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望月 鏡翠
2025-11-15 14:30:29
904文字
Public
日課
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#1906 リュネストの領地で、ある日のこと6
#毎日最低800文字のSSを書く/我らが王の身罷りて 二次創作
まだ睦言の空気が消えない部屋の扉を控えめに叩くものがある。この瞬間、トルガの脳裏には剣を携えた刺客が浮かぶ。
身の回りにある脅威を理解していないわけではない。〝忍んで〟などという言葉が、貴族の間でしか伝わらぬ言葉であることもわかっている。
いかに人の出入りが多い港町とはいえ、貴人が服を変えた程度で本当に身をやつせるわけがない。貧しきものと止めるものは、履いている靴や肌や髪の艶、臭いや周囲にやる目線の険しさでそうとわかるものだ。
そして本当に貧しいものは移動などしない。ここでならかろうじて食って行けると決めた、己の縄張りから動かない。木箱の影にうずくまる浮浪者は、誰かに酷く蹴られるか死ぬかするまでそこをねぐらにしている。
トルガを殺したいものがいるのなら、きっとこのときに来るだろう。リュシーなら物盗りか痴情のもつれに見せかける。
サンドリエイルはもう少し気取った場所で、毒か暗殺者でも使うだろうか。
答えは扉を開けばわかる。
そしてその瞬間、死の可能性があると知りながらも、開くことを躊躇ったことは一度もなかった。
そこに立っていたのは、屋敷で最近雇った若者だった。
「あの、お着替えと馬車がついております」
ドギマギとしながら目のやり場に困ってトルガを待つ様はいかにも世間知らずで微笑ましい。
「ああ、分かった。
……
せっかくなら遊んで行ったらどうだ。払いは俺持ちだ」
素っ頓狂な声をあげるが、満更でもなさそうだ。
ならばあとは、経験豊富な女たちに任せておけばいいようにしてくれる。
「初体験が俺の店の女とは、羨ましいな」
トルガは、店を後にする。
馬車は店の前につけるなという指示はちゃんと守っていた。覚えはいい。あとで彼女に床の中での様子を聞いて、信用できそうならもう少し地位を上げてやってもいいかもしれない。
馬車に乗り込むと、中で用意されていた服に着替えた。
流石に酒場に潜り込むときの服装で、貴族の前には立てない。そのくらいのことはわかっている。
用意は周到にしているが、屋敷に戻らぬまま出かけたから、家令は茹で海老のように赤くなっていることだろう。
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