こあらん
2025-11-15 01:49:36
5271文字
Public ロベシエ
 

Love leaves a mark (ロベシエ)

やるべき事を全うする為、シエテが頭を冷やそうとする話。情事を思い出しているシーンがあるのでR15くらい

 恋人である、ロベリアに抱かれた夜、シエテはいつも決まって早朝に起きる。そして、甲板で気が済むまで剣の素振りをする。朝の冷たい風に触れるたび、夜の熱情で火照った頭が徐々に冷めてくる。世界の為にこの身を捧げているシエテにとって、鍛錬もできるし都合がよかった。たとえ、毎度ロベリアに拗ねられたとしても

 そして、昨夜もロベリアに激しく抱かれてしまった

 今朝もまた、朝日が昇る前に甲板へと向かう。シエテをまるで抱き枕のように抱えて、気持ちよさそうにスヤスヤと眠っているロベリアからこっそりと抜け出した。少し心苦しいが、仕方がない。そうしないと1日が淀む。薄暗い中、肌を刺すような冷たい空気が心地よい。自然と頭がシャキッとする。素振りを終える頃には、太陽が昇り始める。陽の光が差し込むと、空気の冷たさがじんわりと溶けていく。朝日を浴びて、キラキラと輝いているこの空の世界は、なんと美しいことか。この空の世界を守る、という使命感が胸の奥から静かに燃え上がる。もうこの頃には、昨晩の熱は風とともに遠のいていく。代わりに、一日の始まりを感じ、自然と頑張ろうというやる気に満ちてくる。

 汗を流し、軽装に着替えて食堂へ。他の仲間たちと朝のあいさつをかわし、笑い声が食堂に響く。なんてこともない、ロベリアと付き合う前から変わらない、いつも通りの日常だ。
 食堂を後にして、シエテは自室に戻る。今日の予定を頭の中で並べる。今日は、お昼過ぎに団長と剣の手合わせ、あと団が引き受けた依頼がある。十天衆の書類関連の仕事がたまっているから、手合わせまでに片付けないとなーーそう思いながらシエテは部屋のドアを開けた。


…………
 ベッドに目をやると、ロベリアがいまだに眠っていた。シエテが抜けたスペースに、ロベリアの腕が枕をぎゅっと抱きしめている。
……やっぱり、まだいるんだよねぇ。いつもの事だけど。さっさと自室に戻ってもよかったのに)
 シエテはため息をつきながら、ロベリアを見下ろす。朝の光に透ける長い睫毛、端正な顔立ち。寝ている姿はまるで人形のようだ。こんなにいい顔しているのに、中身はアレだもんなぁとシエテはぼんやり思う。そうしている内にシエテの気配に気付いたのか、ロベリアの睫毛が震える。ゆっくりとロベリアの瞳が開き、シエテを捉える。寝ぼけたまま、にっこりと笑う。

……おかえり、シエテ」
…………
 ロベリアがシエテに向けた蕩けた笑顔に、シエテは苦笑した。全く、他人の部屋でのんきに寝ているマイペースっぷりには敵わない。それでも、この笑顔で迎えられると嬉しくなってしまう自分は、やっぱり恋に浮かれているな、と思う。立場上、これではいけないんだけどなと自分を正すのも、いつもの事であった。ロベリアはむくりと上半身を起こし、シエテを見つめる。そのロベリアを見つめて、シエテは応えた。
……ただいま。いつものことだけど、まだいたんだ。俺の事なんか気にしないでさっさと自室に戻ってもよかったのに。もう、みんな起きているし。この時間帯に、俺の部屋を出たら誰かに見られちゃうでしょ
 ロベリアとの関係を周りに公言はしていない。隠している関係という訳ではないが、改めて周りに伝えるのも何だか恥ずかしい。それに、優先事項が他にたくさんあるから後回しにしているだけだ。勘のいい一部の団員は気付いているかもしれないけど。それでも、夜の行為を暗示するような行動は、団の道徳的にもシエテは避けたかった。
「ノン、この部屋の主に挨拶をしないで、勝手に部屋を出るわけにはいかないだろ?それにしても、キミも毎回飽きないな。たまには朝までオレと一緒に寝てもいいじゃないか」
 ロベリアは頬を膨らませ、むくれた表情をして、シエテを見つめた。たいそうご不満な様子だ。このやりとりもほぼ毎回だ。その様子を見て、シエテは深くため息をついた。ロベリアの気持ちはわかる。シエテも朝こっそり部屋を抜け出す時は、正直申し訳なく感じる。それでもシエテはできるだけ、ロベリアと朝まで起きるのは避けたかった。

 毎夜、ロベリアはシエテの理性がどろどろに溶けるまで、甘く、激しく抱く。最初は羞恥と理性で抗うシエテだが、ロベリアの吐息が耳朶をくすぐるたび、抑えていた欲望が溢れてくる。最後には無我夢中でロベリアを求め、自我を忘れる。快感に溺れ、普段の自分からは想像もできない声を漏らす。ふとした瞬間に情事の記憶がよみがえり、一人で顔を赤くする日々だ。ロベリアはシエテのわずかな息の乱れ、鼓動の変化を逃さず、理性の鎧を一枚ずつ剥がしていく。ロベリアの唇が耳元に寄り、「ジュテーム、オレだけのシエテ」と囁けば、シエテの頭は快楽と幸福で満たされ、抵抗する力を失ってゆく。
 朝一緒に起きた時なんてもっとひどい。ロベリアはベッドで横になったまま、蕩けた顔でシエテを見つめる。朝の光がその頬を淡く染めたその表情に、何度鷲掴みにされているか。甘い言葉を耳元で囁いて、朝だというのに情熱的なキスで一日が始まる。甘ったるい雰囲気と、恋人との触れ合いで、頭は完全にロベリア一色だ。時には、ロベリアの誘うようなキスに流され、朝日の光の下で再び絡み合う。それによって、本来の業務が危うく疎かになりそうにーーというのが何回かあった。このままではダメだ。
 こんな熱情的な夜、そして甘い朝を毎回迎えていたら、恋人によってシエテは自分が溶けてバカになってしまう。ロベリアと一緒にいる時は、頭がふわふわしてどうも落ち着かない。自分のやるべき事がおろそかになりそうな、漠然とした不安が募る。シエテは、ロベリアといると至福を感じる分、自分が自分じゃなくなってくる気がして、怖かった。
 だから、シエテはロベリアと過ごした夜は早く起きるようにしている。一日は朝で決まる。朝の素振りをする事で、ロベリアと過ごした事で浮かれてしまった頭と、脳内に溢れた情欲や幸福感を振り落としたかった。この気持ちを一日中、引きずらずに済むように
 この理由はロベリアに知られるわけにはいかない。察しのいい男だから、勘付いているかもしれないけど。バレたらバレたで、もっと調子に乗って、今以上にひどく抱かれてしまう気がする。ロベリアは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、もっと激しくシエテを抱き、朝までベッドに縛り付けるだろう。ロベリアの吐息に溺れる自分──そんな未来は何としてでも避けたい。
そうは言ってもやらなきゃいけない事はたくさんあるし。誰かさんみたいに、ゆっくり起きたり出来ないんだよ。でもさ、朝の鍛錬は気持ちがいいよー。お前も今度やってみない?」
……ノン、遠慮させてもらうよ」
 シエテからの提案に、寝ぼけた瞳で興味無さそうに応えた。ロベリアは、ベッドの上で辺りを見回し、床に視線を這わせる。昨日の熱をそのままに、ロベリアはベッドに沈み込んだままだった。今、朝の光に照らされた身体は、無防備な姿だ。床に散乱しているロベリアの衣装が、昨夜の激しさを物語る。ロベリアの服が散らばっている部屋は、我が部屋とは思えぬ乱雑さだ。シエテは自嘲気味な笑みを浮かび、内心で首を振る。
 昨日は、シエテが久々に艇に戻ってきたこともあってお互いに気持ちが昂っていた。ロベリアがシエテの部屋に入室し、ドアが閉まった途端、シエテから迫ってしまった始末だ。我慢できずにロベリアを壁に押し付け、唇を奪った。ロベリアはシエテからのキスに目を細め、喜びを隠さぬ笑みを浮かべると、そのままシエテを抱きよせベッドへと導いた。
 

 そっと、ロベリアに視線を滑らせる。朝の光に照らされたベッドで、ロベリアは片手で口を覆いながらのんびりと身体を伸ばしている。魔術師とは思えない、見かけよりも逞しい、引き締まった肩と胸の筋肉が目に入る。ーー本当に、身体を鍛えているところなんて見たことがないのに、いい身体しているんだよな。その逞しさに、なんだか悔しさが募る。昨日、自分はこの腕に抱かれ、熱に溺れた記憶が蘇り、身体の奥をざわつかせる。そして、彼の身体をよく見てみると、胸の辺りには赤いキスマークが、肩にはシエテが刻んだ爪痕が残っている。昨日の激しさの証に、シエテの胸が締め付けられた。

──昨夜、俺が付けた…… 

 その情事の痕を目にするだけで、顔に熱が入り、腹の奥が疼くのを感じる。いつもは、いくらロベリアに懇願されても、恥ずかしいから彼の身体に情事の跡はつけないように抑えてきた。それなのに、昨日は本当に箍が外れてしまった。今思い返すと、恥ずかしさで身を縮めたくなる。思わずロベリアの耳元で漏らした「もっと、欲しい」「大好き」ーーそんな言葉が脳裏に蘇り、シエテの顔はさらに熱くなった。
 情事の時のロベリアは、いつもの多弁さが消え、寡黙にシエテを見つめる。しかし、熱を感じるような情熱的な瞳が、ロベリアの欲情を語っている。シエテの全てが、欲しい、と。その瞳で射抜かれるたび、心臓を掴まれているようで何も考えられなくなる。瞳だけじゃない。流れる汗が、あの引き締まった胸を滑り、腹筋へと伝う姿は官能的で美しい。ロベリアの長くしっかりした指は、シエテの背筋から腰までを丁寧に愛撫する。身体を余すところなく可愛がられ、理性が徐々に溶かされる。その視線、動作、全てがいつもと全く違う雰囲気を醸し出すロベリアを見るのは、毎回心臓に悪い。彼がどれだけシエテを想い、求めているのか、見せつけられる。

──重なる吐息、耳元で呟かれる、シエテを求める甘い言葉。そして、シエテを射抜くような真剣で耽美な瞳

 どれもこれもが、数時間前にシエテが確かに目にしたものだ。その記憶が脳内で鮮明に蘇って、身体が再び熱を帯びる。これではダメだ、と頭を振って昨夜の記憶を振り払う。
 せっかく、煩悩を振り落とす為に朝早く起きて素振りをしたのに、これでは意味がない。


 シエテはそっとロベリアに視線を戻す。ロベリアはシエテの火照った心などつゆ知らず、鼻歌を歌いながらのんびりとシャツを羽織っている。バレていないことに、シエテは密かに胸を撫で下ろす。もし、シエテが今、昨日の情事を思い出して欲情しているなんて気付かれたら一大事だ。喜ばれて、情熱的に求められて再びベッドに戻されてしまうのは、容易に想像ができる。

──恋は人を愚かにする、ね。誰が言い始めたのか知らないけど、よく言ったものだよ、全く

 シエテがそんな葛藤に捕らわれている間に、ロベリアは着替えも終えていた。やっと、自室に戻る気のようで、ドアの側で立って外の様子を見ている。人気がないのを見計らっているようだ。
うん、そろそろいいかな
 ロベリアはぼそっと呟いた後、身体をシエテの方へ向けた。すぐに外に出るかと思ったが、そのままシエテの側に来て強く抱きしめた。
「シエテ」  
 ロベリアの唇がシエテの耳朶に触れそうになるまで近付き、熱を帯びた吐息でそっと囁く。
今夜も、キミの部屋に来てもいいかい?」
 ロベリアからの今夜の夜の誘いに、シエテはため息をつきながら応えた。
「昨晩散々ヤったのに、お前も飽きないねー。………まぁ、いいよ。来たかったらおいでよ」
「くはっ、どうしたんだい、シエテ。昨日といい、今日はやけに素直だな!」
 そう、無邪気に喜ぶロベリアが何だか腹立たしくて、自分の唇でロベリアの口を塞ぐ。いつもは、照れくささが勝って、その気があってもはぐらかしているのに。だが、今回素直に頷いたのは、決して昨夜の情事を思い出して欲情したからでは決してない。シエテは自分にそう言い聞かせる。

……別に。たまには、ね。ほら行きなよ。人が来ちゃうよ」
 唇を離し、シエテはロベリアが外にでるよう促した。なんだか恥ずかしくて、ロベリアの顔を見ていられない。目線は逸らしてドアの方を見る。ロベリアは、シエテを再び軽く抱き寄せ、「じゃあ、ディナーの後にキミの部屋に行くよ」と耳元で軽く囁いた。そして、シエテの頬に柔らかなキスを落とすと、軽やかな足取りで部屋を後にした。


 ドアが、閉まる。途端に、部屋の空気が変わった。部屋の空気がひんやりと冷え、ロベリアの甘い香りだけが残る。
 ロベリアが部屋から出ていった後は、辺りが静まり返り先程とは違う雰囲気を醸し出していた。いつも見慣れている自室だというのに、なんだか物足りなさを感じる。さっきまでロベリアが寝ていたベッドに、そっと手をやる。そこはまだ、ほんのり温かくロベリアの熱が残っていた。
 久々の情事だったからか、せっかく早く起きたのにいまだに引きずっている。今日はなんか、ダメだ。頬を叩き、しっかりするよう、気持ちを切り替える。そして、シエテは、着慣れている十天衆の装束に着替える事にした。