紫輝
2025-11-15 08:42:39
1752文字
Public リとヌと御仔の話
 

新天賦解放:抱っこ要請

リとヌと御仔(2ちゃい)と「おいてってくだちゃい」の話(パパの場合)です。2ちゃいにしてヌ様譲りの謙虚が前に出ている御仔、約一年後には「だっこ!!」ってめちゃくちゃ元気に主張するようになりますが、ご両親は甘えんぼへたっぴな我が仔も元気に抱っこ求めてくる我が仔も可愛くて可愛いんだろうなって思って笑顔

 石畳を叩いていた小さな足音が止まったのに、リオセスリも足を止める。目をやった足音の持ち主ははふ、とため息をついたところだった。
「れゔぃ、あんよちゅかれちゃった」
 伴侶と揃いの触角を萎れさせ、少し前までその歩みに合わせてふりふりと振られていたちいさな両手でズボンの裾を握った息子のさまに脳裏をよぎるひとつのイメージ。
 これは話に聞く、何度か見かけたことのある、子どもの特権「抱っこ」が来るのでは――ある種憧れとも言えるその『わがまま』に直ぐにでも応じられるように構えながら待っていた言葉は、
「おいてってくだちゃい」
 しょんと俯いたレヴィの口から飛び出した予想外の音律に音になることなくリオセスリの胸の内に消えた。
 思わずまたたきを二度。
 動揺を消化すれば、「おいで」を言うつもりでアップしていた声帯は空気の抜けたような笑みに震える。
「なぁんでそこで一歩引くかな。ととさまに似たか?」
 腰を落としてレヴィと目を合わせ肩を振るわせたリオセスリに、倣ってレヴィのそばへ腰を落とした――ハタから見たら物凄い光景になっていそうだが可愛い息子の前ではそんなものは些末ごとだ――伴侶が首を傾げる。
「どの辺りに私と親和性が?」
「そうだなぁ。俺と歩いてて、一旦どこかに腰を落ち着けて休みたいな、と思った時、あんたならどうする?」
「ふむ適当な店を探して入ることにすると思う。ただこれは私の事情だ。予定外の行動で君のスケジュールを乱すのは心苦しい。先に帰るように、……あ」
 本気で悩んでいるらしい伴侶に投げた問いへの淀みない返答。途中で何かに気づいたように途切れたそれに、リオセスリは喉奥を揺らす。
「な?」
確かに
 似ぬでいいところが似てしまっただろうか、と唸る伴侶にそういうところも好きだよとしれっと口にしてから(息を呑む音が聞こえた)息子へと意識を戻した。
「レヴィ」
「あい
「疲れて歩けなくなっちまった時は「抱っこ」でいいんだぞ。もし本当にレヴィが『置いてって』欲しいならそうするが
 微笑んで小首を傾げ、それから神妙な顔を作って覗き込んだアイオライトがくるりと丸くなり、ぱちりと瞬いてうろうろと揺れる。
「お、おいてっちゃ、や
 小さな唸り声を上げながら何かを躊躇っていたレヴィは、握っていた裾に新しい皺を寄せながら首を振った。
「ぱぱ、だっこちてくだちゃい」
 それから恐る恐る伸ばされた腕に、リオセスリは破顔する。
「ああ、勿論いいよ。おいで」
 ちいさな身体をひょいと抱き上げて腕に収め、まだ微かに躊躇いを残すレヴィの銀色の頭をよしよしと撫で。
「ちゃんと言えて偉いぞ。パパたちはおまえが元気に過ごせるようになんでもしてやりたいから、困ったことがあったら我慢しないで、さっきみたいにパパかととさまに言ってくれ。パパたちもそのほうが嬉しいよ」
ととしゃまも、うれちい?」
 リオセスリの言葉に真剣に耳を傾けていたレヴィは、ヌヴィレットへとその瞳を向けて首を傾げる。息子の問いに首肯で応えたヌヴィレットの指先が、レヴィの頬をやさしく撫でた。
「勿論だ。レヴィが頼ってくれたら、私たちはとても嬉しくて誇らしい。だからたくさん頼っておくれ」
……あい!」
 こくこくとしきりにうなずく様が水飲み鳥のようで愛らしい。勉強熱心な息子を持って誇らしい限りだ。
「ととしゃまと、ぱぱうれちいとね、れゔぃ、うれちい」
 “ととさま”の笑顔を写したような大輪が腕の中で開くのに、伴侶と顔を見合わせて。
「おまえは優しい仔だな」
「俺たちも、レヴィが嬉しいと嬉しいよ」
 くふくふと笑うレヴィの頭を代わる代わる撫でた。


「パパ、ん!」
「おっと、疲れちまったか?」
 止まった足音、はふ、と響くため息ひとつ。呼ばれると同時に上げられた両腕にリオセスリはその手を伸ばした。
「パパのちかみち、さかみちばっかりだねぇ」
 腕に収まり、いっぱい登ったね、とてろんと溶ける息子の言に肩を揺らす。
「そういえばそうだな。今度までにレヴィが疲れないような、新しい近道を探しておくよ」
 今日はこのまま抱っこで勘弁してくれと戯けると、愛息子は「いいよ!」とご機嫌に笑ってくれた。