お芋さん太郎
2025-11-16 18:00:24
1033文字
Public ONEPIECE
 

ただの3月2日

サンジ誕生祭2025
#ゼフ


無骨な指がゆるりと動く。
ゼフは丁寧な手つきでページをめくり、かつて海賊だったころの航海日誌を読み進めていた。

ランチとディナーの間の時間。
店の裏にあるテラス席で、たった一人、休憩中だ。
客なんていないのに、店の中はいつもと同じく賑やかで、コックたちが「オーナーの賄いは久しぶりだ」とバカな顔して騒いでいる。

ゼフも一皿、テーブルに置いている。
白くて薄い湯気がまだ漂っているが、ゼフはお構いなしにページをめくった。

日誌を読みながら、気まぐれに目を上げる。
賄いの隣の灰皿から、濃いめの白い煙がほんの手のひら一つぶん、真っすぐ立ち上がっていく。
それはやがて、ほどけてうねり、湯気と絡み合った。

バラティエのコックはタバコを吸わない。
でも今日だけは、よく知った銘柄を買い出しのやつらが買ってきた。
そしてゼフに渡したのだ。

ガキの使いじゃあるめェし、いらねェものは買ってくるなと念を押したはずだった。
ゼフは呆れてしまって、そいつらを蹴り上げる気にもならなかった。

ページをめくる。



昼間のことだ。

「てめェ、ここで何年働いてやがる。こんなモン、客に出せたもんじゃねェ!」
「すいません、オーナー!」
「パスタ! 湯から上げるのが3秒遅ェ」
「すみません、オーナー!」

担当コックの下処理が甘いせいで、朝に仕入れたエビや貝、イカ、そして茹で上がったパスタを賄いにまわすことになった。この材料だと「あれ」ができる。
ふと思うことがあり、カレンダーを確認して、ゼフ自らが厨房に立ったのだ。

『失敗』したコックは二人でハイタッチし、ニヤニヤ笑って仕事に戻った。
あいつらは当分ウエイターにまわすとしよう。
タバコを買ってきたやつも。



日が落ち始め、ページをめくる手が止まる。
めくったって意味がない。
これ以上は白紙である。

タバコは最後の煙を吐き出し終えた。
それと引き換えに、スープの芳醇な匂いが漂う。
フライパンの高い音と、野太い怒声が、ディナータイムを告げる。

うろこ雲が蒸しエビみたいに赤く色づき、水平線を飾り上げた。
海のどこかに必ずある大きな宝。
その存在を示すみたいに。

ゼフは手つかずのパスタを持って、海に背を向け、店に戻る。
温め直して、これから食べるのだ。
きつい辛味に、きっと顔をしかめることになるだろう。

いつもと同じ。
普段どおり。

ただのありふれた、3月2日のことである。



おわり