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スサ
2025-11-15 21:58:25
3982文字
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【ゲタ水】クリスマスまであと少し
ゲタ水WEBオンリーおめでとうございます!
できてるゲタ水ふうふの、新車をめぐる小話です。この話は全年齢ですが、会話の中で下ネタを含みます。
初めてのボーナスをもらったら絶対買いたいと思っていたものがあったが、最初の賞与だと難しんじゃないか
…
、とやんわり養父にして伴侶たる人は言った。果たしてその通りであったため、田中ゲタ吉は泣いた。何ならちょっと暴れた。地獄の十王庁へカチコミをも考えた。ゲタ吉の査定には彼らも関わっているからだ。
だがさすがにそれは、今度はやんわりどころでなく拳骨と共に止められた。そんなわけで初賞与は最愛の水木をホテルのディナーへ誘った。水木はたいそう喜んで、何ならうっすら涙を浮かべていたようにも見えた。
…
ただ、それは、どちらかというと「子の成長を喜ぶ親」の類の感激で
…
。ゲタ吉は複雑な気持ちだったが、いつも頑張っててえらいな、とその夜の水木はうんとサービスしてくれたので、まあ、その、結果オーライ万々歳の思い出が残った。
だがゲタ吉は諦めたわけではなかった。そんなわけで貯金をし、ローンについて学び、晴れてほしかったもの──念願のマイカーを手に入れたのである。
最近はどこも納車まで時間がかかるとのことだったが、そこはちょっとした伝手があり
…
けして脅したわけではないが、なんとゲタ吉の車は一月先のクリスマスイブの納車が決まった。出来過ぎである。ゲタ吉はけしてディーラーの祖霊を脅したりはしていないのだが。
──ゲタ吉が車のカタログを開いていた時まで、少し話を遡る。
元々家にいる時は一緒に過ごしているわけで、ゲタ吉がカタログを見ていたら、当然水木も一緒に見ていたわけである。
「今はこういうのが流行りなんだなあ」
正直、ゲタ吉は水木と一緒にドライブをしたい、の気持ちから車を欲しており、車そのものへの興味はそこまでなかった。何なら軽トラでもいい。荷物が多くても運べるし、そんな予定はないが、ぬりかべ
…
は無理でも妖怪仲間を荷台で運べないこともないかもしれないし
…
。仮にも仲間を荷台はないが、そこはゲタ吉も昭和半ばの生まれ、幼い頃は軽トラの荷台に乗っかって、例えば花火大会に連れて行ってもらう子どもの姿を見てもいる。さすがにそれが現在ではアウトもアウトなのは認識しているが、まあ人間以外ならいいだろう、くらいの所だ。でも水木さんとドライブに軽トラはないからな、という気持ちで却下されているに過ぎない。そして、そもそも、車自体はあるのだ。水木が時々乗っている車が。ただそれは中古だったし、やはり水木のものという認識なので、ゲタ吉は自分の新車がほしかったのである。
対照的に、水木の方はいわゆる3C──カラーテレビ、クーラー、自家用車(Car)の時代の当事者。ゲタ吉よりよっぽど車に興味があった。とはいえ、実年齢はそろそろ三桁に手が届く。今更スポーツカーに乗りたいとか、そういう願望はない。ただ、純粋に、流行の車を見るのは楽しい。
「
…
水木さんはどういう車が好きなんですか?」
「どういうって
…
」
ゲタ吉がまだ鬼太郎という名前で、水木に養育されていた頃。幼い鬼太郎のために、水木は知人から車を借りてドライブに連れて行ってくれたことがあった。あの頃、いつかはマイカーを持ちたいと言っていた気がする。ただ、車の種類や名前は当時の鬼太郎にはちんぷんかんぷんで、どんな車を水木が望んでいたのかはわからないままだ。今所有しているミニバンについても、買い出しに便利そうだから、というのが聞いている限りの理由で、つまり特別思い入れがあるわけでもないのだと思う。
水木はきょとんとした後、うーん、と少し考える。それから至極真面目な顔で言った。
「そりゃおまえ
…
、かっこいい車だよ」
「かっこいいくるま」
あまりの答えに、ゲタ吉は固まった。
え? かっこいい車って言った? この人。小学生男児
…
? うそ
…
かわいい
…
、と頭の中でぐるぐる回る。
ゲタ吉が固まっていることに気づかなかったのか、ぱらりとページをめくりながら水木は言う。そうして目を伏せていると、何も言わなければアンニュイな様子に見え、なんとも眼福である。言っていることが子どもっぽいことは置いておいて。
「あと、速いやつ」
「はやい
…
スピードが出る方が?」
「そりゃそうだろ。だってなんか
…
、かっこよくないか?」
「
……
そう
…
ですね」
水木は顔を上げた。そうして、怪訝そうな表情を浮かべる。
「ゲタ吉?」
「いえ、
…
はい、肝に銘じます。じゃあ山道なんかぐわーと上れちゃったり」
「山に車で行かない」
「あっハイ」
「かくかくして、なんか、四角いのがいい。最近はまるっこいのばっかりで
…
」
ゲタ吉は頭を抱えたくなった。どうも根本的に作戦がずれている気がして。
「四角い方がいい感じですか。なんていうか、こう
…
四角い
…
箱形っていうか
…
」
「でも後ろがストンとしてると、荷物あんまり積めないんだよな」
「あー
……
」
ゲタ吉は「実用性
…
、実用性もいるんだ! やっぱり軽トラ
…
?」と内心悶えた。そんなこととは夢にも思わない水木は、まあでも、と笑う。
「どんなやつだってさ、自分で初めて買う車って特別だから。俺はおまえがどういう車選ぶのか、すごく楽しみにしてる」
「うっ
……
!」
「どうした? 腹でも痛いのか」
「痛くはないです」
そっか、と水木は流す。ゲタ吉の選択は全部白紙になり、いったん振り出しに戻った。
「お茶でも飲むか?」
「
……
僕淹れてきます」
「そっか。じゃあ頼んじまおうかなあ。俺もう少し見てていいか」
「はい、どうぞ
…
もし水木さんが好きな車があったら教えてくださいね」
あはは、と水木は笑いながら、もう視線はカタログに落ちている。
「どうかなあ」
はにかむ水木の姿を心のカメラロールに収めながら、ゲタ吉は台所へ立った。
お茶を盆に載せて戻れば、水木はまだ熱心にカタログを見つめていた。よくよく観察すると、スペックまでじっくり読んでいる。ゲタ吉のためにという部分もあるかもしれないが、少年のような裏のない横顔を見ていたら、ゲタ吉は通算何百何千何億
…
数えたらきりがない恋に再び落ちそうになった。
「僕、ナンバーは絞ってるんです」
「ナンバー?」
お茶を渡しながら言えば、水木が怪訝そうな顔をした。
「0230とか?」
「違いますよ
…
、だいたいそういう路線でいくなら水木さんの誕生日にしますよ」
「そ、そうか」
からかうつもりがやぶ蛇になり、面食らった様子で水木が声を詰まらせる。ほんのり頬を染めているのが何ともかわいく、もう、何もかも許します、という気持ちにゲタ吉をさせる。
「そうですよ
…
。考えてるのは、3109かな」
「3109? なんの数字だ?」
首をひねる水木に、ゲタ吉はお茶を飲みながら淡々と答える。
「3は【み】、10が【ず】、9が【き】に
…
頑張れば音が
…
はまらないかなと思って」
「っげほ!」
「ちょっと、大丈夫ですか?」
ゲタ吉は神妙な声と態度で答えたのだが、水木はそれを聞いてむせた。むっとしつつも、ちゃんと水木の背中をさすってやるのだから優しい。まあ、ゲタ吉の中で、水木に優しくしないという選択肢は存在しないわけではあるが
…
。
「な
…
、おま
…
、もうちょっとあると思うが、9を【き】はちょっと無理がないか」
「そうですか? だめかあ」
いい案だと思ったんだけど、と言うものの、そこまで悔しそうにも見えず、水木は苦笑した。
「免許取った時のお祝いみたいなの、新車が来たらするか」
ゲタ吉はまたむせた。
「み、っ、みずきさんっ!」
しかも今度は顔を真っ赤にするおまけつきだ。水木は飄々とした様子で首を傾げるだけ。勝負になっていない。その上、水木はにやりと笑うのだ。
「おまえ、騎乗位好きだよな、意外と」
「意外ではないですね」
顔を赤くしむせている中でそこだけ冷静に反論してくるので、水木も結局耐えられなくなり、声を出して笑ってしまった。
「意外じゃないって
…
、おまえマゾなのか」
「水木さん限定で」
「あ
…
。そう」
「ちょっと、もうちょっと
…
あるでしょう、食い下がってくださいよ!」
勢いづくゲタ吉に呆れた目を向けた後、水木はため息をついた。
ゲタ吉が免許を取った時、じゃあ祝いをしないと、と言った水木に彼は騎乗位と二つ巴─いわゆる69と似た体位─のどちらかがいいと言ってきた。寿司やステーキを考えていた水木は呆気にとられたが、必死すぎると笑ってしまって
…
、結局両方やってやった。
免許でそれで、新車を買うなどという目的を果たしたら一体どんなことを望んでくるのやら
…
。
「でもひとつだけ先に言っておくぞ」
「なんですか?」
「車の中では、しない」
「
………………
、なんで?!」
一瞬ぽかんとした後、ゲタ吉がかなり必死の顔で悲鳴を上げた。したかったのか
…
、と水木は憮然とした顔になる。
「なんでって
…
、たぶん頭ぶつけるだろうし、
…
車の中汚れるだろうし、
…
その後車
…
なんか乗りたくなくなるだろ」
がーん、と口で言ってショックを受けた様子を示しつつ、じゃあ車内の天井が高ければいいのかな、とゲタ吉は考えた。もちろんそういうことではない。
「
………
まあ、
……
ドライブして、ホテルくらい泊まってもいいかもな」
そしらぬ顔でさらりと言っておきながら、よく見れば水木の耳の先はほんのり赤い。照れているのを隠している。なんて可愛い人なんだ、とゲタ吉は思う。
「
………
まあその」
「うん?」
「
……
まじめにいい車を選ぼうと思います」
水木は目を見開いた後、うん、そうだな、とひどく嬉しそうな、優しい顔で笑った。
ゲタ吉の選んだ車がどんなものかは、クリスマスになればわかる。
果たしてクリスマスデートがどんなものになるのか
…
、答えが出るまでは、あと少しである。
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