お芋さん太郎
2025-11-16 18:07:01
2609文字
Public ONEPIECE
 

サンキューホリデー

フランキー誕生祭2025
#フランキー一家 #ガレーラカンパニー


酒、ヨシ。
ごちそう、ヨシ。
いい感じの音楽、ヨシ。
でっかいミラーボール、ヨシ。

今日は〝サンキューホリデー〟だ。
仕事なんてそっちのけで、大切な人に『ありがとう』を伝える日。

とはいえこの休日は、フランキー一家独自のものだ。
みんなで揃って解体業を休み、ウォーターセブンの市民たちがまっとうに働いているのを横目に、パーティーに興じる。

街のやつらは感じ悪く顔をしかめてコソコソ言うが、そんなこと関係ない。
なにせ一年に一度の、特別な日なのだから。

今年の〝サンキューホリデー〟も前日から買い出しをして準備は万端。
さて乾杯だというタイミングで、来客を知らせるベルに水を差された。

「いったいどこのクソ野郎……あ、アイスバーグのアニキ!」
「アニキだわいな!」
「アニキ!」
「ニューアニキ!」
「そのアニキってのやめろ。ンマー、こんな所にいたのか、お前たち」

こんな所とは、彼らの〝秘密基地〟橋の下の倉庫。
つまり、かつてのトムズワーカーズ本社である。

「アニキこそ、どうしてここへ?」
……。おかしいか? ここはおれが育った場所でもある」
「いや、おかしかねェですけど……

戸惑うザンバイにかまわず、アイスバーグが入ってくる。
手には一本の酒瓶。なかなかいい値段のウイスキーだ。
彼は浮かれた室内をぐるりと見回し「しかし、よくもまあ……」と呆れた声を上げた。

コンポから流れる音楽がズムズム空気を震わす中、アイスバーグは無遠慮に真ん中のソファに座った。
こちらに断りもなく、勝手にロックグラスを拝借し、酒を注ぐ。少し考えてもう一つ。
つまみのナッツを小皿に転がすと、彼の胸ポケットからネズミが顔を出した。

「アイスバーグのアニキ、言いにくいんですが、今日はおれたち――
「あのバカの考えることはわかる。不本意だがな」

ザンバイが「え?」と声をもらす。

グラスを軽く傾けながら、アイスバーグが続けた。

「受け取らなかったんだろ。プレゼント」

フランキー一家の誰もが、唇をキュッと結んだ。

〝サンキューホリデー〟は、いつも決まって3月9日、フランキーの誕生日。
大好きなアニキにプレゼントを受け取ってもらう、苦肉の策だった。



『アニキ、誕生日おめでとうございます! これ、みんなで金を出し合って買ったプレゼント。特注した海パンで……
『あァ!? いるか、こんなモン! 金の勘定もまともにできねェアホどもが、一丁前にプレゼントなんて用意してるんじゃねェよ!』
『うわー! アニキー!』

一家を旗揚げして、初めての3月9日。
新品ピカピカのド派手な海パンが、悲しい顔して地に落ちた。

しかしこのときフランキーも複雑な気持ちだったらしい。
事が起こったあとで、あの海パンはどうしたと、モズとキウイに聞いてきたそうだ。

じつを言うと、その頃のザンバイたちは、解体業も賞金稼ぎもドヘタクソ。
アニキの鋼鉄のスネをかじらないと、宵越しなんてできやしない。
そんな野郎どもが揃いも揃ってプレゼントだなんて、いま思うとひどい思い上がりである。

厳しい言葉はフランキーなりの心配と激励だったのだ。
それを理解したザンバイは、懐にそっと海パンをしまった。

とはいえ、フランキーを慕う心はノンストップ。
誕生日は無理やりにでも祝いたい。

そんな経緯で生み出されたのが〝サンキューホリデー〟だ。
ハゲ頭を隠すには、ハゲの群れに飛び込めばいい。
『おめでとう』は、もっと大きな『ありがとう』の中に隠したらいい。

フランキーの誕生日が3月9日(サンキュー)なのが功を奏した。
彼は日頃の感謝という名目であれば、それを無下にしたりしない。

みんなで休日を祝いながら、心ばかりの贈り物をする。
そしてフランキーは、子分たちに美味しいものをたらふく食わせた。



「ンマー、気恥ずかしさもあったんだろう。あいつはそういう祝いに慣れてないのさ」

アイスバーグが呆れた調子で言った。

「そうだったんすか。じゃあ、あんたもフランキーのアニキのお祝いに?」
「いや、差し入れだ」
「さしいれ?」

首をかしげたと同時に、倉庫の扉が音を立てて開く。

「アイスバーグさん! 置いてかねェでくださいよ!」
「うおぉぉ! 着いたぞ!」
「だが間に合ったようだ。アイスバーグさん、どこに運びますか?」
「ああ、悪かったな。先に話を通したほうがいいと思ったんだ。こっちのテーブルに置いてくれ」

パウリー、タイルストン、ルルが駆け込んできた。
肩に背負った大荷物を、重たそうにテーブルに下ろす。

「今日は〝サンキューホリデー〟。お前たちには、おれも礼を伝えたい。存分に食って、飲んでくれ!」
「ハンバーガー! 何段重ねなんだ、これ!?」
「ポテトが山みてェに!」
「コーラもあるわいな!」
「ありがとう、アイスバーグのアニ……大アニキ!」
「大アニキ!」
「大アニキ!!」

パウリーたちが持っていた荷物は、フランキー一家の大好物の詰め合わせだった。
まだ湯気が立つほど温かい。

一家の面々がそれらを手にするころ、タイルストンとルルはすでに釈をし合っていたし、パウリーはモズとキウイに絡まれていた。
彼らがターボの勢いで場に馴染むのは、エニエスロビーの一件で互いに気の置けない仲になったからだ。

結果的に、フランキーが結んでくれた縁である。
船出して久しいのに、伝え足りない〝サンキュー〟がどんどん増える。
アニキの偉大さに、ザンバイは涙をグッと堪えて鼻をすすった。

「ありがどうごぜェます、ズズ……大アニギ……
「ンマー泣きすぎだ、ザンバイ」
「これ、あんたが持ってでもらえまぜんか」

ザンバイがアイスバーグに差し出したのは、始めてのプレゼント、海パンだった。
なかなか一人前になれなかったザンバイたちが、結局フランキーに渡しそびれた、未使用のそれ。

「大切なもんだんだ。アニギに渡せねェで、でも、あんたになら、うう、あんただっだら、こいつも本望だと……
「ザンバイ……

感極まったザンバイの肩は、震えていた。

アイスバーグはその肩にポンと優しく手を置いた。
とても嫌そうな顔をして。

「ノーサンキューだ」

新しいアニキは、ずいぶんと正直者らしい。



おわり