静かに流れるジャズを聴きながら、窓の外に目を向ける。繁華街から少し遠い所で店を構えるこの喫茶店は最近開店したばかりで、俺たちのお気に入りでもある。俺はあまり詳しくはないのだが、コーヒーの質が良いらしい。こじんまりとして狭いと文句を言うドゥリーヨダナも、ここでしか飲めない銘柄があるのだと喜んでいた。確かに美味いと思うが、俺が何より嬉しかったのはフードの方だ。何を隠そう、とかく量が多い。店主曰く「若い子にはいっぱい食べてほしい」らしく、全メニュー大盛対応可能だし、なんと無料なのだ。毎度盛られる量を見ては(採算が取れているのか?)と思ってしまうが、有難いことだ。絶品、とまではいかないが、素朴で暖かい味はどこか懐かしく、すっかり二人揃ってこの店の虜になってしまったのだ。
と、テーブルへ大皿に載せられたナポリタンが運ばれる。
「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとな」
「うす」
赤髪の青年は会釈するとカウンターに戻り、店主からこれまた山盛りのカレーライスを受け取り端の席に座った。これから休憩なのだろう。ここではコーヒーとナポリタン、ピザトーストは頼んだことがあるがカレーはまだなかった。メニューにあっただろうか?次の機会に頼んでみるか。そんなことを考えながら目の前の皿に向き直った。
「いただきます!」
ぱん、と両手を合わせフォークを手に取る。くるくるとナポリタンを巻き取り口に入れると、濃厚なバターの香りとトマトの甘味が口いっぱいに広がり、思わず頬が緩む。ばくばくと食べ進める俺を、向いの席に座るドゥリーヨダナがコーヒー片手に眺めていた。
「で、この後なのだが。……おいビーマ。ビーマ?」
「…ん、悪い。なんだ?」
「聞いておらんかったのか〜?わし様のことほったらかすとか、ビーマのくせに生意気だぞ」
「はは、聞いてなくてごめんな。もう一度言ってくれるか?俺のかわいいスヨーダナ」
口をへの字に曲げたドゥリーヨダナの頭を撫でウインクで誤魔化す。大変不満そうな顔をしていたが、ふんっ、と鼻を鳴らしコーヒーに口を付けた。
「この後はどうする?まさかこれで終わりという訳ではあるまい」
「ああ、そういうことか。いや、今日はこのままその辺をぶらつこうと思ってな」
「何?デートのプランも練っておらんのか!」
「たまにはよ、お前とぶらりと歩いていくのも楽しそうだなって思ったんだ。お前となら。どこへ行こうと楽しいだろうしな」
そう笑いかける。これは本心だ。たまにはガチガチのデートプランを練るより気ままに散策するのも悪くない。そう思ったのだ。
(中略)
「ご馳走様でした。今日も美味かったぜ」
「うむ、ご馳走様だ。今日のコーヒーもなかなかであったぞ、センセイ!」
「はいはい、ありがとね。今度ゲイシャを取り寄せるからまたおいで」
センセイ、と呼ばれた店主は朗らかに笑い、入口の扉を開く。カランコロンという鈴の音を背に外へ出れば、冷えた風と共に銀杏の葉がゆらりと風に乗り流れていく。
「あ、そうだ。二人共、この後予定がなければこの先の道へ行ってごらん」
「何かあるのか?」
「この時期でしか見れないものさ。すごく綺麗だから、後悔はさせないと思うよ」
次来た時感想聞かせてね。店主はそう言って店に戻っていく。さりげなく次回の来店を促された気がするが、まあ、言われずとも行くだろうけれど。俺達はしばし顔を見合わせたが、最初から行先も決めていないデートだ。せっかくなので行こうということになり、黄色い絨毯が続く道を歩み始めたのだった。
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