あおい
2025-11-16 16:23:22
1448文字
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居酒屋とユリレイ

現パロ社会人ユリレイ

一席ずつ木製の引き戸で間仕切りされた居酒屋の一室。客の雑音と店員が注文を受けるハツラツとした声だけが聞こえる中、机を挟んで向かい合わせに座るでなく、大の大人が二人並んで料理を囲む姿は、傍目に見ると少しだけ違和感が残る光景だろう。

……酔いすぎだぜおっさん」

 料理が消えた白い皿も、液体がなみなみ入っていたコップも、もう何度回収されたか数えてはいないが、既に四回は空のグラスが入れ替わった気がする。恋人であるレイヴンが好んで飲む酒は日本酒や苦みのあるものが多く、オレの前に置かれた甘い香りがする酒なんかより当然度数も高い。
 ペースの早い体調を気遣って、普段より幾分か熱い頬へと触れた手に、いつも外出時は咄嗟に体を離されるところだが、酔いが回ったレイヴンはふにゃりとほころんだ表情を浮かべ、鼻にかかった声で小さく唸りながら手首を掴みすり寄ってきた。
 年齢も性別も関係なく、愛おしい存在が自分にだけ見せる甘えた仕草に、思考が『かわいい』で満たされていく。同時に湧き上がる邪な感情を抑えつつ、幸せそうな光景に自然と笑顔が浮かんで、顎の形を親指でなぞる。指先に触れるざりざりとした髭の感触でさえ、胸の中を灯すあたたかな何かを満たすんだから、恋ってのは単純だ。

……あんまいちゃいちゃしてっと終電、逃しちまうぜ?」

 前後不覚になるまで酔ってないことは理解してるものの、珍しく自分からじゃれついてきてくれる恋人に冗談めかして笑いかける。二人揃って生憎明日は仕事で、居酒屋も互いの自宅からちょうど間くらいに位置する店を選んでいた。
 もちろんゆくゆくは同棲もと考えちゃいるが、この歳の差だ。はやく自立しておっさんと同じだけ出せるようにならねぇと。当の本人は気にしないだろうが、足手まといじゃなく対等の立場で生きていきたいから。
 今世でも変わらず、分岐点に幾度となく立ちはだかる積み重ねた年月の壁が歯痒くて、もどかしい。言ったら言ったで「こんな何十歩も先に老いてく年寄りに若人の未来を〜」なんて、オレがあんたを手放すとかありえない馬鹿げた話をし始める恋人なもんだから、無理やり追いつくしかないんだろう。
 考えたところで今すぐ解決できるでもない事柄を頭の片隅に追いやって、無邪気に身を預ける恋人の姿を堪能しながら口付けようか迷っていると、心地良さそうに細めていた目がゆっくりと開く。
 双眸の隙間から覗く緑色の湖畔が、水面にオレを飲み込んでゆらゆらと揺れた。

……こんなおっさんから言わせる気? やっぱりユーリと離れたくないなって思ったから、いちゃついてんの」

 言わせないでよ。と、はにかむ姿は酒に酔ってか照れてるのか、ほんのり赤らめたレイヴンの表情は少しだけ幼さを映す。その姿に反して未だある手の中の熱から、掌にぬるりと這う柔らかな舌の感触が伝わってくる。
くすぐったい欲が腕を駆け上って、ただでさえ僅かな理性をチリチリと焼いた。

……明日動けなくなっても知らねぇからな」
「別に、傍にいてくれるだけでいーんだけど?」
「傍にいて欲しいだけの奴はんな甘え方しねーんだよ」
「っはは、んじゃあ元気な青年のためにおっさん頑張んないとね」

 すっと椅子から立ち上がり、先ほどまで可愛く甘えてたのはどこへやら。座るオレを見つめて不敵に笑うレイヴンに少しおもしろくはなかったが、またすぐにでもやり返せるかと、ちょうど半分ずつの会計を手早く済ませて、夜に向かうその背を追い店を出た。