お芋さん太郎
2025-11-16 19:11:53
1722文字
Public ONEPIECE
 

ガラスの小舟

ウソップ誕生祭2025
#カヤ #ウソップ海賊団


シロップ村の端っこで、3つの影が動いていた。
カヤとメリーもよく見知った影たちだ。
コソコソしてる様子があまりに不審で、カヤが彼らの後ろから声をかける。

「どうしたの?」
「うわッ!」
「ギャッ! ……って、なんだカヤさんか」
「ビックリさせないでよ、もう!」
「ごめんなさい。見かけたから、つい」

元ウソップ海賊団の、にんじん、ピーマン、たまねぎの肩が跳ねた。
声をかけたのがカヤたちだと分かると、フウと安堵の息をはく。

キャプテン・クロの一件で、彼らとはかなり仲良くなった。
よく家に遊びにきてくれるし、初めのころなんて散歩のたびに護衛をしてくれた。

護衛といっても、小石が落ちてるのを教えるとか、怖い犬のいる道を避けて案内してくれるなどの可愛いものだ。
3人は任務をこなした後、報酬のちょっと高級なお菓子を受け取ると、決まって「キャプテンだったらきっとこうするよ!」「な」「だから任せて、カヤさん!」なんて胸を張る。

子どもなりにウソップを尊敬し、彼のような優しい人間になろうと努力していた。
だから「自立したいから」と申し出を断るのに、心を痛めたものだ。

そんな3人が、再びコソコソし始める。

「カヤさんになら、いいかなあ」
「いいんじゃない? だってカヤさんだし」
「じゃあ話しちゃおうか」

会話なんて全部つつぬけだ。
カヤはメリーと顔を見合わせ、2人で苦笑する。

「ねえねえ、カヤさんも仲間に入れてあげる!」
「特別だよ! これからぼくたち」
「キャプテンに手紙を届けに行くんだ!」



メリーには先に屋敷に帰ってもらい、4人で海岸へやってきた。
激しい戦いのあった場所だ。
そしてウソップが旅立った場所でもある。

さて、海の向こうのウソップにどうやって手紙を届けるのか。
カヤが疑問に思っていると、ピーマンが得意げな顔で瓶を一本取り出した。
透明な、20センチくらいの長さの瓶だ。
それをたまねぎに手渡す。

「本で読んだんだ。これに手紙を入れて海に流すと、相手に届くってやつ……うわ、くっさ!」
「本当だ! ピーマン、これ、なに入ってたやつなんだよ」
「なんかの汁。緑色だった」
「洗ってきてよー!」
「嫌だよ、くさいし!」
「さいあく!」

なるほど、ボトルメール。

「キャプテン、きょう誕生日だろ?」
「いつもは『おめでとう』って口で言えたけど、今はできないし」
「だから手紙でも、って」

どこにいるかもわからない海賊のウソップだが、きっと自分たちも海でつながっている。
そう彼らは考えている。

「いつごろ読むかなァ」
「誕生日は過ぎちゃうだろうけど」
「去年もやればよかったな~」

海で瓶を洗いながら、3人は顔を輝かせた。
きっと届くと、心から信じているのだ。

カヤは知っている。
麦わらの一味が再集結して以来、彼らが新聞に載らない日はない。
今朝の新聞によると、麦わらの一味はいまグランドラインの後半にいるはずだ。
世界を二つに分かつ、赤い壁の向こう側に。

もしも彼に届くとしたら、それはいったいどれほど小さな確率なのだろう。

しかし、それを3人に伝える気はなかった。
どんな方法かカヤには見当もつかないが、ウソップはたしかに向こうの海へ渡ったのだ。
ならば小さな瓶だって行けるかもしれないではないか。
本当に、届くかもしれないではないか。

この海は不思議で満ちている。
ウソップはそれを確かめるために旅に出た。
なのに島すら出たことのないカヤが、それを否定できるはずもない。

だからカヤは、カバンからノートを取り出した。
1枚ページを破って、ペンを走らす。

カバンの上で書いてるから、文字はガタガタだ。
たまにペンが紙に突き刺さるし、ところどころ滲んでるし、こんな不格好な手紙は初めて書く。

それでも、すぐに紙はいっぱいになった。
シワの残るそれを丁寧に折りたたんで。

「ねえ、これも入れてくれる?」
「カヤさんも書いたの?」
「もちろんだよ!」
「キャプテン、きっと驚くぜ」

4枚ぶんの『おめでとう』を海に託す。
透明な、ガラスの小舟にのせて。



おわり