白殊皎(しらよし こう)
2025-11-13 20:00:00
1857文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

カラベラス・デ・アスカル

FGO【歳勇/土近(としいさ/ひじこん)】
喫煙室で近藤に話しかけたある神性サーヴァントの提案とは。

土方さん不在ですが歳勇(土近)です。


「アンタ〝アレ〟をオレのところに寄越すつもりはないか?」
 召喚されてから、着流し姿で喫煙所の新たな顔に加わった近藤に、ある日金髪にサングラスをかけた神性サーヴァントの一柱が声をかけた。
「〝アレ〟?」
 近藤は鸚鵡返しに聞き返した。
 神性サーヴァントだから人間に理解が及ばない事は多々あるだろうが、話が唐突すぎてついていけなかったからだ。
「ほら、なんて言ったか……あぁ、ヒジカタ、か。バーサーカーのアイツだよ」
「歳を!?」
 話が長くなるか難しくなりそうだったので、煙管から火を落とし、懐にしまう。
 相手が外つ国の神性だという事は知っていても、それ以上のことは知らないためつい警戒を深くした。
「おいおい、殺気立つなよ。なにもアイツが不幸になるような事を言うつもりはねぇ」
 身構える近藤に、相手は大袈裟に肩をすくめて笑ってみせる。
「俺は戦士が好きだ。特にアイツみたいに自分から武器を手にして傷付き、血を流し、懸命に足掻くようなヤツは特にな」
 だからな、とそのサーヴァント──テスカトリポカは続けた。
「少し、休ませてやらねぇか?」
 それを言われて、近藤は胸を突かれた。
 この神に言われるまでもなく、近藤は常々感じていた。
 いままで振り返ることなく、ただひたすら自分に対して手を伸ばし、求め続けてきてくれた彼に一時でいいから休息をと……
 近藤が召喚に応じてから土方はこれまで以上に心を尽くし、自分を支えてくれている。
 土方にそれを言えば、あんたのためならこんなことなんでもない、とあしらわれてしまう。
「アイツに直接声はかけてんだが、色好い返事をもらったことがなくてな」
 彼が支配するという冥界・ミクトランパは、戦場で斃れた戦士が訪う最後の楽園だという。
「どうやらアイツはアンタに相当入れあげてるようだ。アンタからの言葉なら人の話を聞かねぇバーサーカーでも少しは耳に入るんじゃないか?」
「そう、ですか……?」
 やはり他から見ても自分が土方を縛っているように見えるのか、と近藤は思い詰めた顔をする。
──だが……その支配者が目の前にいるとしても、冥界は冥界だ。
 つまりこの神に土方を渡してしまったら、最悪の場合、もう二度と土方に会うことができなくなってしまうのではないかとそう思い至って全身に鳥肌が立った。

──それは、嫌だ。

「おい、別に永遠に閉じ込めようってワケじゃねぇ。ちゃぁんと帰してやるさ。条件はあるがな」
 近藤の表情を的確に読み取って、テスカトリポカは続ける。
 神性との取引ではその〝条件〟が恐ろしいのだ。
……歳は、なんと……?」
「ん? あぁ『俺には目指す場所がある。そこにたどり着くまで休息なんぞいらん』ってな。お堅いもんだ。感心するね」
──その目指す場所ってのはオマエさんの隣だろう? とあっさり言われた。
「ようやっとたどり着いたんだ、休んだっていいじゃないか。これまでアイツはどれだけ苦しんで来たか、傷付いてきたかアンタならわかるよな?」
 それに関してはわかりすぎるほどわかっている。
 紫煙を吐き出し、こちらを見つめるテスカトリポカに近藤は危うく圧倒されるところだった。
 サングラスの奥で光る瞳が空恐ろしく、身が萎縮する。

──だが……

「私からは言えません。楽園を選ぶか、それとも私の隣を選ぶかは……全て、歳の意思です」
……ハァ、全く揃いも揃って頑固だな。いっそ二泊三日ミクトランパツアーにでもして、お二人様でご招待。──にしてやれば来るか?」
 近藤の答えにテスカトリポカはすんなり引いた。

 土方のことは間違いなく気に入っている。
 その魂は身震いがするほど魅力的だ。
 しかし、その魅力はこの人間の隣にあってこそ輝くものらしい。
 引き離してわざわざ曇らせる必要もないだろう。

………………
 対峙していた神性の圧が突如消え失せて、近藤は思わず壁に背をついた。
「残念だが、またの機会にするさ」
 煙草を揉み消し、ひらひらと手を振って喫煙所を後にする神の背を見送る。
………………歳」
 そのままうずくまり、土方の名を呼ぶ。
………………よかった」
 本当にこれでよかったのかと問う自分の内なる声もあったが、土方の知らないところで決定権を奪う愚を犯さなかったことだけでも、よいと思うことにした。
「おまえは……私を選んでくれるかい……?」
 近藤の呟きは、紫煙の残り香と共にくうに溶けていった。