「サンダルフォン様、おはようございます」
「
…おはようございます。本当にやるんですか?」
「当然です。私は罰ゲームを受けているのですから」
とルシフェル様は微笑まれている。ルシフェル様からの敬語、しかも様付けで呼ばれるなんて俺の心が持たない。これが一日中続くのか
…。
このような事態になった原因は昨日の午後に行なった「空の民の文化を体験させ隊」の活動にある。これは団に来て間もない星晶獣や特殊な出生を有する面々に空の世界や団の生活に慣れてもらうために俺と団長、ルリア、ビィで始めたものである。ちなみに活動名を決めたのは俺ではないことは補足しておく。
ルシフェル様にこの活動を紹介し、参加してみてはとお伺いしたところ、是非にと参加表明されたのだった。
* * *
(回想)
今日の活動は「人生ゲームで遊ぶ」だった。人生ゲームとはルーレットでコマを進め、止まったマスによって色々なイベントが発生するものである。イベント例としては「結婚する」といった定番のものから「乗っていた騎空挺が墜落した。船の修理費と団員の怪我の補償で2000万ルピを支払った。」といったハプニングマス等、様々なものが用意されている。全員がゴールマスに着いた段階で最も所持金が高い人物が勝者となる。
今日の活動の参加者は6名。俺とルシフェル様とルリアとビィ、それにたまたま騎空挺に寄っていたサリエルとピズマだ。(古戦場前の準備で団長は不在。今回は参加者が少なめだった)
この面子で人生ゲームをする分にはいつもと変わらない穏やかな活動となっただろう。ルシフェル様が爆弾発言をしなければ。
「サンダルフォン。罰ゲームというものを聞いたのだが、それを試す事は可能だろうか」
「罰ゲーム?何だかよく分からんが面白そうだな!オレ様も混ぜてくれ!サンダルフォン」
「ピズマ楽しそう。僕もやってみたい」
「
…罰ゲームは皆でやるものでは無いのだが」
こうして人生ゲームの最下位者を対象とした罰ゲームが行われる事になった。罰ゲームの内容はくじ引きに書かれた内容を明日実行するというものである。
誰だ、ルシフェル様に罰ゲームという言葉を教えた奴は。まぁいい。俺が最下位になれば問題ないだろう。と手加減しようとしたのだがルシフェル様にゲームとはいえ真剣にやらないといけないと嗜められてしまった。まぁルシフェル様なら最下位になるなんて事あるわけが無い。そう思っていたのだが
…。
「何と、最下位はルシフェルか!想像していなかったぞ」
「ふふっ。波瀾万丈の人生を歩んだ為、山の様な負債を抱え込む結果となってしまった」
ピズマとルシフェル様が談笑するのが聞こえた。ルシフェル様を守れなかった。俺は無力だ
…。ちなみに一位は俺だった。どうしてこんな結果に
…。
しかし、ルシフェル様の番が来るたびハプニングマスに止まる様子は、まるで不運を司る星晶獣の影響を受けたのではと思うほどだった。今度コアの検査をさせて頂こう。
と、物思いに耽っていたところ、ルシフェル様が受ける罰ゲームの準備が着々と進んでいた。くじの内容は事前に参加メンバーで用意したもので、俺が書いた内容は「喫茶室の模様替えと掃除の手伝い」だった。クリスマスシーズンに向けて早めにインテリアを変える予定だったのだ。
「それじゃあ、ルシフェルさん引いてください!」
ルリアがルシフェル様にくじ引きの箱を差し出した。ルシフェル様がくじ引きの箱に手を入れられる。紙には何が書いてあるんだ、手に汗が滲む。
「「言葉遣いを変える」と書いてあるな」
「あ!それ私が書いたものです!」
ほっと胸を撫で下ろす。ルリアらしい可愛らしい罰ゲームで助かった。
こうしてルシフェルにどのような言葉遣いをさせるかを決める事になった。一人称を「俺」にするという案はどこかの狭間にいる誰かを連想させる為、すかさず却下を述べた。
そうして紆余曲折あったが敬語で話すという案が採用された。罰ゲームとしては大分軽い部類だろう。俺にとっては一大事だが。明日はなるべくお部屋に留まってもらおう、と策を練っていたらまたもや爆弾発言が聞こえた。
「なぁなぁ、サンダルフォンの事、サンダルフォン様って呼ぶっていうのも罰ゲームに追加したら面白そうじゃねぇか?」
「いきなり何を言い出すんだ!ビィィィィィ!!」
「成程、妙案だな」
* * *
こうして冒頭のやりとりに戻る。
ルシフェル様は終始俺を様付けなされた。会話を聞いたもの全員が異様なモノを見る目を向けてくるため、その度に釈明をする羽目になった。しかも、ルシフェル様は部屋に閉じこもっては罰ゲームにならないと俺の提案を飲んでくださらなかった。結局、食事や喫茶室の掃除など、一日中ルシフェル様と室外で過ごす事になった。本来であれば至高のひとときになる筈だったのに
…。実質、罰ゲームを受けていたのは俺だった。
「サンダルフォン様、もうすぐ夜になりますね。この後は私の部屋で珈琲を一緒に飲んで頂けますか?」
「
…!。是非頂きたいです」
これで漸く一息付ける。
* * *
ルシフェル様の部屋に招かれ、椅子に案内された。座るとどっと疲れを感じる。ルシフェル様が珈琲を準備される様子を拝見して心を癒させてもらおう。
しかし、今日は散々な目にあった。ルシフェル様に様付けされる度に心臓が高鳴ったし、俺たちの会話を聞いた団員のほぼ全員に揶揄われてしまった。暫くこの事態をネタとして引っ張られるかもしれないが、ルシフェル様を守れなかったのだから仕方がない。
そうこうするうちに珈琲がテーブルに運ばれてきた。
「お味は如何でしょうか?サンダルフォン様」
「
…とても美味しいです。しかし、もう夜ですし、罰ゲームは終了してもいいのでは?今は俺しかいないですし」
正直限界だ。一刻も早くこの状況から解放して欲しい。疲労からか思考の鈍りを感じる
…。
「ダメですよ。サンダルフォン様。罰ゲームは今日いっぱい続けるのが約束ですから」
「
…。」
公明正大を体現したようなこの方の誠実さを俺はとても好んでいるが、今回ばかりは融通を利かしてくれても良いのではないだろうか。ルシフェル様も俺が困っているのを知っているだろうに。もしかして揶揄われているのだろうか。そう考えると釈然としない気持ちになった。にこりと微笑むこの方の可愛らしいお口を見つめるほどその気持ちは強くなる。
そこで俺は気付いた。この方を黙らせれば良いのだと。この方がこれ以上「サンダルフォン様」と言えない様、口を塞いでしまえばいい。
「ルシフェル様。昨日の人生ゲーム、俺が一位でしたし、俺からの罰ゲームも受けて頂けますか?すぐ終わる簡単なものです」
「勿論、良いですよ。サンダルフォン様」
「
…それでは口を開けて頂けますか?」
ルシフェル様は言われるがまま口を開けた。従順で無防備な様は、何も知らずに駆られる前の小動物の様。
俺はルシフェル様に近付き狙いを定め、一気に攻める。口いっぱいに甘美な珈琲の味が広がった。
終わり
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