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ugatuno
2025-12-12 19:00:00
2855文字
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二次小説
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その心臓は世界のかたち 22話
――
数日後、病室。
カーテン越しの光は柔らかく、窓の外では風が枝を揺らしている。
ベッドの上で、ジンペイは身じろぎもせずに横たわっていた。 目はうっすらと開いているけど、焦点は合っていない。まぶたの動きも鈍い。
病人特有の、乾いた肌の色。 唇にはかすかに血の気が戻りつつあるけれど、全体的な印象は
――
まだ、遠い。
「
……
ジンペイくん、少し起きてる
……
?」
コマがそっと声をかける。
今日は制服ではなく、淡い水色のニットにマフラーを巻いていた。
外の冷気を連れてきたような、少しだけひんやりした空気が一緒に入ってくる。
ジンペイは反応しない。 でも、ほんのわずか、右手の指先が動いた。
「
……
聞こえてるなら、うんってだけでいいよ。無理しなくて」
ジンペイの呼吸は浅く、ゆっくり。 まるで胸の奥に重りを抱えてるみたいに、ひとつひとつの息が苦しそうだった。
ぬらりの手による定期診察が終わったあと、 エンマダイはただ一言、言い残していった。
「
……
徐々に回復はしている。“人間の回復スピード”でな」
それはつまり、劇的な回復なんてないという意味だった。
コマは今日もジンペイのそばにいる。
授業がある日は学校へ戻るけど、休みの間も時間を見つけてはここに通っていた。
「
……
食事は、まだ難しいって。点滴は続けるってさ」
「
…………
」
ジンペイは、何も言わない。 でも、まぶたがほんの少しだけピクリと動いた。
「
……
さっきね、マタロウくんから手紙が届いたよ。写真つきのやつ」
コマは、バッグから封筒を取り出す。
「見せるね
……
ほら、これ。向こうの空港で食べたラーメンの写真」
ジンペイの目が、ほんのわずかに動いた。 でも、首を動かす力はない。
「
……
帰ってきたら、みんなでまた行こうって。ジンペイくんの好きな、あの店」
手紙を読んでる間、コマの声は少しだけ明るかった。 けど、その手は震えていた。
「
……
無理に笑わなくていいよ。僕も、わかってる」
静かに手を握る。
「
……
ジンペイくんが、“ヒーロー”じゃない時間、こうしてちゃんと休めるの、僕は嬉しいんだ」
病室には、今日も穏やかな風が吹いていた。
数日後の病室。
ベッドの脇で本を読んでいたコマが、ふと顔を上げる。
「
……
ジンペイくん?」
ほんのかすかに。 喉が鳴るような、小さな息の音がした。
「
……
こ
……
ま、くん
……
?」
その声は、かすれていた。 でも確かに、言葉になっていた。
コマは本を閉じて、身を乗り出す。
「ジンペイくん
……
! やっと
……
声が
……
」
「
……
うん
……
なんか
……
聞こえるように
……
なった
……
だけ
……
」
ジンペイの声は細く、重たい。 音に張りがない。呼吸の合間に、かすかに痛みの混じる吐息が漏れる。
「無理しなくていいよ、喋らなくても
……
」
「
……
だいじょうぶ
……
喋るのは
……
まだ、できる
……
」
そう言いながらも、目は伏せたまま。 瞳は濁っていて、まぶたの上から疲労の色が透けて見える。
コマは、そっとジンペイの手を取る。 その指はかろうじて動いたけど、握り返す力はほとんどなかった。
「
……
痛みは
……
?」
「
……
あるよ
……
まだ
……
胸、重い
……
」
「
……
うん
……
そうだよね。先生も言ってた。完全に良くなるのは
……
時間がかかるって」
「
……
俺さ
……
」
唐突に、ジンペイがぽつりと呟く。
「
……
まだ、いつもの俺
……
できてないな
……
」
その言葉に、コマははっとして言葉を失った。
「
……
いつもなら
……
俺は最強だから
……
とか
……
言ってるとこ、なんだけど
……
」
「
……
いまは
……
ムリ。言えない」
「
……
ジンペイくん
……
」
ジンペイは目を閉じた。
「
……
こんなに
……
体、重くなるの
……
はじめてかも
……
」
かすかな吐息とともに、まぶたがわずかに震える。
「
……
でも
……
今は、休んでいいって
……
思える
……
」
「
……
コマくんが
……
言ってくれたから
……
」
言い終えると、まるで電池が切れたように、再び沈黙が戻った。 呼吸はある。けれど、まるで「ほんの少しだけ力を使って喋った」だけのようだった。
コマは、ジンペイの手を両手で包む。
「
……
うん。休んで。何度でも、ちゃんと休んでいいから
……
」
——
静かな午後。病室にはゆるやかな陽射しが差し込んでいた。
数日前よりは、少しだけ血色が戻ったジンペイが、ベッドに横たわっている。 まだ自力で体を起こすことはできないけれど、うっすらと目を開けて、ぼんやりと天井を見ていた。
——
控えめなノックの音。 ゆっくりとドアが開いて、先に入ってきたのは九尾だった。
「
……
おや。思ったよりは、生きてるね」
その口調は冗談めいているけれど、瞳はちゃんとジンペイの様子を観察していた。 九尾のすぐ後ろから、ラントも入ってくる。
「
……
寺刃。喋れるか?」
ジンペイは、目だけを動かして二人を見る。
「
……
あー
……
会長
……
九尾先輩
……
」
かすれた声。それでも、懸命に軽口を探すように唇を動かす。
(
……
ここで笑えなきゃ、たぶんもう戻れない)
「なんか
……
こーして見舞い来られると
……
死にかけてたの、実感すんね
……
」
「
……
死にかけてたんじゃなくて、“死にそうだった”んだ。自覚はあるんだろう?」
ラントの言葉は淡々としているけれど、その声にはわずかに硬さがあった。
ジンペイは笑ってごまかそうとしたが、途中で咳き込む。 喉が震えるたびに胸に痛みが走るようで、目を細めて眉を寄せる。
「
……
無理するな。会話ができるだけでも上等だ」
九尾は、そっとベッドの脇に立ち、何も言わずに水差しからコップに水を注いだ。 ストローを差し、無言でジンペイに差し出す。
「
……
あんがと
……
でも
……
今、飲んだら多分こぼす
……
」
「そうかい。それは残念だね」
九尾は苦笑しながらも、コップをテーブルに戻す。
ジンペイは、ふと視線をラントに向けた。
「
……
会長、怒ってる?」
「怒ってはいない。
……
ただ、呆れてはいるな」
「そっか
……
」
それっきり、ジンペイは何も言わず、まぶたを半分だけ閉じた。 痛みと倦怠感で、長く話す気力が保たないのだ。
けれど、病室に満ちる沈黙は、決して冷たいものではなかった。
ラントは黙ってジンペイのそばに立ち続け、九尾は目を伏せたまま静かに何かを考えている。
——
ようやく、ジンペイがぽつりとつぶやく。
「
……
2人とも、来てくれて
……
ありがとな
……
」
その声には、冗談も茶化しもなかった。 ただ、素直にこぼれた、弱った少年の言葉だった。
九尾はふっと息を抜いた。
「
……
そう言ってもらえるだけで、十分さ」
ラントも短く、しかし確かに頷いた。
「また来る。
……
今度は、歩いて出迎えろ」
「
……
うん
……
がんばる
……
」
ジンペイはそう言ったまま、静かに目を閉じた。 眠ったのか、話す気力が尽きたのか。 どちらにしても、その表情にはわずかな安堵が滲んでいた。
——
その姿を見届けてから、ふたりは音を立てずに病室を出ていった。
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