ortensia
2025-11-13 19:35:04
2408文字
Public 傭リ
 

因習村みたいな傭リ奇譚(なので注意)

リが奇形児、喋らない。奇形児を人外と言いたいということは一切ありません。
scpの依談「無縁」っていう胸糞テイルがあります。

 その男、外つ国から来たれり。
 外つ国から来た者を歓ぶ邦は珍しい。しかしそれを逆手に取り、邦の厄を外つ者に引き受けさせることで、邦の厄を祓おうとする邦もあった。それはそれで余所者に居場所が生まれるが、利用され操られること、それを良しとしてしかし心してかかるべし。
 そして外つ国の過客は邦の者に呼ばれた。
 話は、件が生まれたということだった。
 件、クダンは牛の姿に人の顔を持つ妖の類いで先見しそれを人に語るが、予言の後直ぐに死ぬ、と言われているものだ。と聞く。
 男は他の邦で聞いた御伽噺にそう出て来ることを知っていた。だが、名や伝承が似通っていても、邦によって異なるところがあることを知っている。時にはその違いが大き過ぎて、まったくさかしまの意になることも。
 この邦では、クダンは外つ国の過客が先見を聴く役を担うと言う。
 真かは知れない。ただ、もし伝えた予言後外れても、余所者のせいなら、そのせいにして追い出せる。そういうことだ。
 また、他の邦では、クダンが直接人の言葉を語るのではなく、その身を裂いて流させた血が、未来を映すと語るところもある。
 そもそも、クダンなんぞが居るものか。
 人の顔に似たただの牛を不気味で売れないものだから、神威を付して虚偽に高く売ろうとしたと、そういう話ではないのか。
 邦の者に案内されながらそう思うも、余計なことは言わない。
 邦の者に導かれたのは、意外にも産屋だった。牛舎ではないのか。
 本来の穢れのため、邦の者は入らなかった。産屋にひとり入れと促される。
 男は、普通女人ばかりが押し込まれるのだろうそこに入った。何が穢れか、新しい命を歓ぶのも一苦労だ。皮肉である。
 自分であれば、新しい命にあいまみえる初めの人となることに、誉とこそ思えど忌むことなどあるものか。男は開き直って、奥に進む。
 大人用の寝台と、子供用の寝台があった。大人用は空で、子供用の台には小さな塊があった。
 そこにぽつんとクダンは置かれていた。
「おろろん、おろろん、おろろんばい。」
 男はクダンを慰めるように唄った。
 たったひとりのクダンは、男が来たことでふたりになった。
 男がクダンに近寄る。
「これは……。」
 見下ろすと、邦の者が件と呼んでいたものは、確かに人の仔と呼ぶには虚しいものがあった。
 手足の先に指は無く、確かに牛の蹄のように見えなくもない。左の手だけがそのぶんだとでも言う程指が伸びている。尻からは細い尾が伸び、それも牛と呼ぶ者もいるだろう。顔は面長で顎の上に口が無く、鼻も無く、言われれば人より牛に近いかもしれない、あるいは馬。目は眼球は押し出されて何処かへ行ってしまったかのように空洞だ。
 そして頭頂部は、弾けたように凸凹としており、尖ったつのが生えているようにも見える。中が見えている。ほぼ空に近い。
「無脳児。」
 だが間違いなく人の仔であろう。この場で産まれたのだろうならば、益々そう言える。人の子は人に違いない。
 異形なる姿で産まれたとて、不自由な体であるだけで、人は人。他の邦で断尾を行う赤児も居た。生まれつき手足のない者も居た。
 頭が欠けて、産まれても生きられない命もあった。
 そして目の前の命はまだ生きている。左手をゆらゆらと揺らして、命の奇跡を主張しているように見えた。
「それがクダンだと?」
 そんな怪異と称して、この命をここに棄て置いたと言うのか。
 男はクダン、否、赤児を抱き上げた。
 大人しいものだ。口の塞がった赤児は当然ながら産声も上げなかったことだろう。
「よしよし。」
 腕の中でゆらゆらと揺らす。
 男とクダンのいる部屋は、赤児を取り上げた時に悲鳴でも上げて慌てたか、少し散らかっているように見えた。
「おろろん、おろろん、おろろんばい。」
 そこで男はクダンとふたりきりで、赤児をあやしながら子守唄を唄った。
「予言、か。」
 先の無い赤児が、己をここに放置した邦の他の者のために、何か言い遺すだろうか。
「おまえは何か望むか?」
 あいつら殺してやろうか、男が赤児を寝台に戻そうとすると、赤児の左手が男の指を握った。
 男は思わず赤児を柔らかい笑みで見詰めた。目の無い赤児には見えないだろう。それでも男の胸の込み上げたものは、熱いくらいだった。
 男は抱いた赤児から鼓動が、命が消えるまで、子守唄を唄った。よく、眠れるように。
 産屋を出ると邦の者が待ち構えていた。
 その顔は悍ましいものを思うかのように、あるいは、こちらを嘲笑うようで。出て来るのに随分と時間が掛かったことを遠回しに非難された。中でクダンと呼んだ赤児の姿に、男が度肝を抜かして気を遣っていたとでも思っているらしい。
「予言、だったな。」
 そのせいか、男がなんでもない顔で目的達成を仄めかすと、邦の者は目の色を変えた。
「あの子を手厚く葬るように。」
 しかし男がそう告げると、顔を顰めて嫌悪感を露わにした。
 そんなのは予言でもなんでもないと言う邦の者に、先見の通りのことをすれば良いだろうと男が言うも、邦の者は納得せず、男が出鱈目を言っていると責めた。
 責め立てる邦の者を、男は殺して黙らせた。騒ぎ立てられると、それが他の邦に伝わると面倒だった。男はもうこの邦を出て行く算段を立て始めた。
 男は長くはないが滞在した邦で、男が知る限りで一番良いと思う場所に赤児の骸を埋め、石と葉と花を供えた。
「おろろん、おろろん、おろろんばい……。」
 そこは人目に付かないところでもある。このまま誰の目にも触れず、赤児がよく眠れることを願った。
 誂えた墓を前に、男は未だ赤児をその手に抱いた手触りを覚えている。赤児が自分に触れた左手も。
 そして男はその邦を出た。
 何処かの邦で、件が予言をしたらしい。過客の歩みは止まらぬ、と。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。