白殊皎(しらよし こう)
2025-11-16 14:26:02
1591文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

あまくて、あまくて、ほろにがく

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
土方さんと近藤さん1臨・黒の剣士。
事後の匂いのする朝の一時とあさごはん、そしてその帰り道。

 昨夜の睦みの気配がまだ色濃く残る顔を鏡に映して、近藤は欠伸をかみ殺した。
「近藤さん、まだ眠いなら寝てても構わないんだぜ? 朝飯くらい俺が持って──」
「いやだ。今日はエミヤ殿の特製ふれんちとーすとの日だから、直接いく」
 相手に甘えたようなぶっきらぼうな口調は、彼が黒の剣士と呼ばれる姿の時の特徴だ。
 その不思議な色合いを見せる彼の髪を丁寧にくしけずり、整えるのは恋人の土方歳三。
「あんた、あれ好きだもんな」
「うん」
 他の姿の時も気を遣うが、この姿の時は殊更に髪に気を遣う。
 普段の蒼混じりの黒髪なら、櫛るだけで元いた場所に収まっていくが、こちらはそうは行かない。
 その桜とも、木蓮とも違う不思議な色味の髪は可愛らしく跳ねて様々な方向を向きたがる。
 だが、その試行錯誤の道も近藤の為なのでまた楽しく、マスターや他のサーヴァントに聞いたりしてやっと手入れが様になってきたところだ。
「ほら、これでいい」
 最後の一房の向きを直し、あとは……首筋や項が必要以上に見えていないか、また夜の名残が覗いていないか確認の上ぽん、と肩を叩く。
「ありがとう、歳」
 それを知ってか知らずか近藤は微かに頷き、椅子から立った。
 自分たちがそういう仲だという事はカルデアの誰もがもう承知済だ。
 なので気をつける必要もなにもないかもしれないが、暗黙のルールとか、体面といったものがある。
 指摘されて慌てる近藤も可愛いが、そういう目には余り遭わせたくない。

 賑わう食堂にやってくれば、さすが厨房の守護者の限定メニューは人気のようだ。
 それでもなんとか近藤の分を確保し、席に着く。
「いただきます」
 好きこそものの上手ではないだろうが、近藤の食事をするときのナイフとフォークの扱いは、かなり慣れてきていた。
 自分は頓着しないので関係ないが、好きな人が巧みに食器を扱うのは見ていて気持ちが良い。
 表面はさっくり、中はしっとりもちもちなそれにメープルシロップをたっぷり絡め、口に入る大きさ(結構大きい)に切り分けて頬張る。
 その幸せそうな顔は、黒の剣士の霊基とは相反するような気もするが、非常に可愛らしい。
「ほら、歳にも」
 咀嚼し呑み込むと、近藤はフォークの先に刺した一切れを土方の口元に持っていった。
「いや、俺は……
「とーし!」
 断ろうとしたのは、周囲の視線が自分たちに集中していることに気付いたからだ。
 視線は期待した目と呆れた目、ほぼ半数くらいだろうが、当の本人は絶対に食べろ、の目なので、仕方なく受け入れた。
「ん、甘ぇ」
 土方の反応に、近藤は満足げな笑顔を作り、あっという間に残りを平らげた。



「なぁ、近藤さん」
 ご機嫌よさげにぴょこぴょこと跳ねる毛先を眺めながら、二人で部屋に戻る。
 その途中に土方は近藤に声をかけた。
「なんだ?」
「その……あーゆーのはちょいと、照れ臭いんだが」
 願い出たのは食堂での〝あれ〟だ。
「好物を分けてやってるんだ。感謝してほしいくらいだぞ」
 おまえならお気に入りの沢庵を人に分けてやるようなものだ、と頬を膨らませる。
「そりゃわかるんだが……
 好きな人からの好意を持った行動は非常に嬉しいが、場合によっては(姿は)子供もいる公衆の面前でのそれは土方には難易度が高かった。
「たまには自己主張しないとな」
 土方が頭を抱えかけたところで、近藤は立ち止まって後ろを振り返った。
「?」
「おまえは本当にいい男だし、このカルデアの古参で頼りにされてるから好意を抱くものも多い。俺とのこのえにしは奇跡的ともいうべきもので、強さは間違いないけれど、その上に胡座なんかかいていられない」
 微かに頬を上気させ、一息で口に出す。

 そして最後に一言。

「俺だって、歳に余計な虫がついたら嫌なんだ」