お芋さん太郎
2025-11-16 17:45:54
1790文字
Public ONEPIECE
 

通過儀礼

メリー号の日2025
#麦わらの一味ほのぼの


サウザンド・サニー号は、おもちゃのような見た目のファンシーさとは裏腹に、多機能かつ乗り心地が良い船だ。
その驚きの機能を目の当たりにするたび、一味に加入して日の浅いジンベエは目を丸くする。

空を飛べる風来バーストや攻撃力の高いガオン砲、旅を快適にするためのアクアリウムバーや大浴場まで。
これらはどれもフランキーが自信を持って提供するスーパーなシステムで、新世界の過酷な海を越えていくのに欠かせない。

そしてその中でもずば抜けて一味に人気の機能は、ソルジャードックシステムに収まるひとつ。

小型蒸気船〝ミニメリー号〟だ。

ミニメリー出動の際は、必ず希望者……つまり、全員でジャンケン大会が始まる。

「おれの勝ちー!」
「おいルフィ、いま見聞色使ったろ! ズルすんな!」
「おれもメリーに乗りてェよ〜」
「仕切り直しだな」
「次こそ勝つわ!」
「早く決めちまおうぜ」
「クジの方がいいかしら?」

ルフィ、ウソップ、チョッパーはともかく、いつもなら興味なさげなゾロやナミまでやる気で、サンジとロビンも次の勝負を今かと待っている。
停泊中の島、川べりの町に少しおつかいするだけなのに、思わぬ熱の入りよう。

このノリについていけないジンベエは、彼らの様子に不思議そうに首をかしげた。

「蒸気船とはいえ、あいつは小型だ。大波は越えられねェから、使うのは今回みたいなおつかいや偵察くらいで、意外と乗れる機会が少ねェのよ」
「思い入れがある船だそうですよ」

フランキーとブルックは、どちらかというと『こちら側』だ。
ジャンケンには参加するが、彼らと比べてちょっと冷静。

「思い入れ?」
「ミニメリーは、このサニー号の前の船〝ゴーイング・メリー号〟がモデルになってんだ。だからメリー号で旅してたやつらは、いつも特に乗りたがる」
「ふむ、なるほど」

その説明だけで、ジンベエも合点がいった。

なにせ麦わらのクルーたちは、船に対しても仲間のように接するのだ。
戦闘後は「大丈夫か、サニー」と芝生を撫で、嵐を抜けると「よくやった!」と船首にタッチする。
前の船にもそうであったなら、特別な愛着を抱くのも頷ける。

「ジンベエさんが仲間になってくれて、本当に良かった〜。ちょっと寂しかったんです。メリー号を見たことないの、今まで私だけだったので」

しみじみ言いながら、ブルックがジンベエに寄り添う。
フランキーはバツが悪そうに「おれは、まあ、ちょっといろいろあったけどよ」と、鼻をこすった。

ブルックが海に目を向ける。

「とってもすごい船だったんですってね、羊ちゃん。あの子羊ちゃんは可愛らしいですが」

ガイコツなので目は無いが、優しいまなざしが見えるように、穏かに言った。

ジンベエも、つられて海を見る。
肝心のミニメリーはもうすでに準備万端で、波にぷかぷか揺れていた。

しみじみしている二人の肩に、ウソップがポンと手を置いた。

「〝メリーの勇姿を語り継ぐ会〟会長ウソップ様を差し置いてメリーの話か?」
「あっ、いえ、そういうわけでは……

急に挙動不審になったブルックは、冷や汗がダラダラ。
ウソップは、やわらかな、それでいて有無を言わせぬ手つきで、彼に着座を促す。
ついでにジンベエにも。

「ご期待にお応えしまして、語り部ウソップ、語ります!」
「おいチョッパー、ウソップの紙芝居だ!」
「やったー!」

ウソップがどこからか数十枚に及ぶ画用紙の束を取り出すと、ルフィとチョッパーも集まってきた。
二人は一番前に座って、ヒューヒューとはやし立てる。

「ウソップさん。私その話、何十回も聞いてて耳にタコ……あ、私ガイコツだから、耳なんて無いんですけど」
「何百万回でも聞きやがれ! 偉大なる海賊船〝ゴーイング・メリー号〟の軌跡を!」
「そんなァ!」

何百万回と聞いてうなだれるブルックに、ジンベエがワハハと笑うも。

「明日は我が身ですからね、ジンベエさん」

恐ろしい声をしたブルックに、念入りに釘を刺された。

少し居心地の悪くなったジンベエがツイと目をそらすと、ミニメリーが波を受け、いっそう高く揺れていた。
嬉しそうに、ピョンピョン跳ねてるようにも見える。

なんて楽しそうな顔をしてる。
こちらの気なんて、知りもしないで。



おわり