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心唯らむね
2025-11-15 11:11:45
9065文字
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緋色の絆(仮)
傷痕ZA編描き始めちゃった……
概要:パルデア地方のチャンピオン=拙宅SV♀主がZA軸のミアレに来たよ!!!(雑)
生と死が美しく循環するカロス地方。その中心に位置する、技術と芸術のメトロポリス・ミアレシティ。
街の玄関口となるミアレ駅の前には、スマホロトムを掲げる少年が、ひとり。
「
……
このアングルが良いか。よし、準備OK!」
浮遊するスマホロトムの位置を調整しつつ、少年・ガイは、背後に控える三匹のポケモンの方を振り返る。
「オマエたち、今回も撮影に協力してもらうぜ!」
三匹はそれぞれ大きな体を揺らし、元気よく鳴き声をあげる。
メガニウム、オーダイル、エンブオー。この三匹は、ポケモントレーナーであるガイの手持ちポケモンだ。趣味の人助けに奔走しつつ一生懸命育成してきたおかげか、若い個体ながら、かなり良い仕上がりになっている。
とはいえ、だ。
「でも、やっぱり進化前の方が動画映えするかも
——
あ、いや、すまん、悪かった。オレが悪かった!」
軽率な発言をするガイに、三匹はそれぞれ不満そうな鳴き声をあげる。
確かに、動画へ映すには、進化前の可愛らしいポケモンの方が適している。ホテルの客寄せを目的としているガイには、なおさらに。
だが、ガイの目的を達成するには「進化前の可愛らしいポケモン」では力不足になってしまうのだ。
「ロワイヤルで勝つためだもんな。オマエたちには強くいてもらわねえと。もちろん、オレも頑張るぜ!」
三匹をなんとかなだめ、再びスマホロトムを取る。撮影再開だ、と気持ちを切り替えた瞬間。
「よう、ガイ!」
背後から声をかけられる。振り向くと、顔見知りの若い土木作業員が一人。人気ゲーマー「カナリィ」の姿がでかでかとプリントされた、派手なタンクトップを身につけている。
「また、あのつまんねえ宣伝動画撮ってんのか?」
「勝手に言ってろよ。いつかバズって、ホテルZに溢れるくらい人集めてみせるからな」
ガイの返しに、彼は呆れたように肩をすくめる。タンクトップのカナリィも、その顔を一緒に歪めていた。
「でも、あんな暗くて分かりづらい場所に、客なんて来るかよ。シュールリッシュみたいな格式もねえ。カナリィちゃんが客寄せしてるならまだしも、お前とそのダチと、あの不気味な大男しかいねえし」
「AZさんをバカにすんなよな。というか、今日は客来るぜ」
彼の言いぐさにムッとしたガイは、即座に切り返す。誰もがバカにできない、とっておきの情報とともに。
案の定、彼は目を見開いていた。
「マジかよ、何か月ぶりだ!?」
「三か月
……
いや、二か月と三週間ぶり。しかも、かなり長めの連泊!」
「いやほぼ三か月だろソレ」
自慢げに返すガイに、彼は呆れたように目を細める。
「
……
とにかく、オレは今その客を待ってるんだ。その合間に、コイツらと動画撮影してたってわけ!」
手の中のスマホロトムを振って見せる。ぱっと光った液晶画面は、そろそろ「ミアレの夜」が始まる時間を示していた。
「ただ、遅いんだよな。予約の時間、だいぶ過ぎてるし」
恩人・AZのホテルに住み込んでいるガイは、ボーイのような仕事もしている。ベッドメイクに食事の用意、そして客の送迎と荷物持ちもだ。今日も送迎のためミアレ駅までやってきたのだが、予約の人物は未だに現れない。
その疑問に回答を寄越したのは、隣に立つ彼であった。
「ああ、知らねえのかお前。二個先の駅のあたりで、メェークルの群れが線路塞いでるんだと」
「えっ!?」
「だから電車はストップって、ニュースでやってるぜ。ほら」
彼の薄汚れた指先が示す先には、建物に貼りついた巨大モニターがある。その奥には『ミアレ近郊でメェークル大量発生!』だの『列車が立ち往生!』といった文言のテロップが踊っていた。
「あー、そりゃ、遅れるわけだ
……
」
納得と同時に、気付かなかった自分への情けなさが襲ってくる。動画撮影の準備に夢中で、ニュースなど目に入らなかったのだ。
そんなガイの背を叩き、若い作業員は歩き出す。
「暗くなってから一人でミアレを歩くのは危険だからな。そのお客さん、しっかり案内してやれよ。じゃ、またな」
「ああ。そうだ、今度また工務店の手伝いに行くからな!」
遠ざかっていく背に呼びかければ、薄暗くなってゆく街中に、笑顔が見える。
「おう、助かるぜ。俺らも、親方の腰もな。さすが『人助け好き』のガイ!」
彼は振り返って大きく手を振ると、今度こそ背を向けて家路についた。
人の安心したような笑顔を見ると、自分もどこか安心できる。大切なものを失った心が、ほんの少し満たされる気がするのだ。やりすぎて悪いことでもないがゆえに、ガイは困っている人を助けてばかりいた。
そして、今一番笑顔を見たいと思うのが、恩人であるAZ。ガイが世話になっている「ホテルZ」のオーナーである。自称三千歳で、身長は見上げるほど高く、五年前に何かのセレモニーに乱入した噂もある
……
とにかく変わった人物だ。
だが、その優しさは本物だ。身寄りのないガイを、タダでホテルに置いてくれているのだから。
そんなAZの望みは「ミアレを守ること」。それが達成できて初めて、彼への恩返し、そして「人助け」が完遂できるだろう。だがそれは、ガイ一人だけでできることではない。
ゆえに、ガイは動画を撮影し、ホテルZを宣伝しているのだ。ホテルに客が来るだけでも御の字だが、見込みのあるトレーナーが来れば、もう万々歳。上手くスカウトして、メンバーに引き入れれば、きっとガイの助けになってくれるだろう。
スマホロトムのカメラ機能を呼び出し、再び画角を調整する。液晶画面に映る空は、オレンジから紫のグラデーションを描いていた。
「
……
このままじゃ
夜
・
が来ちまうぜ」
夜
・
のミアレは、観光客を歩かせて良い場所ではなくなってしまう。できることなら、
夜
・
が始まる前に客と合流したい。
そんなことを考えながら、駅舎を見る。と、ちょうど列車が一編成、ミアレ駅のホームに飲み込まれた。ブレーキ音の直後、人の気配がどやどやと膨れ上がる。
しばらくすると、駅の正面出口から人間が吐き出されてゆく。その中に、一際目を引く少女が、ひとり。
夕日の元で鮮やかに輝く、緋色の髪。前髪は向かって右側に長く垂らし、後ろは低い位置でシニヨンを作っている。ライム色の瞳はつり上がっており、長いまつ毛と合わさって、気の強そうな印象を受けた。服装は、柔らかな体形を浮き彫りにする白いオフショルダーシャツに、デニムのワイドパンツ。大人っぽい格好ではあるが、ガイよりだいぶ背が低いせいで、子どもにしか見えない。
そして何より、荷物が詰まっているであろう、大きな旅行カバン。聞いていた容姿と持ち物から推測して、彼女こそが、ガイの待っていた客に違いない。
彼女は出口の側に立ち止まり、数度周囲を見回した。白ブドウのように丸い瞳は、誰かを探すように彷徨っている
……
ホテルZからの迎え、つまりガイを探しているのだ。
それに気付いたガイは、慌ててジャケットの襟を整え、彼女へ声をかける。
「そこの人!」
彼女は、すぐに振り向いた。が、白い顔には、疲労と警戒の色が滲んでいる。
「
……
誰、あんた?」
育ちの良さそうな顔をしているわりに、言葉はぶっきらぼうだ。それに重なる、じっとりとした警戒の視線に、どきりとする。上から下まで舐めるように見回す瞳は、明らかにガイのことを警戒していた。
「お待ちしておりました、スカーレット様」
西日の差し込む駅前広場の端。なるべく丁寧な所作と言葉遣いを心がけつつ、ガイは慇懃に一礼をしてみせる。
「『ホテルZ』従業員のガイと申します。ようこそ、美しい街・ミアレへ」
ゆっくりと下げた頭を上げれば、眼前の少女・スカーレットの、皮肉めいた視線とぶつかった。
「ふーん
……
ミアレのホテルでは、子供がそういう服装で働けるのね。知らなかった」
言葉の切れ味も、中々に鋭い。パルデアから来ているようだが、発音にはガラル風の癖が垣間見えた。
「ああ、まあ、制服を作る金が無いっていうか、そんなとこ。それに、オレにとってはコレが正装みたいなもんだし」
少しくたびれたベージュのジャケット
——
死んだ母の形見だ。ガイが唯一ミアレまで持ってこられた、母の痕跡でもある。だからか、あまり離れた場所に置いておきたくはない。
そんな事情を知る由もないスカーレットは、未だガイのことを警戒しているようだ。じっとりとした視線はそのままに、小さな左手でガイのスマホロトムを指して問う。
「で、自称ボーイさん。そのスマホロトムは何?」
「コレか。オレ、今ここで動画撮影してるんだ。ホテルZの宣伝動画。この三匹も、オレのポケモンだ」
軽く説明する中、ガイの頭に一つの妙案が浮かんでくる。
「そうだ、ちょっと協力してくれよ。カバン持ちのチップはいらないからさ」
「はぁ?」
「ん~、思ったより身長低いな。並んだ時のバランスが悪い
……
けど、画角調整すればいけるか」
素っ頓狂な彼女の声を背中で受けつつ、インカメラにしたスマホロトムを宙に浮かべる。縦長の液晶画面には、二人の少年少女が映りこんだ。差し込む夕日の色も相まって、中々エモーショナルな雰囲気になっている。こういうのも動画サイトでウケる
……
かもしれない。確証は無いが、やってみる価値はあるだろう。
納得できる位置にスマホロトムを移動させたガイは、振り返ってスカーレットに声をかける。
「よし、カメラに向かって『ミアレに来たらホテルZ!』って
——
」
「お断り」
返って来たのは、ただ短い返事のみ。
溜め息とともに、彼女はカバンを足元に置く。と、疲れを逃がすように、それを持っていた左手首を軽く振った。その行為から察するに、彼女のカバンは結構重たいようだ。
大きな古い傷痕が、白いシャツの袖口から覗く。そんな左腕を組み、彼女はため息交じりに口を開いた。
「あたし、仕事でパルデアからこっち来てんの。動画だか配信だか知らないけど、ジム戦でもないし、そういうのに付き合ってる暇ないんだよね」
「仕事?」
問い返すガイに、彼女は頷く。
どうやら彼女は、ただの観光客ではないようだ。しかし、低い身長や服装のせいか、全然ビジネスマンには見えない。見た目だけで判断するのならむしろ、ガイと同年代か少し年下の、ただの子どもだ。
とはいえ、嫌がる人を無理に映すわけにもいかない。
「分かった。じゃあ、ホテルZまで案内
——
」
『ンギャッ!!』
低い鳴き声が、ガイの言葉を遮る。切羽詰まったその声は、スカーレットの横
——
そこにいつの間にか現れた、一匹のゲンガーのものだ。
「げ、ゲンガー?」
「どうしたの?」
問うスカーレットを誘うように、ゲンガーはすいすいと空中を飛んで行く。
ゲンガーの向かう先には、一匹のヤンチャムがいた。見覚えのある、革製の旅行カバンを抱え、弄ぶように飛び跳ねている。
その旅行カバンは明らかに、スカーレットがさっきまで持っていたものだ。
「あのヤンチャム、旅行カバンを持ってるぜ」
「そうだね」
「なるほど、ポケモンの運び屋を頼んでたのか?」
ガイの問いに、スカーレットは肩をすくめて両手を上げる。
「まさか。ちゃんと制服を着た、信用のおけるボーイに運んでもらうつもりだった」
「手厳しいな
……
じゃあなんだ、盗られてるってことか」
「そうなるね」
しれっと言い放つ彼女を前に、ガイは一瞬で焦りに全身を支配された。
「いや、『そうなるね』じゃねえよな!」
さっと血の気が引いてゆく。置き引きに取られた荷物なんて、無事に返ってくるはずがない。それに何より、仕事とやらに来た彼女が困ってしまうだろう。彼女のミアレ訪問がこんな形で始まるなんて、最悪どころの話ではない。
「悪い、オレが撮影に誘ったせいだ。一緒に追いかけるぞ!」
「結構だよ、自称ボーイさん」
助けなければ、と駆け出すガイとは対照的に、スカーレットは少々怖いくらいに冷静であった。
「ヴィオレッタ、『追いかけっこ』してあげな。倒すんじゃないよ?」
『ンーギャッ!』
ヴィオレッタ、と呼ばれたゲンガーは、元気よく返事をする。と、スカーレットの指示通り、遠ざかるカバン付きヤンチャムを追いかける。
その後を、彼女も追い始めた。ガイも手持ちの三匹を伴って、彼女に並走する。
「なあ、強そうなゲンガーだな!」
「
……
なんで来るのさ」
「大事なお客様だから。それより、攻撃して取り返さないのか?」
運動能力の差か、脚の長さのせいか。いつの間にか追い抜いていた彼女に、ガイは振り返って問う。
「できるけど、しない」
彼女は、上がった息の合間から、短く返す。
「どうしてだよ?」
「あんた、あれが野生ポケモンに見える?」
彼女は顎をしゃくって、先を走り回るヤンチャムを指す。
「誰に喉を鳴らしてるのか、あの子自身に教えてもらおうじゃないの」
「
……
つまり、置き引きを指示したトレーナーを叩くってことか」
「それ以外に意味ある?」
さも当たり前かのように返す彼女に、ガイは内心で舌を巻く。
あの短時間でそこまで思考し、追手には素早いゲンガーを選ぶ。ニックネームで呼ぶほど可愛がり、最終進化まで育てている。ほぼ確実に、彼女はポケモントレーナーであるはずだ。ZAロワイヤルでいえば、折り返しの「ランク:M」以上の実力はありそうに思える。
つまり、団のメンバーとするのに、相応しい人物。
「
……
サイコーに運がいいぜ」
「シッ、黙って!」
ジャケットを掴まれる。スカーレットだ。
いつの間にかガイたち二人は、ベール地区内の路地裏にある、小さな広場の手前まで来ていた。建物の外壁に隠れるように様子をうかがえば、奥の方から何やら話し声が聞こえてくる。
「お、ヤンチャムが帰って来たぜ」
「ちょっと、なにそのカバン。そんなダサいの、いらないよ!」
「偉いじゃねえか。どうせゴミ拾いのつもりだろ?」
住民のゴミ置き場のようになっている、四角形の広場。そこで、男女のバックパッカーが二人、あれこれと会話をしている。
彼らの足元には、旅行カバンを持ったヤンチャムが、誇らしげに立っていた。スカーレットの言う通り、あのヤンチャムはトレーナーに育てられているポケモンのようだ。
ふと空を見上げれば、夕日はかなりその姿を隠しており、夜の気配が着々と近づいていた。こんなことで、時間を無駄にしている場合ではない。
「おい、オマエら!」
大声で叫びつつ、ガイは二人と一匹の前に躍り出た。ついてきた三匹の手持ちも、それぞれ威嚇の鳴き声をあげる。
「そのカバンはオレの客のだ。返してもらうぜ」
ガイが毅然とした態度で言い放てば、バックパッカー二人は驚いたように目を見開いた。
「ガイ!?」
「なんでお前がここに!」
「
……
は?」
二人の反応に、ガイまで目を見開いてしまう。どうやら二人はガイのことを知っているらしい。だが、特に見覚えは無い。
「いや、なんでオレの
——
」
「
……
面倒くさいねえ」
大仰な溜め息。いつの間にかガイの眼前に立っていた、スカーレットだ。
「地面に“マジカルシャイン”」
彼女の言葉が終わる前には、ブドウ色をした丸い霊体が、すでに動き出していた。
強烈な妖精の光が、周囲に濃い影を生み出す。あまりの眩さに、ガイは思わず腕で目を覆ってしまった。
「あのさ、こっち長旅で疲れてんのよ。『ともっこ』以下のケチな泥棒三人衆に付き合ってる暇、無いわけ」
腕を離した時、ガイの目に入ってきたのは、苛立たしさを隠しもしないスカーレット。その足元には“マジカルシャイン”によるものであろう、ひどい焦げ跡がついている。そしてその奥には、驚いた目でスカーレットを見上げるヤンチャムがいた。
焦げ跡から察するに、ゲンガーの技がヒットしていれば、ヤンチャムは間違いなくポケモンセンター長期入院コースだっただろう。最悪の場合、命を落としていたかもしれない。
「これで分かったでしょ。あたしも無駄にポケモン傷つけるつもりないし、そのヤンチャムが大切なら、カバン置いてさっさとどっか行きな」
「ま、待ってよ。あたしら別に泥棒じゃないって!」
バックパッカーの女が、スカーレットに向かって喚き立てる。続けて男の方も、ヤンチャムを指して口を開いた。
「お前のカバンを持ってきたのは、ヤンチャムのいたずらさ。こっちは一つも指示してないぜ」
そうこうしている間にも、日は沈み、あたりに夜の帳が降りはじめる。バックパッカー二人もそれに気付いたのか、口調に焦りが滲み出した。
「ほら、
夜
・
になっちゃうよ、ヤンチャム。ね、返そう?」
『ちゃむぅ
……
』
女がヤンチャムを促す。と、ヤンチャムはしぶしぶといった体で、スカーレットの旅行カバンを放り出した。どしゃ、と重い音が、隔絶された広場の中に響き渡る。
それを見届けたスカーレットは、大きな溜め息をひとつ挟み、口を開く。
「分かった。こっちも疲れてるし、今日はそういうことにしてあげる」
彼女の言葉と同時に、ゲンガーが戦闘態勢を解く。と、バックパッカー二人は安堵したように顔を見合わせた。そして、気まずそうに「サヨナラ!」とだけ言い残し、走り去っていった。
夕日の最後の輝きが差し込む中。彼女はガイの方を振り返る。ライム色の目線は、逆光の中でひどく冷たく輝いていた。
「で、三人目の泥棒さん。何か言い訳は?」
「三人って
……
悪いのはあの二人だろ。あと、あのヤンチャム!」
予想外の彼女の言葉に、思わず声を荒げてしまう。
泥棒扱いなど、堪ったものではない。焦るガイに対し、彼女は目を細めて冷静に返す。
「とぼけんじゃないよ。あんたが駅前であたしの気を引いてる間に、あいつらがあたしのカバンを奪う。あんたは、慌てたあたしの味方のふりしてカバンを取り返し、礼だ何だと理由をつけて金を巻き上げる。観光地でよくある手口さ。素晴らしい連携プレイだね」
フンと鼻を鳴らし、彼女はスマホロトムを取り出す。
「さ、警察が来るのを二人で待とうじゃない。影は踏んでるからね、この三匹もろとも逃げられると思うんじゃないよ」
「いや、待て、待てって!」
今にも通報しそうな彼女に向かって、ガイは必死に弁明の言葉を並べ立てる。
「オレは本当にホテルの従業員
……
見えないかもだけど、マジだぜ。オマエの名前が『スカーレット』だって知ってただろ。AZさんにオマエの迎えを頼まれたんだよ!」
ガイの言葉を聞いた瞬間、じっとりと細められた瞳が、ゆっくりと開いてゆく。
「それに、アイツらのことはマジで知らないって。アイツらはオレのこと知ってたみたいだけど
……
たぶん動画の視聴者か、ロワイヤルで当たったヤツだ」
「
……
嘘じゃないね?」
「この三匹に誓って、本当さ」
疑り深い彼女の前で、連れてきた三匹のポケモンを指す。いずれも、進化前から大切に育ててきた個体だ。誓う価値は十二分にある。
スカーレットは、身体ごと三匹のポケモンの方を振り返る。大きな瞳は、一匹一匹をなぞるように動き、最後に彼女のゲンガーの方を向いた。
「よく、育てられてる。あんたはどう思う?」
『ンギャァ』
「そう」
彼女の問いに、ゲンガーが応じる。それに対し、彼女が短く返す
——
まるで、会話でもしているかのようだ。変わった子だとは、ガイでなくとも思うだろう。
そんな彼女の視線は、いつの間にかガイの方を向いていた。
「
……
悪かったね、疑って。確かに、あんたの言う通りだ。ごめん」
「いいって、謝るなよ。オマエの勘違いよりも、自分のポケモンを制御できてないヤツらの方が問題だぜ」
おずおずと謝る彼女に対し、ガイは笑顔を作ってみせた。
自分だけが悪いわけではないのに、謝ってばかりいる人の姿は、見ててあまり気持ちのいいものではない。病に倒れた肉親を責めたくないように、到着早々カバンを取られてしまった彼女を責めたくなかった。
ゆえに、ガイは笑顔で彼女に拳を差し出す。
「ほら!」
「え、何?」
「グータッチだよ、グータッチ!」
そこまで言ってようやくぴんときたようで、彼女は「ああ」と声をあげて頷いた。ガイの差し出した拳の先に、彼女の白い拳がこつんと当てられる。
「よかったな、カバン戻ってきて!」
「うん」
きつかった表情が、ふにゃりと緩む。安堵したような彼女の表情に、ガイの心がまた少し、温かくなった気がした。
『きゅうーん!』
その横で、甲高い鳴き声が弾ける。ガイのメガニウムだ。連れてきた三匹の中で唯一、目を輝かせてスカーレットの方を見ている。
「ほら、メガニウムも喜んでるぜ。普段は結構大人しいのに」
『きゅうっ!』
メガニウムはひと鳴きすると、のしのしとスカーレットのもとへ歩み寄る。と、長い首を揺らして、彼女の腕や頭に、自分の頭を擦りつけた。もちろん、甘えるような甲高い鳴き声とともに。
「え、うわ、なんか人懐っこいね」
「コイツ、オマエのことが好きみたいだな。一目惚れか、惚れっぽいヤツめ」
「あらやだ。今のカロスじゃ、そういうダサい口説き文句が流行ってんの?」
ほんの冗談のつもりで放った言葉に対し、スカーレットの瞳はまた細められる。彼女の言葉の切れ味もだが、横からものすごい形相で睨みつけてくるゲンガーもまた、ガイの心臓に悪かった。
きゅうきゅう鳴くメガニウムを彼女から引き離しつつ、ガイは口を開く。
「
……
パルデア人のわりに手厳しいな。もっと明るい子かと思ってたぜ」
「残念、あたし出身はパルデアじゃないの
——
」
彼女の言葉が、途切れる。
夜の帳が、完全に降りきった時刻。ミアレの住人のスマホロトムには、ある通知が届く。
『バトルゾーン、出現』
それと同時に、血のように赤いホログラムの壁が現れ、街中を切り分けてゆく。
ホロで区切られた中は「バトルゾーン」。毎夜毎夜、ミアレの街中に数カ所、ランダムに現れる。それぞれのゾーンごとに、中に入れるトレーナーのランク帯が決まっていた。
そして今、ベール地区内にも、低ランクトレーナー用のバトルゾーンが展開された。
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