白殊皎(しらよし こう)
2025-11-15 16:24:10
5203文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

きみのてをとって


FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
黒の剣士が幼児化した。
しかも懐いているのは土方にのみ。
カルデアの明日はどっちだ。

お待たせしました。
今日も黒剣ちゃん(1臨近さん)です。
七五三なのでお子様で(後付け理由)。



 それを見つけたのはストームボーダーの廊下だった。
 見覚えのある黒に紅を纏わせた衣装。
──それが、無造作に脱ぎ捨てられたような形で丸まっている。
 ちょっと待て。
 それが第一発見者・土方歳三の正直な感想だった。
 この落とし物はまず間違いなく近藤勇のものだ。
 様子からすると、上から下までまるごと一着。
 近藤の良識からして、こんなところで着替えるわけがないとは思いつつ、中身はどこに行ってしまったのか非常に気になった。
 酒宴などなかったはずだし、そもそも脱ぎ癖があるのは原田であって、近藤ではない。
 ともかく、この衣装は回収しなければならないだろう。
 そう思って近づくと、もぞり、とそれが動いた。
「──!?」



「いやぁ、見事なまでの霊基異常だねぇ~。いっそ清々しいよ」
 血相を変えてダ・ヴィンチちゃんのところに駆け込んだ土方に、駆け込まれた方はまたか~とお手上げの様子を示した。
──廊下に落ちていた黒の剣士の衣装。
 中身の近藤は、その中にいた。
「とち……
 とし、とも呼べない舌足らずで土方にしがみつくのは黒の剣士の──少年……というより幼児。
 微かに記憶はあるらしいのだが、確かめようとしても本人がまともにしゃべることもできない上に、土方から離れようとしない。
 その上、土方以外が接触を試みると、大泣きするという状態でどうにもこうにも、まさにお手上げなのだ。
「想像以上にヤバいとこっスね、ここは」
 目下現実逃避中の土方以外でだれかコンタクトが取れる人物がいないかと、集められた新選組メンバーだったが、頼みの綱の沖田ですら半ベソでごねられるという惨敗を喫していた。
 当然、沖田以外はギャン泣きである。
「いやぁ……局長も、なかなかに手強い……
 物腰が柔らかいからいけるかも、と死に番に選ばれた山南も、思いっきり泣かれてかなりショックを受けているようだ。
「まさか……おきたさんが……ひじかたさんにまけるなんて……
 沖田はどうやら土方に負けたという事実の方がショックが大きいようで、床に倒れ込んで黄昏れている。
「土方くん、そろそろ現実に戻ってきてほしいんだけどさー」
 これはもう懐いてる人に頑張ってもらうしかないとダ・ヴィンチちゃんは判断した。
………………
「一時的な霊基異常だから、数日で戻ると思うし、その間ちゃんとお世話できるのは近藤くんが懐いている君しかいないんだよ」
……とち」
 近藤は小さな手を伸ばして、土方に抱っこ、というようにせがむ。
「わかった……
 土方はやっと言葉を絞り出す。
「何があっても俺が近藤さんを立派に育ててみせる!!」
──いや、数日で戻るって言ってるじゃないですか!!
 土方の宣言に、隊士全員心の中でそうツッコミを入れていた。



 食事時、土方は自分の分は明後日の方向に投げておいて、小さな子供用スプーンで一口一口丁寧に食べさせていた。
「こえ、いぁ~……
「一口食えばいいから、なんとか頑張ってくれ」
 嫌いなものがあっても、まずは一口、上手く行けばもう一口。
 無理強いはしないが、甘くもない。
 そして、相手が子供だからといって、幼児言葉は使わない。
 普段の十数倍は時間がかかっているが、それを苦にしている様子はない。

 移動は基本抱っこでしているが、近藤が歩くと言えば歩かせている。
 途中で歩くのに飽きても自分で歩くと言ったんだろう? とある程度は歩かせる。
 本人が嫌がってもお風呂もちゃんと入れる。
 いたずらをすれば当然キッチリ叱る。
 夜更かしなんぞもってのほか、ストームボーダー内時計の午後八時には、添い寝でおやすみなさいの世界だ。

 生前を含めて、どこでそんなスキルを身につけたんだと思うくらい土方は黒の勇ちゃん(いつの間にかストームボーダー内でそう呼ばれるようになった)をまめまめしく世話をしていた。

「あんな土方、ぶっちゃけおぞましいんじゃが……
「ノッブもそう思います? 天変地異でもおこ……もう白紙化してましたね」
 どこからどう見ても良いパパ(もしくはママ)な土方に、ノッブですら引く有様だ。




──ストームボーダー内時刻・午前六時。
「とち」
 目を覚ました近藤が、いつものように両手を広げて抱っこの意思表示をする。
「おはよう、近藤さん」
 早ければ数日で、長くても一週間以内には、と推測された近藤の霊基異常は今日で二週間継続していた。
 いくら何でもおかしい、とダ・ヴィンチちゃんや医療スタッフが霊基の再スキャンをしてみても、特に異常はない。
「もうこれは、心因性の何かかもしれないよ?」
「心因性?」
 検査を嫌がってぐずった近藤をなだめながら土方は聞き返す。
「つまり、近藤くんは、子供のままこのままでいたい、との願望があって、それが元に戻らない一因かもしれないというやつさ。なおかつ、黒の剣士の霊基なこと、もう一つオマケに未だに心を許しているのが土方くんだけという形で重なってる。これは結構なレアケースかもしれないね」
 そう、もう二週間もこの状態でいる近藤は、未だに土方以外にはギャン泣きをする。
 新選組隊士にはだいぶソフトになってきてはいるが、沖田にすら態度が硬化したままだ。
「つまり、近藤さんは元に戻りたくねぇと思ってるってことか……。なら俺のせいだな」
 近藤さんはトップになんぞ立ちたかなかったのかもな、と自嘲気味に土方は言った。
「いやいや、そう決まったわけではないよ。それが直接の原因なら、なんで土方くんにだけ懐くのかっていう矛盾が生じるからね」
「そりゃ、近藤さんが優しいからだろう。本当はいろいろ言いたかったはずだ……俺が聞く耳さえ持っていればな」
 腕に抱えた近藤を見つめ、その前髪を梳きながら言う。
 どれも推測の域を出ないことながら、ここで土方にまで凹まれては困る。
──ついでにこのカルデアでは土方がかなり重要な戦力なため、できれば早めに前線復帰をしてほしい。
「ま、もうしばらく様子を見よう。明日には何もなかったかのように元に戻るかもしれないしね」
「近藤さん。構わねぇよ、好きなだけこのままでいな」
 深く凪いだ瞳で、腕の中の幼子を見遣る。
「とち」
 近藤は一つ覚えのように土方の名を呼び、その幼い頬を土方にくっつけてくる。
 柔らかなその感覚に、土方は涙が零れそうになった。

 なぜ、この幼い近藤が自分だけを慕ってくれるのかはわからない。
 わかるのは、黒の剣士の近藤は計り知れないほどの寂しさを抱えているということだ。
──賑やかな食堂の隅で、うるさくも暖かい騒ぎを避け冷たい廊下で。
 その紅の瞳に言葉に表せぬ寂寥を漂わせ、近藤は佇む。
 何度も抱きしめた。
 生前伝えられなかった言葉を伝え、想いを伝えた。
 最近、やっとかげりが薄くなったと思った矢先のこれだった。
 もし、自分のそれが間違っていて、重荷になっていたのだとしたら、それから逃れるためにこうなってしまったのだとしたら……

 ずっとこのままでいい。
 元に戻らなくてもいい。
 嫌なもの全てから目を逸らし逃げてくれていい。
 悲しい顔を見るよりその方が何倍もましだから。
 自分は今度こそ間違わず全てを受け止めるから。

「とち、いたい?」
 いつしか真っ赤に潤んだ土方の目元を認めたか、近藤は手を伸ばしてその髪に触れると、いいこいいこをするように撫でた。
「俺は、大丈夫だ。近藤さん」



──それから、更に二週間。
 近藤はまだ黒の剣士の霊基で、幼児のままだった。
「のう、土方よ。おまえ、いつまでそうしとるつもりじゃ?」
 いつものように黒の勇ちゃんを抱えて歩く土方の前にノッブ──織田信長が立った。
「おまえには関係がないだろう」
 殺気立つ空気に近藤が反応し、泣きそうになったので、宥めながら対峙する。
「もう、わかっとるじゃろう。その近藤とやら、もう自分で戻れるわい」
………………
カルデアここはいくさ船じゃ。余計なものを飼っておく余裕は、ない!」
 問答無用とばかりに信長は銃を構え二人に向かって発砲をした。
 瞬間、土方の腕に抱かれていた近藤の姿が、解けるように広がり、それを防ぐ。
「──随分、乱暴だな。子供相手に」
 次には土方の肩に優雅に腰をかけ、その不可思議な色の髪を靡かせる幼児ではない黒の剣士の姿があった。
「おぬしらがふざけたことをしとるからじゃ」
「傷を癒やすのに、日月じつげつだけが薬となる場合もあるだろう。何が悪い」
 いつしかその右手には虎徹が顕れ、土方の手にも獲物が握られている。
「ほざきおるわ!!」
 信長の、土方の、近藤の魔力が炎となって立ち上る。

三千さんだ
不滅のしんせん……
「誠の……


──そこまでーーーーーー!!

 魔力が頂点を極めようとしたその寸前、三画使っての令呪の抑止が発動した。


──なにやってるの、ノッブ! いらない喧嘩を売らないの!!
──土方さんも受けて立つんじゃありません!!
──近藤さんも、私闘は厳禁、って最初に言ったよね!?

 その後、カルデアの廊下に三人揃って正座させられた信長、土方、近藤にマスターの雷が落ちた。
「わし、悪くないし。悪いのは人斬りサークルの方だし」
「──なんだその……悪かったな」
……認めざるを得ない、か……
 三者三様、本当に反省をしているかわかりにくいが、ダ・ヴィンチちゃんとマシュも援軍に入り、お説教はキッチリ一人一時間食らった。



「で、近藤くんはいつから戻れるようになってたのかな? そして、戻れるのがわかっても黙っていたわけは?」
 お説教が終わると、次は尋問タイムだ。
 矛先はもちろん──黒の剣士・近藤勇。
………………
「はい、そこ! 子供になろうとしない、黙りこくらない!!」
 話を逸らそうとしても首根っこを押さえられる。
「最初に幼児になったのは、本当のことで、それは不可抗力だ……。戻れるようになったのに二週間かかったのも事実……
 紅い瞳に明らかな不服の色を浮かべて、ぼそぼそと口を開く。
「そっから先は、俺がそうしろと言ったんだ、近藤さんは悪くねぇ」
「はい、土方くんは黙って!」
…………
 ちゃんと自分の口で説明をするまで逃がさない、と凄まれて、目を伏せた近藤は視線だけ土方に向けた。
「いいぜ、……仕方がねぇ……
 土方は自分の頭をバリバリと掻くと、何やら合意する。
 互いに、かなり顔が赤い。
「心因性、と言われてから少しして戻れるようになった……
 ぼそぼそぼそ、と蚊の鳴くような声で近藤は続ける。
「黙っていたのは……その……。俺も、歳に甘えられるのが嬉しかったし……甘えると歳が喜んでくれたから……つい……
「ほうほう、それはそれは興味深い。それなら土方パパも頑張っちゃうわけだ」
 それを聞いたダ・ヴィンチちゃんの口元は引きつり、目は笑ってなかった。

──ただの疑似親子ごっこがしたかったのではあるまい。
 近藤には近藤に、土方には土方に互いを求める理由があったから、寂しい魂同士が一時の癒やしを求めて幼い夢を見たのだろう。

 寛大な少女マスターが下した裁定は、別のサーヴァントのための素材収集の周回を二人一緒に二週間みっちりと。
 その間、近藤は黒の剣士の霊基固定だが、イチャイチャは禁止。
 むしろご褒美にも思えるその内容に、ノッブ他新選組の隊士も大いに不満を募らせたとか。





「本当に、よかったのか?」
 エネミーを斬り倒し、素材を剥ぎながら近藤が土方にそう聞いた。
 俺では嫌なのでは? と続けると、土方はフッと微笑んだ。
「むしろ願ったりだ。あんたを寂しい思いをさせなくて済むからな」
「まったく……おまえにはついて行けぬ。俺の言うことなすこと、全面肯定だ」
「それだけ、俺はあんたにやられてるんだよ」
 状態を精査し、保存用の袋に詰める。
「だがな……。本当に嫌なら言ってくれ。今度は道を間違えたくねぇ」
 今日のノルマは達成した、帰るかと土方は近藤に手を差し出した。
「俺もだ。もう二度と、おまえを裏切るような真似をしたくない」
 その手を握り返し紅の目を細めてうっとりと土方を見遣る。
「約束だ──」
 土方はその手にそっと唇を落とす。
『お二人とも帰還の準備ができましたが、イチャイチャは禁止です! ノルマが増えますよ!!』
 通信機越しにマシュの声が響きはしたが、二人の耳には入っていない。

 それも仕方のないことだろう。
 なんせ、奇跡の邂逅を果たした二人なのだから。