asahito
2025-11-15 18:40:00
5282文字
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Corpse Reviver①

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

季節が少しだけ進み、今回より新しい話となります。

 無慈悲に何人もの命すら奪うような暑さが漸く少し和らぎ、汗を鎮めるよりも純粋に酒を楽しむ客が増えると。
 やっとうるさい夏は終わったのだと感じ。この先は仕入れる酒の種類も少し変えようかと考え始める。
 酒を提供する店とはいえ、年がら年中同じ酒を出してる訳ではなく。季節によっては特定の酒を主役にしてちょっとした行事にすることもある。
 マンネリ防止でもあるが、忙しいお客様たちにちょっとした四季の移ろいを味わってほしいという気持ちと。そういうことをすると客足が良くなるという狙いからだ。
 あとは私の腕前や記憶が衰えないようにするために鍛え直す意味でも、イベントの案内は色々なSNSや口コミを使って宣伝はする。
 夏であれば爽やかな味わいが好まれるから、それに特化した清涼感溢れる酒を筆頭に出したり。
 これからのように寒くなるならコーヒー系統のカクテルを増やし、北欧で好まれるカクテルで身体の芯から温めてやる。
 夏の終わりの次は当然秋だが。最近は秋が見つけにくくわかりづらいのは嘘ではないだろう。そうなるとイベントの出し方も従来通りとはいかず。
 デザートに力を入れてみようと思っても、こう季節が掴みづらいとこちらも動きにくい。だれがこんな訳の分からない季節にしやがったのか。
 注文に慣れない客から季節感のあるカクテルを作ってくれ、と言われて。一番頭を悩ませるのもこの時期だ。いっそ阿呆のように暑ければ西瓜を潰してカクテルに、なんてのもできるんだが。
 今それをやっても冬山の登山でかき氷食ってるようなちぐはぐさにしかならない。
 それ故に、年がら年中馬鹿の一つ覚えみたいに。いつも同じものしか頼まない客というのは私が心穏やかにいられる意味ではありがたい。
「駒草久しぶりー」
「龍さん。仕事は落ち着いたんで?」
 今夜は過ごしやすい夜だろうと思いつつバーカウンターを拭いていると。客はすぐにやって来た。
 開店してすぐによく顔を出してくれる、問題客すれすれなうちの常連。夏はあまり顔を出してくれなかった龍さんがひょっこり顔を出した。
 既にシャツの一番上のボタンは緩めており。もう今夜は何があっても働かないぞという意気込みが伝わる。
「追いかけてたネタももう陳腐化してね。燃え尽きた場所に火を放っても焦げ臭いだけだろう」
 真ん中あたりの席に腰掛け、私からおしぼりをもらうのも何度繰り返しただろうか。うちの店ができてからずっと来てくれているありがたい方ではあるが。
 昔は随分とやんちゃし今もその尊大さが顔を覗かせるので、問題客すれすれというのはそういう意味でつけている。
 この店と私の為に危ない役も買ってくれるのはありがたいのだが、それ故に色んな条件をこちらも飲まされているのは事実である。
……ご注文はいつも通りで良いですね」
 火を放つとか、また危なっかしいことしてんだろうか。この人は記事のためならいくらでも危ない橋を渡るし。
 その責任を部下に負わせたり庇ったりとよくわからないことをいつもしてる。
 前に龍さんの部下が涙目になりながらうちの店に来て、龍さんの傍若無人っぷりにもう辞めたいですって言って来たこともあるから、夜道と労基に本当気を付けろこの人。
「うん!それよりうちの典の写真見る?」
 いつも通り注文したらスマートフォンを出し愛しのペット典ちゃんの写真を見せようとするが。それを見てたらあんたのビールが用意できない。
 典ちゃんの服や玩具また買ったみたいだけど。そんな増やしてあんたの家、置く場所あるのか。
 放棄するよりかは溺愛の方が絶対に良い飼い主ではあるが、前ツーショットを見せられた時は明らかに擦り寄る龍さんの頬を典ちゃんが手で拒否してる写真だった。
 愛は決して伝わるものではないとは言うが。この人ほどペットに報われない飼い主も中々いないだろう。
「それは後で……毎度申し上げますが、最近は労働時間やコンプラというやつが厳しいんでほどほどに」
 サーバーから龍さんお気に入りのビールを注ぎ。比率をきっちりと守って前に出してやる。龍さんは私からグラスを受け取るとありがとう、と礼を述べた。
 こういう部分の礼儀はあるからこの人が何してもあまり言いたくはないんだが。きっと、この夏もうちに顔を出さなかった分嗅ぎまわって火種を探しまくっていたのだろう。
 魅須丸も、龍さんも。その二人に関連する奴らも。この夏が終わるまでは前よりあんまり顔を出してくれなかったんだけど、そんな偶然なんてあるのか。
 示し合わせて私の店に行かないようにしよう、なんて言い出す連中じゃないから。単に学業や仕事が皆忙しくて来なかっただけか。
「そのコンプラを守らない悪の連中を叩くのが我々の使命だろう?」
 これはこの世の為、社会のためなんだと。偉そうに抜かす龍さんも部下から言わせれば相当なことをしてるらしいが。
 昔は許されたというか、黙認されていた行為がどんどん犯罪や侵害になると言われ始めているとは聞く。それは、良い事だろう。
 だが我慢させられていた連中から見れば何故自分だけが、と気に食わない思いもあるだろう。龍さんも昔の苦労話で愚痴るのは面白くないから。
「そういうのって最後はお役所や司法ってのが裁きを下すんじゃないですかね」
「公的な裁きよりも私的な裁きの方が抑止力になることもあるさ」
 私的な裁きっていうのは影響力も被害もでかい。誤解による冤罪や虚偽だってある。素人が義憤に駆られての行動は正しいとは限らない。
 あんたの仕事は他人の覗き見だし、どっからどう見ても怨恨買いやすい行動だから言ってんだろうが。お役所が公的に裁いたって恨まれるのに。
 なんでこんな人がちゃんと管理職やれてるんだろう。私は会社なんて勤めたことないから知らないが、管理職って言うのはどういう基準で選んでるんだ。
……龍さん、その志には毎度感服ですよ」
 お世辞を言ってやると龍さんは分かってるのか、本気で受け取ったのか、少し照れたように笑う。
「恨みを買うのは慣れてるし当然だが。私たちが騒いだから動かすことができるのも事実なんだよ」
 芸能人の色恋ばかりを追いかけてるわけじゃないからね、と龍さんは語る。
「まあ、確かに」
 情報が溢れる社会での伝播力というのは。誰も止められず、それ故に良くも悪くも力を持つ。
 悪い方向に向かえば冤罪や自殺を生むことはあるが。良い方向に向かえば、とある口コミから注文が殺到して廃業寸前の企業を見事救った人情話にもなるし。
 勇気のある告発から、とある不正が明るみになり全ての悪事が露見されたという事件も沢山見て来た。
 うちの店だって。口コミという情報のお陰で成り立っていて、この前の阿梨夜とユイマンって客だって口コミでうちの店にやってきてくれた客だ。
「うちの店も龍さんの口コミって言う情報で結構客が増えてるのもありますしね。そこは感謝してます」
 前ユイマンから貰った酒と鹿肉、安全確認の為に家に持ち帰って色々調べてみたがやはりただの買ってきた酒と鹿肉だった。
 その後はなんとなく忙しくて飲んだり食べたりしてないんだけど。
 酒は今度カクテル作る時の実験材料にでもしてみようか、それか魅須丸がうち来た時に一緒に飲んでもいいし。鹿肉も家に帰ったら食べてみよう。
 少なくともあいつらが今度うちの店に来た時には、酒と鹿肉の味の感想を言ってやることが礼儀だろう。
「いい店なんだから紹介するのは当然だよ。安い居酒屋のビールの手酌じゃこの味は出会えないしね」
 そりゃ、居酒屋のビールとうちで出してるビールは種類が違うから当然なのだが。一番美味いと感じる温度と比率を守ってることを評価して貰えるのは嬉しい。
 龍さんは少しビールに口をつけて今週の労をねぎらうように溜息を吐いた。
……あー、帰りに酒がのんびり飲める労働環境ってのが、やっぱり一番だよなあ」
「最近は定時で帰れてるんで?」
「うん。うちの上層部も流石に気にしてるみたいでね。ほら、この前労働環境で叩かれた大企業があったろう」
 龍さんの言葉に私もニュースの内容を思い出してみるが。
 確かに、どっかの大企業が酷い労働環境で働かせていたため、お上の監査が入って相当叩かれたことをニュースキャスターが評論家と交えて話しているのは見た。
 告発かなんかで明らかになったのか、別の調査機関が探りを入れて明らかにしたかは忘れたが。とにかく、酷い有様だったと。
「叩けば埃が出るような労働環境なんて、どの職業に就いてる奴だって気になるし見れば悍ましい気持ちになる……だから、明るみになった火種を燃やせばもう全て焼き尽くす山火事みたいなものだ」
 火山の噴火ともいえるかな。私のビールを美味そうに飲みながら龍さんは饒舌に語る。
 山火事だろうが火山だろうが、一度起きると恐ろしく取り返しがつかないってのは山育ちだから知っているし。
 山の怒りに喩えるあたりは龍さんも山育ちなんだなあと思う。べらべら仕事の内容をしゃべる守秘義務の概念はあんたにないのか、と尋ねたくもなるが。
 私だから信用していると思っていいのだろうか。
「すごかったよ、あの企業の本社の前とかさあ。取材陣だけじゃなくて酷い扱いされた元社員とか、恨みを持ってる奴とかで溢れてとうとう警察も来ちゃって」
 連日メディアで餌にされていたとある大企業の醜聞なら、胸糞の悪い労働者の扱いまで事細かに語られていた。
 私ですら知っているのだ、龍さんはもっと見ていたのだろう。
 確か、システムを提供する会社だったから。機械を使役する奴らが機械に使役されてるような状態なのかとぼんやりと思うのだった。
「あそこまで叩かれたらいくら図太い連中でも無理じゃないですかね。今はお上に怒られて色々厳しくチェックしてるとは聞きますが」
「さあね……流石に指導とかを恐れて上層部や管理の連中を一新したり、労働基準法の教育をしたとは聞いてるけど」
 そのとばっちりでどこの業界も雁字搦めになり、お上に睨まれ、自分たち管理職には世知辛い環境になったと。
 龍さんはグラスを飲み干して愚痴った。同じ目に遭わせないようにしろなんて言われても、何を今更という気持ちもどこかにあるのだろうか。
 人道的にはやってはいけないのは分かるが。その気持ちが怒ることは、責められない気もした。
 この人はこの人なりにポストに就くための辛苦もあっただろうから。何かが変わるときは、その変化に我慢を強いられる奴がどうしてもいるのだ。
「すぐには変わらないんじゃないか。腐った食材だらけの冷蔵庫を元通り綺麗にするには時間が必要だし」
 立派なことを言うが、たまにはその腐った食材にあんたはなってないか心配しろ。発言が炎上じみてるのは龍さんもそうだ。
「何の会社でしたっけねえ、そこ。あんまり私には縁がないから覚えてなくて」
 システムの会社なのは知っているが、電気とか水道とか、いつも使うショッピングサイトの話なら何となく社名聞けばわかるが。
 確かニュースで叩かれていたのは、何だっけか。あまり聞いたことない会社の名前だった気がする。
「ああ、あそこ?国の要人や元華族みたいな身分にしがみ付く連中が利用するサーバの管理会社だよ」
 その企業の説明に明らかに悪意と偏見が籠っているが。確かに龍さんから社名を聞けばなんとなく見たかもしれない。
「特定の身分が利用するシステムってやつですか」
「まあ、優待会員だけ利用できるサイトとかあるだろう?あれと理屈は同じだけど……数分システムが止まったりしただけで億どころか兆の損害が出るとも言われてる」
 億とか兆と聞いてもピンと来ないが。
 そのシステムがしくじったら眼球と内臓全部売り払っても責任が取りきれないものみたいなものか。ぶっ壊れたらどうなるんだろう。
「そんな会社叩いたら利用する方が怒りそうですがね」
 叩かれてる間に自分たちがそのサービスを使えなくなったらどうするんだ!とか騒ぎそうだけど。
 身分の高い連中がいるとしても、お上に逆らうわけにはいかないのだろう。
「悪評のあるサービスを利用してるなんてバレたら、その利用者だって身分に疵が付くだろうからね。くだらないプライドの高い同士火消が最優先だったんだろう」
……面倒くさい話ですね。ま、私には無関係ですが」
 そこまでして面子を保ちたいほどの身分なんて、持っているだけ束縛されて面倒なだけだろうに。
「無関係かねえ?案外それに関わってる奴がこの店に来たら是非ともお話を伺いたいところだけど」
「まさか」
 そんな都合の良い話があるものか。それに、仮に来たとしても。龍さんにその事を教えることはないだろう。
 客の情報の守秘義務。それを破るような店主こそ、山火事のような炎上の対象に相応しく燃え尽きるだけだ。



 続く