望月 鏡翠
2025-11-12 10:05:00
870文字
Public 日課
 

#1898 羊飼いの国4

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 山を歩きながら、羊飼いの仕事はどんなふうなんだと男に聞いた。
 ここがどんな国か知りたいが、その質問に正しく答えられるのは他の国と比較ができる旅人だけだ。どんな風に生活が回っているのか、経済はどう動いているのか。その辺りは仕事について聞くのが一番良い。
 妙なことを聞いていると思われたとしても、この辺りに不案内な旅人だからということで受け流してもらえる。
 開かれた明るい森は、蹄を持つ侘助にとって歩くのに困難な道ではない。男も足腰が強く、山を歩きなれているようで、喋りながらでも平気なようだった。
「どうということもないが……。儲かりはしないがなんとかやっとるよ」
 男は顎を撫でながら、遠くの羊の群れを見る。あの辺りには忠実な牧羊犬か彼の家族が羊の様子を見ているのだろう。
 話を聞く限り、今は夏のようだった。冬が来る前に、草をたっぷりと食べさせなければいけないと口にしていた。
 四季があるらしい。夏でこの気温なのだから、あまり暖かい場所ではない。遠くに見える羊も、侘助が知る羊――肉と毛皮をとる草食の獣――という認識で良さそうだ。
 戦火の話はなく、脅威の話は狼くらいだろうか。侘助を警戒せずに家に招いたことからも、治安は悪くなさそうだ。
「後で手伝える仕事はあるだろうか」
「仕事? いや別に旅人さんに頼むようなものはないけどよ。……ああ、銭が欲しいのか」
「そういうことだ。もちろん、そちらに余裕があったらで構わないし、物々交換でもいいんだ」
 時折切り株があるのは、羊飼いが薪をとりにやってくるからなのだろう。あとで山を探したらキノコが取れるかもしれない。
「考えておくな。それこそ、流れ星を本当に見つけられたらお礼をするよ」
「流れ星か。どんな見た目をしているんだろうな」
「持って帰ることができるものならいいんだけどな。できなくても、空から落ちてきた星を一目見れればいいんだ」
「ああ、私もそれでついてきたんだ。よくわかるよ」
「ロマンだよな」
 羊飼いはウインクした。
 想像の中の星はピカピカと輝いている。