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A4
2025-11-12 21:43:43
4283文字
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助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
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規則正しい生活をしよう/ 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
ちょうきへ〜でのんびり隙間の話を妄想した
リンからノックノックでメッセージが来た。
通話ができるかという一言。
通話のアイコンをタップするとすぐに繋がる。
「ライトさーん、かけてくれてありがと!」
元気いっぱいの第一声を聞いて問題が起こったわけではないらしいと悟る。
「どうしたんだ。珍しいな」
「お願いがあって」
「『パエトーン』からのお願いか」
「個人的!」
ライトはデバイスを凝視した。
「というか、お兄ちゃんのこと」
「ふむ」
「ここ最近、新しいホロウのキャロットデータ解析に夢中になってずっと夜更かししてるの。目にクマまで作っちゃって、お風呂も入ってないし、ライトさんから何か言ってやって!」
「俺が何か言ったところであんたの兄は聞き入れんだろう」
「そうかなあ」
「頑固だからな」
「むう」
「が、試してみてもいい」
「じゃあよろしく」
デバイスに軽快な音が鳴り、個人口座に入金があったことがバナーで通知される。その金額はけっして安くはない。
「おいおい」
「来てくれるよね」
「感心しないな」
「私はファンタジィリゾートの共同経営者で適当観の運営もやってる敏腕試算運用コンサルタントなの。郊外のチャンピオンを呼びつけるんだから必要経費でしょ。でもお兄ちゃんには秘密にしてね」
なおさらそれでは金は受け取れないと言おうとして、やめた。妹も頑固なのだ。
ライトは午後には出発するとだけ伝えて通話を終了した。
さて、これから、カリュドーンの子のメンバーに遠方まで出向く旨、伝えねば。
バイクを走らせフェリーで衛非地区に渡り澄輝坪までトラムを使う。駅をおりると広場があり、左手に適当観が見える。広場では何やら舞踊のようにも見える体操をしている老若男女がおり、その横を子供たちがかけっこしていた。ビデオ屋もここに出張所を構え、ハツというボンプがおすすめビデオを流している。
門をくぐると、ちょうどアキラがいた。修行服に身を包んでいる。この姿にはまだ慣れず、ライトは目を細めた。アキラが来客に気づいて、そして目を丸くする。すぐに彼は破顔し、その反応にほっとする。
「やあ、ライトさん。いらっしゃい。今日はどんな用向きかな」
「あんたに会いに来た」
「ずいぶんとストレートだ。あいにく、もてなす準備は何もない」
「あんたの部屋に滞在させてもらうだけでいい。ぶらぶらして何日かしたら戻るさ」
「おや」
アキラは首を傾げた。
「休暇中ということ?」
「そうじゃない。仕事ではある」
「僕に手伝えることはあるのかな」
「あんたの助けが欲しい時は遠慮なく相談する」
「そうしてくれると嬉しいよ。じゃあ、部屋を案内しよう」
アキラは自分の適当観での居室にライトを招いた。中庭を抜ける途中、建物の窓からリンの姿が見え、彼女もライトがわかったらしく、手を振っていた。
「
…………
」
アキラの部屋に入ったライトは無言になった。まず、入口に入ると足元にダンボールをたたんだものが積み重なりその奥に箱のままのダンボール、それも封が開いていないものが床に無造作に置かれている。部屋は衝立で二つに区切られており、入って左手には機材が設置され床には紙が散らばっていた。右手が寝室としているようで、こちらは片付いており、ダブルサイズのベッドがきれいにベッドメイクされていた。
「ライトさんはここで寝てくれ」
「あんたはどうする」
「僕はこっち」
「
…………
」
アキラが指し示した機材がある部屋を見てライトは顔をしかめた。モニターがいくつもあり、なんらかの装置がケーブルで連結され、机を占拠している。その隙間に紙のカップやら袋菓子、キャンディの包み紙、ペン、メモ帳、キャラクターの描かれたカードなどが見え隠れし、一言で言えば散らかっていた。椅子の足元にエナジードリンクの缶がいくつも転がっているのも気になった。リンが嘆くのも無理はない。
「あんた、ほとんど寝てないだろう」
「そんなことはない。3時間くらい寝てるよ」
「横になってもない」
「この椅子は、ほら、リクライニングになっててこれくらい背もたれが倒れる」
「着替えてないんじゃないだろうな」
「さすがにそれは。姉弟子にも妹弟子にも文句を言われる」
説明するアキラの顔は疲れていた。が、目は爛々と輝いていて、本人は元気なつもりなのだろう。これはアドレナリンだかドーパミンだかが出ているだけで、体はしっかり疲労を訴えている。
力尽くで寝かせようかと考えたが、ライトはとりあえず見守ることにした。
「外を観光してくる」
「案内がいる?」
「お構いなく」
「晩御飯は一緒に食べよう」
「それまでには戻る」
ライトはアキラの部屋を出た。そして無言で首を横に振った。
日が暮れる頃、ライトはアキラの部屋をのぞいた。薄暗い部屋の中、明かりもつけず、アキラはモニターを見つめていた。光が反射して瞳がちらちらと点滅する。入り口に体をもたれさせてしばらく観察していると、アキラは「うーん」と声を出しながら腕を上げて伸びをした。一目見ただけで体がかたいことがわかる。
「アキラ」
「わあ」
アキラの体が傾いで、ライトは慌てて駆け寄り受け止めた。
「びっくりした」
「こっちのセリフだ」
「もうこんな時間か。お腹は空いている?」
「ああ」
「僕も腹ぺこだ。外に行こうか」
アキラの目の下に色濃い隈がある。親指で思わずこすると、アキラは笑って身をよじった。
二人で飲茶仙に行き、点心と肉料理を頼んだ。食欲はあるようでぺろりと自分の分を平らげていた。
それから夜の澄輝坪をぶらぶら歩く。アキラはライトに近況を話しながら何度もあくびをした。最初は謝っていたが、五回を超えた頃から気にしなくなったのか、何も言わなくなった。
適当観に戻ると橘福福と遭遇した。彼女とは何度かラマニアン・ホロウの探索に出かけていて、顔見知りである。小さな姉弟子はアキラの友人が来たことが嬉しいらしく「ゆっくりしていってくださいね」とにこにこしていた。
ライトは部屋に戻ると「風呂を借りる」と言って、アキラを残して別棟に向かった。適当観では湯浴みの部屋があり常に滾々と湯が沸かされていた。以前に訪れたときに借りて、普段シャワーで済ませていたライトは湯船に浸かる良さを知った。バスタブよりもよかった。
潘引壺がライトのために道着を用意してくれていてそれに袖を通す。前をとめる服にはあまり慣れていなかったが、良い布地が使われていて着心地がよい。
夜風に少し吹かれて、郊外よりも湿度の高い空気に郷愁を覚えた。ライトにとってはあの乾いた大地がホームになっているらしい。
アキラの部屋は外からでも明かりが点いていることがわかるようになっている。戻るとキーボードの規則正しい打鍵が聞こえた。
「ライトさん、お帰り」
「まだ仕事か」
「うん。でも、もう寝ようかな。僕もお風呂に入ってこよう」
アキラは眠たそうな目を瞬かせて、立ち上がり着替えを持ってふらふらと出て行った。それを見送った後、ライトは遠慮なくベッドに寝転がった。30分ほど経っただろうか。扉が開く音がしてアキラが衝立ての陰から顔をのぞかせた。
「まだ起きてる?」
「いや。寝る」
「
…………
」
「ここで寝るか? 元々あんたのベッドだ。俺がそっちでもいい」
「一緒に寝よう」
「狭いぞ」
「あなたが嫌じゃなければ」
もちろん嫌なわけがない。ライトはアキラの入るスペースを作った。隣に滑り込んでくる。そして、大きなあくびを一つしたかと思うと、まぶたが閉じてゆき、あっという間に寝てしまった。その肩に毛布をかけてやりながら、ライトは苦笑した。子どもを相手にしている気分である。
普段のアキラとの関係を思えば、情事になだれ込みそうなものだったが、この夜はいたって健全だった。ライトはアキラの健やかな寝息を聞きながら眠った。夢も見なかった。
日の出のころに起きてトレーニングをするのは日課であったので、滞在先であってもライトはルーティーンを欠かさなかった。潘引壺が巨大な鉄鍋を抱えながらいくつかの型を構えていたので二言三言言葉を交わした。
「残念ながら私闘は禁じられているんだ。雲嶽山の教えでなあ」
それがなければ拳を交わしたのに、と潘引壺は悲しげに言った。
「が、代わりと言っちゃなんだが、豪勢な朝飯であんたをもてなそう」
「そりゃ楽しみだ」
「弟弟子くんを起こしてくれ。最近、ちゃんと食べてないんだ」
「わかった」
汗をタオルで拭きながら部屋に戻る。ベッドの上ではまだアキラがすやすや寝ていた。直立不動がそのまま倒れたような寝相で、何やら堅苦しい。普段もこうだったかと思い返して、いろいろ別のことを思い出してしまい、咳払いをした。今回はそういうのはなしにすると心に決めているのである。
いつもの服に着替えていると、アキラが「おはよう」と言った。
「おはようさん。よく眠れたみたいだな。顔色がいい」
「うん。ぐっすりだ。寝過ぎたくらいだよ」
「ここのひとたちはみんなあんたを心配しているぞ」
ベッドに腰掛けて、ライトは目にかかった前髪を指で払ってやった。アキラは目をつむって、嘆息した。
「まったく
……
仕事だなんてひどいな」
「え?」
「ライトさんがここに来たのが僕に会うためだなんて、そのまま信用すると思った?」
「間違っちゃいないさ」
「誰かに頼まれてる」
「なんでもないのに来ちゃ迷惑だろう」
「そんなことはない」
「俺の立場にもなってほしいもんだな。のこのこ会いに来て拒否されちゃたまらん」
「
……
まあ、それはありうるね」
「ほらな」
「嬉しかったのは事実だよ。あなたが隣にいるからまともな生活も思い出したし。だから、これは僕の我が儘だね」
やれやれと首を振ってアキラは身を起こす。それから、口の端を上げてにやりとした。
「また雲嶽山の服、着てほしいな。とてもセクシーだった」
「ああいうのが好みだったのか」
「ライトさんが着るのがね」
ぴょんとベッドから飛び降りてアキラはさっさと着替えると外に出て行く。それをぽかんと眺めて、一呼吸遅れてその後に続いた。
「朝日がまぶしすぎる。灰になりそうだ」
「死なないでくれよ。プロキシの死因は過労と不摂生だと聞いたぞ」
「あなたにならって健康的な生活を心がけるよ」
そうして二人で厨房に向かう。香ばしい油のにおいが鼻をくすぐる。
ライトはデバイスを操作して、リンの口座に返金した。
これが仕事だなんて、自分でもあんまりだと思ったので。
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