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のたり
2025-11-13 08:38:56
2487文字
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hrsz
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幸せになれる?
「幸せになぁれ」の続き
交際期間0日で婚約者になった私達の初デートは水族館。
友達同士で言う「デート」じゃなくて、生まれて初めての恋人との「デート」が結婚式場の下見を兼ねるとは想像もしていなかった。
待ち合わせの30分前、ドレッサーの前でお気に入りのイヤリングをつけて、遥ちゃんがくれた婚約指輪をつけたときは少し緊張して、待ち合わせの時間通りに車で迎えにきてくれた遥ちゃんの左薬指にお揃いのリングを見つけて胸がくすぐったくなった。
「どうかした? 雫」
「え?」
「なんだかやけにこっち見てるから。そんなに私の運転、心配?」
冗談半分の言葉に「そんなことないわ」と笑って返す。
「遥ちゃんの運転してくれる車が一番乗り心地がいいもの」
「本当?」
「ええ」
運転している遥ちゃんの横顔をつい見てしまうのも本当。
あの夜から1ヶ月、その間に会えたのは2回きり。それもご両親へのご挨拶をしに行っていたから、ふたりきりでゆっくり過ごす時間なんてなかった。だからこうやって遥ちゃんの横顔を見ていられるのが嬉しい。
水族館のホワイトボード掲示板に『ペンギンさんのお散歩 13:00〜、15:00〜』と書かれているのを見て、遥ちゃんを引き留める。
「遥ちゃん、見に行かなくていいの?」
「うん。今日は会場の下見が目的だからね。どのくらい人が入れるかとか入退場の動線とかーー」
真面目な表情につい吹き出してしまった。遥ちゃんがきょとんとして少し焦った表情になる。
「私、おかしなこと言った?」
「いいえ。ただ、昔、配信の企画の準備してたときと同じ顔してるなぁって思って」
「
……
あ、それはそうかも
……
。ごめん、デートなのに」
「謝ることなんてないわ。でも遥ちゃん、海中トンネルを確認し終わったら、ペンギンのお散歩見に行きましょう? せっかくのデートなんだもの。15時の回ならきっと間に合うわ」
「ーーうん、そうだね」
遥ちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。
少し暗い海中トンネルを歩いていく。足元に映る水面の影がゆらゆら揺れる。ふと顔を上げたら遥ちゃんがこっちを見ていた。
「なぁに? 遥ちゃん」
ふふっと遥ちゃんが目を細めて笑う。
「雫は水族館ウェディングが似合いそうって、みのりが言うのもわかるな」
「え?」
「雫は普段着でも輝いてるけど、ドレスの雫もきっと素敵だよね。楽しみだな」
そんなふうに言われて顔が少し熱くなる。
「きっと遥ちゃんも素敵だと思うわ」
私がそう返すと、遥ちゃんは「ありがと」と笑った。
遥ちゃんが前を向く。水面の影が映った遥ちゃんの横顔は綺麗で格好良くて、ステージに立っていたときのことを思い出した。
肩にかけていた鞄の持ち手を握る。
「雫?」
いつのまにか足を止めてしまっていた私に遥ちゃんが顔を覗き込んできた。
「どうかした?」
「あ
……
」
「
……
」
遥ちゃんが手を口元にあてて、首を傾げた。そして苦笑いする。
「雫、なにか気になることとかあるなら、ちゃんと教えてほしいな。これからは一緒に暮らしていくんだし」
「
……
そう、そうね」
遥ちゃんの言葉に頷いて、とりあえず笑い返してみたけれど、遥ちゃんは表情を変えずに、私の言葉を待っていた。ずっと、そう。遥ちゃんは私がいつもなら飲み込んでしまう言葉を口にできるまで、待っていてくれる人。
「
……
ねぇ、遥ちゃん」
「なに? 雫」
「遥ちゃんが考えなしにこんな大事なことを決める人だとは思っていないの。ちゃんと考えて、私を選んでくれたんだって頭ではわかっているんだけれど、
……
遥ちゃんは、私で本当にいいの?」
遥ちゃんはずっとアイドルで、恋愛ごとから離れていたから知らないだけで、遥ちゃんに相応しい人はもっと他にいるんじゃないかしら。でも遥ちゃんの相手でいたいという我儘がその思いに蓋をして、でも塞ぎきれなくて、ぷつぷつとまるで水槽の中の泡みたいに浮かんでくる。
「
……
そっか。雫、そんなこと考えてたんだ」
遥ちゃんがふっと優しく緩む。
「ごめん。雫のこと、不安にさせちゃってたみたいだね」
「
……
遥ちゃん
……
」
「私、長い間アイドルとして過ごしてきたけど、これからはもっと長い時間を過ごすことになるよね」
「
……
ええ」
「不安にだってなったけど、私、雫といられれば幸せになれるって思ったんだ」
「
……
幸せになれる?」
「うん。アイドルじゃない私が幸せになるためには雫が必要で、そのためには雫にも幸せになってもらわなきゃいけないんだけど」
「私にも?」
「うん。雫は幸せになれる?」
「
……
ええ。私、遥ちゃんと一緒ならきっとなれるわ」
遥ちゃんはほっとしたように表情を緩めた。
「よかった」
一歩前に出た遥ちゃんが、振り返って私と向き合う。私はいつのまにか鞄の持ち手を握っていた手にぎゅっと力を入れていた。
「雫」
一度口を閉じて、遥ちゃんが小さく息を吐く。そしてもう一度開いた。
「雫、私と結婚して」
「
……
今更?」
「そう、今更。ーー雫、返事は?」
首を傾げた遥ちゃんが可愛くて、つい笑みが漏れる。
「遥ちゃん、もう一度言ってくれる?」
「うん、いいよ。雫、私と結婚してください」
「ーーはい」
「ずっと私の傍にいて」
「ええ」
「私の手を離さないで」
「ええ、わかったわ」
「じゃあもう一回言うね」
「え?」
「私と結婚しよう、雫」
「ええ。私と結婚してね、遥ちゃん」
「うん」
胸がくすぐったくて、顔を見合わせてふたりで笑い合う。
「あ、そうだ」
「なぁに?」
「雫」
遥ちゃんがぱっと左手を差し出してきた。
「手、繋ごうよ」
「え?」
「だってデートだし。いい?」
「ええ、もちろん」
子どもっぽく笑う遥ちゃんに自然に笑顔になって、遥ちゃんの手を取った。互いに指を絡ませるように手を繋ぐ。その手を遥ちゃんは大事そうに見つめた。
「ずっとこうやって繋ぎたかったんだ」
「車の中から?」
「ううん。高校生のときから」
遥ちゃんがそう言ってくれて私も嬉しくなる。
「私もよ、遥ちゃん」
顔を見合わせて、肩をすくめてまた笑い合った。
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