だ。

通信機器は作戦の要にもなるから、この組織のトップであるドラゴンも飼育小屋に足を運び、積極的に飼育の手伝いをしている。
ドラゴンが自らこまごました作業を買って出ることで、組織全体の士気もあがる。
彼が屈指の『人たらし』たる所以だ。

さて、そんなドラゴンだが、5月5日だけはたった一人で飼育小屋に入りびたる。
何のためかは誰も知らない。
ただ、彼が小屋に入ってる間は、絶対に入ってはいけない、覗いたりしてはいけないことが暗黙の了解だ。
これは革命軍トンデモ七不思議のひとつである。

とはいえサボは、ドラゴンの行動の意味に心当たりがある。
ちょうどこの日はサボ自身もウズウズするし、ちょっとだけ飼育小屋に行ってみようと思った。
サボの考えてる通りであれば、悪いことにはならないだろう。

小屋の扉には確認用の小窓がついていて、そこから中を覗き込む。
小さくうごめくカラフルな電伝虫たちの中心に、ドラゴンを見つけた。
大柄な男が小さく座って、小さな生き物たちに気を使いながら世話している様子は、なんだか少しかわいらしい。

サボは軽く咳ばらいをして声の調子を無駄に整え、指先で三回、軽く戸をノックした。

「おっじゃましまーす、ドラゴンさん」
……サボか。なにか用か」
「えーと、今日は5月5日。かわいいかわいい大切な弟の誕生日なんです。つまり、アー、ドラゴンさんはどう過ごしてるのかなって」

ドラゴンは3秒ほど動きを止めて、「む」と一文字ぶんだけ考え事をしてから、壁際に置いてある椅子を指さした。

「その椅子を持って、こっちに。もっと寄れ。そう。手を、こう、出して」

椅子はしゃがんでやっと座れるような低いもので、ドラゴンも同じものに座っている。
ドラゴンはもっとこっちに、と手招きし、川で水を掬うような手をしてみせた。
サボは、素直にそれにならう。

このときサボは黒い革の手袋をしていて、ドラゴンはその上にチョコンとまあるい赤をのせた。
子電伝虫よりももっと小さい、まだ本当に子どもの、眩しい赤色の電伝虫だった。

「ドラゴンさん、こいつって……?」
「ルフィだ」
「ドラゴンさん!?」
「間違えた」
「ア、ですよね……
「『今年の』ルフィだ」
「なんで!? ……あっ、と、すんません」

ツッコミがてら勢いよくサボが立つと、ドラゴンにゆっくり動けと窘められた。
誰のせいでこうなっていると思ってる。

ドラゴンが手慣れた様子で、足元の箱から餌の葉っぱを取り出した。
眠ってる様子の『ルフィ』の口もとへ寄せ、そのままヒラヒラと揺らす。

次の瞬間だ。
『ルフィ』はハッと目を覚まし、大口あけて葉っぱにかぶりつく。
時間にしてほんの数秒で、葉っぱは細い筋だけを残し、残りの全部が彼の腹におさまった。

サボは叫んだ。

「ルフィだ!」
「そう、ルフィだ」

ドラゴンも同意した。
少し誇らしげに。

「電伝虫の繁殖は常におこなわれているが、おれは毎年、5月5日に生れた子の中から、一番よく動いて一番よく食う子にこっそり名前を付けていてな」
「それがこの『ルフィ』ですか」
「ああ。今日でこいつもちょうど一歳。あと半年ほどしたら念波の授受訓練をすることになる」
「だから『今年の』なんですね」

訓練が終了したら、メンバーの誰かの手に渡ることになる。
『今年のルフィ』を祝えるのは、今日が最初で最後。
次の5月5日には、もうこいつはここにいないのだ。

サボはちょっとしんみりした気持ちで、手の上を這いまわる小さなかわいい子に「おめでとう、ルフィ」と気持ちを伝えた。

「そうだ、サボ。来年のルフィはお前が決めるか? この中から選べ」

ドラゴンが大きめの箱を取り出し、蓋を開けた。
生まれたばかりの電伝虫が大群でうぞうぞ動いていて、率直にいうと気持ち悪い。

「ドラゴンさん、切り替え早くないですか」
「19回もやっていればな」
「じゅうきゅ……!?」
「次で20代目の『ルフィ』だ。そいつは19代目」

人間のルフィが生まれたときからやっていたらしい。
どおりで七不思議にもなるわけである。

「じゃあ、先代の……18代目までの『ルフィ』は誰かが持ってるんですか?」
「いやあ。それがな、くまやイワに持たせたりしたんだが、どこかの島に着いたら知らない間にどこかへ行ってしまうらしくて、着任してすぐに野生にかえってしまったらしい。全員」
「うわァ、ルフィだ……。ドラゴンさん、お目が高いですね。そいつら完全にルフィですよ」

『今年のルフィ』は2人の会話なんてお構いなしに、サボの手から腕をつたって、肩のあたりで休んでいた。
この行動力なので、おそらくこの『ルフィ』もいつかは自然に還るのだろう。

サボは彼をジッと見た。
彼も、サボをジッと見ていた。
どこか心が通じ合った気がして。

「ドラゴンさん、この息子さんをおれにください! 絶対に逃がしたりしませんから!」

トン、と拳で自身の胸を叩く。
そんなサボを見て、ドラゴンはニコリと笑って。

「だめだ」

結局、19代目はドラゴンのもとに着任した。
そして着任3日後、どこかへ逃げてしまったと、彼は涙目で語るのだった。



おわり