それぞれの夜明
「え、シャチ起きてたんだ」
「え、⋯⋯⋯⋯はあ?」
ペンギンのあっけらかんとした態度。
さらっと言われた言葉の意味も、何にも読み取れない表情も、咄嗟に理解できなかった。
引きつった笑顔のまま、歪んだ唇から感嘆符に音をつけたものがまぬけに転がり落ちて、意味がわからないと思った。
否、わからないのではなく、意味が理解できたからこその混乱。
雑談のついでに、誰が一番嘘をつくのが上手いかって遊んでただけだったんだ。嘘だろそれ、って笑える程度の作り話を、自然にそれっぽく語るゲーム。
言い出しっぺは誰だったのか。おれの右隣にいたウニがポーラータングについたフジツボを数年かけて集めて巨大なアートを作り上げているとか。左隣のクリオネがベポが換毛期にめちゃくちゃ細くなってキャプテン泣いてたなぁ、とか。
そんな、他愛もないおしゃべりで、おれもちょっとふざけてみただけだった。
「チビのころに寝てるときにペンギンにマウストゥーマウスされちゃったから、おれのファーストキスはペンギンなんだよなー」
「げっ、マジか!」
「キャーッ♡ でもあんたたちならありえる」
「おれってば、罪な男だよね」
沸き起こる囃し声に、俺もノリノリで返す。ゲラゲラと笑い転げていたところに、先の発言。
『シャチ起きてたんだ』
え? マジで。
は? ちょっとマジで。
ペンギン、何言ってんの? それも嘘?
更に盛り上がる周囲の声は、遠く。ペンギンの、本気か冗談かさっぱり分からない顔は、近く。なぜか脈がどんどん速くなっていって。駄目だ。全身が茹だっている。ここがどこだとか。周りに誰がいるとか関係なく、関節に変な汗が滲む。
「ほん、と
……?」
「うそか、ほんとか、どっちがいい?」
その聞き方は、ズルい。
質問に質問で返すのはダメだってキャプテンも言ってた。
「おれのファーストキスもシャチだけど」
小首を傾げて、ちょっとだけ笑ったペンギンに、なぜかキュンって心臓が鳴った。
なに、これ。
なにこれ。
ペンギン、なに言ってんの。
なぁ、さっきからおれのことめちゃくちゃ好きっぽい顔してるけど。あれ、いつもペンギンのことどうやって見てたっけ。
「まぁ、バレてたんならしょーがねーか」
あっけらかんとした声に、「はあ?」ってまた言った。はあ? なにそれ。
「だってシャチ、おれのこと好きじゃん。昔も今も、ものすごく」
照れたような嬉しそうな笑顔に、未だ状況を噛み砕けていないおれは、ただ「
……はあ?」としか、言いようがない。
好きじゃないとは言わない。
そんなことはあるはずがない。
ただ、ペンギンのいう好き、とおれの感情が一致しない気がして、ぐるぐる考えて、あれ? ってなった。
あれ。
あれ?
「おれ、ペンギンのこと
……?」
「今日から、起きてるときにもキス出来る関係ってことで。まァ、あんまり変わねーと思うけどよろしくな、相棒」
おめでとう! とか、ヒューっという口笛とか、どういうこと!?っていう戸惑いとかを聞きながら。うん、って頷いた。
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