ぽふむん
2025-11-12 20:33:02
2492文字
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童乩

童磨さんの名前が童乩(タンキー 台湾のシャーマン)由来説を聞いて

この自傷行為は、作中で言っている通り酔っているのではなく素面のトランス状態です。
そして、微妙にブラックジャックのドクターキリコのネタを差し込んだつもりです。

極楽教の教義って、何となく緩和ケア、安楽死の概念を言っているなと思う時があります。

しのぶは夜廻り前に、極楽教寺院に足を運んだ。
裏庭に行くと、一人の男が柱に大柄な背中をもたれかけさせ、手酌で月見酒をしているのが見えた。
目的の男だ。

(少しは反省してるんでしょうかもう!一体どういうつもり?
あんなものを持って来たりして)

反省していようが、していまいが関係ない。
文句を一言言い、殴ってやるつもりだった。
自分ごときの力では些ともこの大男には応えないことくらいわかっている。
承知の上で、このくらいしてやらない事には気が済まない。

珍しい。背後に立っても気がついていないようだ。
少し違和感を感じ、万世さん……とやさしく声をかけようとしたその時だ

男の頭がゆらりと前に動き

ガツン

柱に後頭部を打ち付けた
そして、くるりと振り返るとその額を柱に激しく打ち付け出した。
血が出るまで何度も打ち付ける。

「な……何しているんですか。やめなさい」
酔っているのだろうか。
真言なのか、訳の分からない呪文のようなものを唱えながら、童磨はひたすら無心に、無表情で頭を柱にうちつけ続けた。

にぃ

童磨の顔に、この世のものとは思えない無邪気とも不気味とも言える笑顔が浮かんだ。
そして、しのぶの制止の声など全く聞こえていないようにひたすら……ひたすら

ガツン、ガツン、ガツン

しのぶの制止の声も聞こえていないのか、柱に頭をうちつけ続けた。
次第に赤い粘液が流れ出してきた。

「やめ……やめろ!このバカ!酔っ払いのくそバカ野郎。この……やめなさーい」

しのぶは思いっきり童磨の頬を張り倒した。
頬に赤い小さなもみじが散る
もう一発パチンと思いきり頬を張る。
我に返ったのか、今までどんよりしていた童磨の瞳がキョトンとしたものになる。いつもの虹色の宝石のような瞳でしのぶを見つめかえしてきた。

「痛っ…………れ?いつから居たの?しのぶちゃん」
童磨は叩かれた頬を抑えて言うが、痛いのはそこじゃないはずだ。
「ああ!もう。この酔っぱらいが。ちょっとしゃがめ!頭の傷見せなさい」
しのぶは額の傷の程度を確認する為に血を拭う。
思った程には傷は深くないようだ。
二針ほど縫えば良い。
「酔ってなんかないよ……縫われる方が痛い」
男は唇を尖らせた。
この男、しのぶと二人きりになると歳不相応に子供っぽい表情を見せる時がある。
これは甘えなのかもしれないが、今のしのぶにこんなことに頓着する心の余裕は無い。

「黙ってろ!素面でこんなことするバカがどこにいる」
荒々しい口調とは裏腹に、腰に着けた鞄から手当て用のキットを取り出すと、実に細やかに傷の手当てをはじめる。
そんなしのぶに対し
「三歳のおチビの頃からやってる事でーす。こうするとなにか声が聞こえるらしいんだ」

子供っぽくぶうたれたように童磨は応えた。
しのぶは思わず息を飲んだ。
これが、目の前の男が子どもの頃から強制されてきた役目というのか。
季節感皆無で厚着をしている理由も聞かされた。
寒気が走った。
トランス状態で、自分を傷つけながら舞い踊り、神の声を聞くのだという。


「それ……で、何か聞こえたんですか」

そんなことで聞こえるはずがない。
わかりきっているはずなのに、間の抜けたことを聞いてみれば、案の定の返事が返ってきた。
「ぜぇんぜん。聞こえない。聞こえたことなんて一度もない」

そう応え、男はケラケラ笑う。
「わかっていながらこんなことをして、何を聞こうとしてました?」
……応えたらどうせ怒るんでしょ」
「怒りません。何が聞きたかったんですか」

……


「言いなさい」
しのぶは優しく、かつ厳しい声で命令した。
これは命令。
しのぶの命令には逆らえない童磨は、少しうなだれ素直に従った。
……うちの信者の子のお母さん。中気で倒れて寝たきりで……今までできていたことがどんどん出来なくなる。そうすると……悔しいんだろうね。嫁さんに意地悪するんだって。若い時は それなりに気が強いけど、人に意地悪する考えなんて露ほどもない。優しいお母さんだったんだって」

信者からされた悩み相談だろう
それを訥々と童磨は話し出した。
「そんなお母さんを見ているのが辛いんだってさ。
お母さん言ったんだって。元気にならないなら、皆のお荷物になるくらいなら殺してくれって。
自分の意思をはっきり言葉にできたのが二日前。今や苦しげに息をしているだけ。せめて死ぬ時くらい楽に苦しまず逝かせてあげたい。どうしたらいいってさ」
しのぶの中で何か繋がった。


───見てみて、ついに出来たよ。神の妙薬だ。飲めば花の香りに包まれながら夢の中にいるような気分になる。夢の中で死ねるんだ───

鬼ならともかく、それを人に使うなんて馬鹿げてる。
しのぶは切り捨てた。
馬鹿げていると思った。

生きてさえいればいい事もあるだろう。
親しい人と酒を飲み、くだらない話に花を咲かせる。
旅行、湯めぐり
サイクリングに観劇三昧
作詞や絵画といった芸術的趣味

でもそれは、全て元気だから出来ること。
もし、ただ生きているだけの状態だったら

「それでも……もし本人や家族が望んだことだとしても……それに応じれば、あなたが殺人者になります」
しのぶは静かに応えた。

「ああ、やっぱり怒る。俺、しのぶちゃんに怒られたくないなぁ。でも、信者の子が苦しんでるんだもん。気持ちを楽にしてあげなきゃ。それが俺の使命だもん。
手がかりすらくれない……やっぱり神様なんて居ない。

……ずるいよねぇ。不公平だよねぇ。
鬼なら優しい毒で死ねるのに。しのぶちゃんの特製の毒で安らかに逝けると言うのに」

何時もより声が低かった。
しのぶは背中が泡立つのを感じた。

「なんでかなぁ?本人と家族が「これ以上苦しみたくない。どうせいつか死ぬのなら、最後の時くらい楽に夢見るように」と願っているのに。
鬼は良くて人間はダメ……ねえ、なんでだろう?」

答えが出なかった。
夜半の月だけが二人を照らす。
夜風が生ぬるい