ortensia
2025-11-14 22:27:14
1229文字
Public 傭リ
 

すまほが普及してないくらいの現パロ傭リ


 小さな男が大きな荷物を準備している。
「ま〜たハイキングですか。」
「おう。」
 この男は寒くなると何故か活発になる。冬眠の逆である。
……なあ、緩やかな山だから、おまえも。」
「嫌ですよ。寒いのに外に出るなんて。」
 だから運動して体を温めるんだろ、と言うのはこの男の談で、夏は大人しくしている、釣りとか。
 わたしのこの時期定番の返事に、肩を竦める男は荷造りを再開する。
 その肩を叩いてデジカメを渡す。小さな男の手にも収まる、小さなタイプだ。
 男はこちら分からん見上げて軽くデジカメを振って見せると、鞄の取り出し易い場所に丁寧に仕舞う。
 わたしが普段資料収集用に使っているカメラだ。少しなら濡れても平気だし、面白いからトイカメラモードとか、遊びのような編集撮影が搭載されたタイプだ。勿論この男は使いこなせない。いつも標準モード。自動フォーカスモードがなければ、これまでどんな写りになっていたことか。
 だが今ではひとりで出掛ける寂しがり屋の男と共有して遣っている。帰って来た男が、満足そうな疲労感と共に、少し得意気にカメラを返して来るのが、いつも悪くない顔だと思う。

 部屋にいると嵩張るというか、細身だが長身のため、部屋いっぱいにこの男が広がっている気がする。
 だから適当に狭い部屋で良いと思うのだが、それはこの男が嫌がる。確かにこの男が普段ここを使って広々絵を描きたいと思うと、勿論そちらを優先する。
 それでも男は家を飛び出して外の世界を見に行く。この男が描く世界に落とし込むために、この男以外の世界を見に行くのだ。
 それが天気の良い過ごし易い一日などであれば、こちらもなんの不満もない。
「おいおい今外に行くのか?」
「だって嵐ですよ?」
「だから止めてるんだよ!」
 しかもなんの予定もなく、窓を見ていると思ったら突然立ち上がって玄関に向かうので、こっちは気が気じゃない。
「あの嵐が見たいんです。」
 言いたいことは分かる。この男の描く世界のために、見せてやりたいのは、おれだってそう思う。けれど危険に身を投じさせるわけにはいかない。
「待て!おれも行くし、コートを着ろ!」
 それから。
「おれが帰るって言ったら、直ぐ帰るからな!」
 こちらが折れて得意気な顔が振り向く。その手には、防水器具を取り付けた、男のデジカメがあった。話には聞いていたが、色々出来る機械のようだ。
 男が買ったカメラだが、借りることがある。
 下手に機能を弄ったりしない。変えた設定を元に戻せない。
 それに、レンズが照準を合わせる時の、機械がこすれるような音が、少し、苦手だ。
 それがこの男が持つと、それどころではない。
 それは操作しているのが自分じゃないから、というだけの意味ではない。
 ただおれは、帰った時この男が満足そうに写真を見返してくれれば良いと思う。
 それまでは、どうか今から行く嵐の中の散歩が、どうか安全に済むと良い。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。