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冬暁
2025-11-15 01:08:46
2513文字
Public
鳴保
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Compete and Fight
鳴保ワンドロワンライお題【出動/着替え】より
カチ、と長針が動く。普段なら時間なんてそう気にしない。だけど今は、一分一秒でさえ気になって仕方がなかった。
「鳴海さん、早いですね」
「たまたま近くに用事があったからな」
本当は早く目が覚めてしまっただけだ。久しぶりのデートに浮かれて、つい早めに出てしまったなんて知られるわけにはいかない。
「へぇ、てっきりデートに浮かれて早く来てもうたんかと思ってました」
「そ、ッ、そんなわけないだろ! 本当にたまたまだ!」
裏返った声を誤魔化すように咳払いをする。チラリと見た保科の顔は悪戯げで、ボクの本心なんて見抜いているようだった。
「いいから、早く行くぞ!」
「僕は楽しみやったけどなぁ」
手を引いた瞬間に呟かれた言葉に動きを止める。時刻は待ち合わせ時間の三十分前。浮かれているのはお互い様だったらしい、と今更ながらに気づく。
「鳴海さんは違うん?」
「
……
別に、楽しみじゃないとは言ってない」
力任せに掴んだ腕からそっと手を下ろす。人が多いから仲良く手を繋いで
……
なんてことは出来ない。それでも、軽く手のひらに触れて体温を分かち合う。応えるように指先を優しく包み込まれた。
刹那の温もり。自然な動作で手は離れ並び立つ。
「今日は楽しみやなぁ。何たって鳴海さんの奢りで、極上のモンブランが食べられるんですから」
「は!? 聞いてないが!?」
「えぇ? この前言うてたやないですか」
「言ってない!!」
「忘れたんです? 僕にあんなことしといて
……
、酷い人や
……
!」
「人聞きの悪いこと言うな!」
わざとらしく涙を拭う保科に記憶を辿る。こう言う時は重要な話じゃない。
直近で会った時は合同演習だったし、メールのやり取りもその日の報告のようなもんだった。
あとは
……
、と辿ったところで思い当たる節に当たる。
「まさかコーヒーのやつじゃないよな?」
「ちゃあんと覚えとるやないですか」
「あれはコーヒーを、って意味やろがい!」
「コーヒーを、なんて主語ついてへんかったやん。僕の好きなやつって言うてたのに、言葉違えるんです?」
気が向いて保科にコーヒーを奢った時の話だ。普段コーヒーなんてこだわりもせずに飲んでいたボクは、特に何も気にせずボタンを押した。それがまさか加糖とは思わず。
普段無糖か、せいぜい微糖を飲む保科にとっては嫌な甘さだったらしい。「有難いんですけど
……
」と妙に素直に、そして謙虚に言われた。そんな保科につい、「今度は好きなやつを奢ってやる」と言ったのは確かだ。
「ぐ、ぬっ
……
ッ、〜〜〜〜!!」
「そんなに嫌なら別にええですよ。お金ない人から巻き上げるつもりもないですし」
「モンブランの一つや二つや三つ奢れんわけないだろ!」
「あ、ホンマに? ほな、遠慮なく」
「ハッ
……
!?」
言質取られた
……
!!
だが、見るからにご機嫌な保科にそれ以上何も言えず口を噤む。
まぁ、いいか。
今日に備えて財布には余裕がある。多少高かろうとモンブラン数個で空になるほどじゃない。
嘆息しながら、もう間もなく見えてくるカフェに視線をやった
————
その時だった。
大地を突き上げるような揺れと轟音。一拍置いて空を切り裂くような悲鳴が上がった。
視線が交差する。次の瞬間にはどちらともなく走り出していた。
『鳴海隊長! 怪獣が発生しました
——
』
「もういる! ボクのスーツを急がせろ!」
『っ、了!』
ここは第1と第3の管轄の境界だ。保科の方も通信が入ったらしい。
とりあえず避難誘導が最優先だ。スーツがないとはいえ、足止めが出来ないわけでもない。発生地点を中心に避難を急がせて
……
、そう考える傍らで保科が服を脱いだ。
「ッ!?!?」
反射的に手を伸ばす。服を着せようとしたのか、それとも隠そうとしたのかはボク自身にもわからない。ただ、伸ばした手の先にあったのは見慣れたスーツだった。
「お前、ッ! デートにまで着てきたのか!? ワーカーホリックにも程があるだろ!!」
「別に何もなかったら着てませんよ。ここら辺でちょっと怪しい数値出てたんで、念のため着てきただけです」
「だからといって休みにまで着るか!?」
「ごちゃごちゃ言うてないで行きますよ。あ、鳴海隊長はスーツ届くまでは無理か。避難誘導お願いします〜」
「
——————
ッッ!!」
スタコラと走り去る背中を見送ったところで、噴き出す怒りに耐えきれず地団駄を踏む。
頬がピクピクと震えているのがわかった。
恋人ではある。互いに好き合っているのも事実だ。
だが、それはそれ。これはこれだ。
どうしたって相容れないところはあるし、こうもおちょくられてみろ。好き以前に黙っていられないのがボクだ。
「あんのォオカッパ! 今に見てろ
……
ッ!!」
アスファルトを蹴り飛ばし、とうに見えなくなった保科を追う。
スーツ無しだが、だからといって一般人に劣るボクじゃない。今まさに襲われそうになっていた市民を視界に捉え、さらに加速する。踏み込んだ足から拳まで貫くように力を通す。
ドンッ!と空気を叩くことがした。
「そこのオカッパゴラァ!! ちゃんと仕事せんかい!!!!」
同じように格闘術で怪獣を吹き飛ばす保科にビシリと指を突きつける。
「いやいや、鳴海隊長なら間に合うと思うてたんです〜! いやぁ、流石ですわ〜」
「貴様は素直に人を褒められんのか!?」
「これでもちゃんと褒めてるんですよ?生身でそれだけの威力
……
、ホンマに凄いです」
突然真面目な声でそう言うもんだから背中が痒い。コイツはそういうところがある。揶揄ってたかと思えば、突然素直になるから慣れない。
「さ、この調子で行きましょか」
「言われるまでもない」
トン、と背中を合わせる。まだ避難は完了していない。互いに装備は不十分。討伐区域外である以上、下手に怪獣の攻撃を煽るわけにもいかない。
部隊が配置するまでもう暫く。それまで時間を稼がなければいけない。
でも、まぁ
……
。
「お前がいるから大丈夫か」
「ふふ、急に素直やん」
「うるさい。やるぞ!」
「了」
Posted by 冬暁/
薄明
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