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ちよど
2025-11-12 05:35:27
7761文字
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アシュヨダ
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わし様が初恋を拗らせている話
アシュヨダ。生前捏造あり。pixivより再掲。
アシュヴァッターマン「らしくねぇこと言ってんじゃねぇぞ!ドゥリーヨダナ!!」
覚悟を決めてドゥリーヨダナの部屋に入れば、旦那は晩酌の最中だった。
俺の正面にあるカウチソファに旦那はひとり腰掛けている。その前のローテーブルには酒はなく何種類かのつまみが散らばっていた。
このカルデアでカウラヴァは俺達二人しかいない。俺が給仕していないのだから旦那は手酌で飲むしかなかったのだろう。
そう意識を逸したかったが、どうやってもソファに座った旦那の手にあるモノを否定出来ず俺は絶叫した。
「なんで、聖杯で酒飲んでるんだ!!旦那ぁ!!」
俺の声量に一瞬目を瞑った旦那は、すぐに楽しげな笑みを浮かべた。
「アシュヴァッターマン。聖杯とやらはいいぞ。どれだけでも好みの酒が湧いてくる」
「聖杯はそんな使い方をするアーティファクトじゃねぇよ!」
以前、聖杯でうどんを食ったサーヴァントがいたが彼女の霊基はロストしている。カルデアに来てからまだ日の浅い旦那はどこでこんな事を覚えてきたのか。
まったく、昔も今も目が離せない人だ。
それよりも。
「旦那。どこで聖杯を手に入れたんだ?保管庫はサーヴァント全員出入り禁止だろ」
「わし様は盗みなどせんわ!これは日頃のわし様の活躍に感銘したマスターからの献上品よ」
ふふん、と胸を張る旦那に俺は肩を落とした。
「強化素材をこっそり持ってきたのかよ」
「どうせわし様に使うなら、その前に楽しんでも構うまい」
うそぶいて旦那は聖杯を煽る。
どれだけ飲んでいたのか、旦那の浅黒い肌がほんのり紅潮していた。
とろりとした紫水晶の瞳が俺を見る。
「それで何の用だ?」
「
……
用というか、」
言い淀んだ俺に旦那は聖杯をテーブルに置いた。
俺はそんな旦那の傍に近づく。心臓が不規則に跳ね出した。
ソファの横で膝をついた俺に旦那が不審そうに体を向ける。
俺はよくよく観察すれば端正なその顔を見上げた。
「アシュヴァッターマン?」
旦那が俺の名前を呼ぶ。それすらも今の俺には雷鳴よりも響き渡る。
思い出すのは、旦那が召喚されたあの時。
くるくると回る光の中心で形作られるエーテル。
記憶が擦り切れていくなか、必死にすがっていた面影が編まれていく。
大柄な体。ふわりとした紫の髪、紫水晶の瞳、愛嬌のある表情。
──ドゥリーヨダナ。
得意げに名乗りを上げるその人を俺はただ体を熱くして見つめる事しか出来なかった。
三千年かけて、俺はこの気持ちが恋だと気づいたのだ。
「旦那、──ドゥリーヨダナ」
言い換えた俺に旦那が眉を寄せる。俺は手のひらに滲んだ汗を握りしめた。
「愛しています」
「わし様も愛しておるぞ」
旦那が鷹揚に笑って返す言葉に首を振る。
これくらいかわされるのは想定していた。旦那が俺にそんな感情を持っていないのは分かっている。
だから、これは俺のけじめみたいなものだ。
「俺は、恋愛的な意味であなたを愛しているんだ」
途端、旦那の顔から表情が抜け落ちた。
見たことがない顔に慌てて立ち上がろうとする俺に、旦那は形だけの笑みを向ける。
「──今更、おまえがそれを言うのか」
その意味を問い返すより早く、突然テーブルの上の聖杯が光を溢れさせた。
光芒が、旦那と俺を包み込む。
慌てて旦那に手を伸ばそうとするが、すぐに俺の意識も光に呑み込まれた。
◆
気がつけば辺り一面に霧が広がっていた。立っている俺の肩よりも丈が高い雑草が生い茂っていて周りが見えない。
霧だけではない湿気を肌に感じる。だが耳を澄ませても何の音もしない。湖か池の近くなのだろうか。
「旦那?」
近くにいたはずの旦那の姿が見えない。
探しに行くべきだが、無闇に動いていいのだろうか。
──今更、おまえがそれを言うのか
旦那の言葉が蘇る。状況からして旦那が聖杯を使ったのだろう。だが、その理由が分からなかった。
俺の想いが旦那にとって不愉快だったとしても、わざわざこんな大袈裟な事をしないだろう。最悪静かに切り捨てられて終わりだ。
不意に気づく。俺は旦那に切り捨てられない自信があったから告白したのだ。
自分の傲慢さに怒りが込み上げる。
カルデアで再開した旦那が俺に対してあけすけに親密な態度をとっていたので忘れそうだったが、俺は本来旦那にも、誰にも許される存在ではない。
(ともかく旦那を探そう)
この霧が罠であっても構わない。そう一歩踏み出した時。
音楽が聞こえた。
記憶の端に引っかかるそれに耳を澄ます。
楽師が奏でる4弦の琵琶と小さな鼓。ゆったりと流れる笛の音は生前のドゥリーヨダナが気に入っていてよく演奏させていた曲だ。
目の奥が熱くなる。
脳裏にあの頃の自分たちが蘇る。
──スヨーダナ様
霧の中、どこかで聞いたような声が旦那を呼んだ。
──スヨーダナ様。
──どうした、アシュヴァッターマン
今より少し若い旦那の声に、あの声の主が自分だと分かる。
敵の攻撃かもしれないと脳裏で警告がちらついていたが、俺の体は動かなかった。
会話は続く。
──我が王。そろそろ妻を迎えてください。
そうだ。
王族にとって跡継ぎを残すことは義務。だというのに旦那はなかなか結婚しようとはしなかった。
多分、これは何度目かのやり取りなのだろう。
懐かしさを覚えるほどには、俺はこの会話を鮮明に覚えていない。
三千年の間に擦り切れた記憶が、砂が水を吸うようにこの会話の先を望んでいた。
──アシュヴァッターマン。おまえは、わし様が妻を迎えれば嬉しいのか?
──当然です。
声を弾ませた自分に旦那はため息をついた。
──ならば、娶ろう。適当な女を見繕ってくれ
──ありがとうございます。我が王。
俺は一礼したのだろう。布ずれの音がした。足音が遠ざかって行く。何か硬い物を殴る音がした。
ぐるりと霧が渦を巻く。音楽が華やかなものに変わる。
──我が王。ご成婚おめでとうございます。
──おまえは嬉しいか?アシュヴァッターマン
──はい。この上もなく。
そうだろう。妻を娶るということは一人前の男になるということだ。それを祝わない臣下はいない。
ただでさえ、くだらない予言であれこれ言われているのだ。付け込まれる瑕疵は少ない方がいい。
それは当然の考えのはずなのに、何かが引っかかる。
またぐるりと霧が回る。
音楽はいつの間にか止んでいた。
──我が王。側妃をお迎えください。
──アシュヴァッターマン。跡継ぎは作った。それでいいだろう?
疲れたようなドゥリーヨダナの声に『俺』は言い募った。
──ですが、お世継ぎがひとりだけでは
──黙れ。もういい。この話は終わりだ。
俺を置いて立ち去る足音を、その言葉の意味を、この時の俺は理解出来なかっただろう。
でも、今の俺は知っている。
──今更、おまえがそれを言うのか
俺が告白した時の旦那の言葉を。
(ああ、あの人は俺のことが──)
俺の推測が、俺の自惚れが、間違いでなければ。
俺はどれほどあの人を傷つけただろうか。
掠れた記憶が確かなら、いつまでも独身だった俺にあの人は婚姻を勧めたりしなかった。
その意味を、俺は深く考えたことはなかったのだ。
「ドゥリーヨダナ」
霧の中に踏み込む。あの人を探さなくてはならない。
探し出して、どうすればいいのかはまだ分からないけれど、このまま見失っていてはいけないことだけは確かだった。
視界を覆う霧と雑草をかき分ける。
いつか、こんな光景を見た気がした。
急に視界が開ける。
霧の中に湖が広がっていた。
見覚えのある岸辺。鬱蒼と茂る緑。
(ここは
…
あの湖だ)
クルクシェートラの戦いに敗れた旦那が逃げ込んだ湖。
ならば、旦那の居場所は。
おぼろげな記憶を頼りに風景を照らし合わせながら進む。
そうして俺は大きな穴にたどり着いた。
地面に深く大きく掘られた穴に大柄な旦那の体がすっぽりと入り込んでいる。
穴の中には布や柔らかい草が敷き詰められ、目を閉じ膝を抱え体を丸めている旦那を優しく受け止めていた。
この穴を掘る作業の際に周りの雑草を踏み固めたりしただろうに、その痕跡は殆ど消してある。この作業を成し遂げた者はどれほど旦那に心酔していたのだろうか。
お陰で旦那は追って来たパーンダヴァの連中に『湖の中から声がしている』と勘違いさせることが出来たのだ。
(そうか、)
「ここが旦那の──最後に安心出来た場所なんだな」
きらびやかな王宮ではなく、こんな穴の中を逃げ場所に選んだ人は応えない。
俺はそっと屈み込んで、眠っているかのような旦那に手を伸ばし──。
突然の暴風に吹き飛ばされた。
雑草をなぎ倒して地面を転がる。
すぐに体勢を立て直して顔を上げると、そこに立っていたのは。
「──カルナ、」
俺たちのカルデアにはカルナは召喚されていない。このタイミングで野良サーヴァントが現れる確率は限りなく低いだろう。
なら、俺と旦那の間に立ち塞がるように立つ、これは。
「おまえの考えている通りだ。アシュヴァッターマン」
旦那が作り出したカルナが槍を構える。
「──しばらくおまえとは会いたくない」
「それは旦那の言葉か」
カルナは答えない。答える必要もなく分かり切っている。
しばらく、ということは時間が経てば会ってくれるということだ。
無神経に想いを告げた俺を旦那は許してくれる気なのだろう。生前、気づかずに何度も旦那の気持ちを踏みにじった俺に何も言わなかったように。
俺が旦那に婚姻を望んだのを。俺が旦那の結婚を無邪気に喜んでいたのを。俺が旦那に側妃を勧めたのを。旦那はどんな思いで聞いていたのだろうか。
──今更、おまえがそれを言うのか
人形のような笑みを浮かべた旦那を思い出す。
俺にとっては三千年以上昔の出来事だが、死してすぐ英霊の座に登録された旦那にとってはせいぜい十数年前の事だ。記憶は真新しいだろう。──痛みも、残っていたのだろう。
そこを無遠慮に踏みにじった俺が、ただ待っていれば許されるなどあってはならねぇ!
「カルナ、どいてくれ。俺は旦那に話がある」
俺の言葉にカルナはわずかに表情を険しくした。
「度し難い愚行だ。おまえが得るものは何もない」
「分かってる。得るどころか失うかもしれねぇな」
旦那の希望に従わず強行突破して、今度こそ見限られるかもしれねぇ。
だが、俺はチャクラムを顕現させた。
蹴り飛ばす。
槍で受けたカルナとの間に炎が巻き起こる。
弾かれたようにカルナが顔を上げた。
チャクラムを囮に飛びかかった俺がその目に映り──。
「──真の英雄は目で殺す」
赤く染まった瞳から放たれた光線をなんとか避けた俺は地面に落ちた。
(目で攻撃が出来るとか知らねぇぞ!)
俺はカルナと共に戦った事が少ない。旦那ならばカルナの全てを知っていたかもしれねぇが、俺にとってこの攻撃は予想外だった。
チャクラムを振り払ったカルナが俺に向き直る。
おかしい。
(弱すぎる)
俺の知っているカルナならば様子見のチャクラムを防ぐのにあんなに時間がかかるはずがない。あの意味不明な目からの光線も外すなどありえないだろう。
今も、体勢を崩した俺に追撃がない。
(手加減、されてんのか)
それとも他に理由があるのか。
いずれにしろ好機だった。ただでさえランサーに対しアーチャーは不利。相手の手の内を知り尽くしていないと分かった今、戦いを長引かせればジリ貧になるのは目に見えていた。
立ち上がった俺にカルナは槍を向ける。
「去れ、アシュヴァッターマン」
「断る!」
今の攻防で立ち位置が変わり。カルナの背後は旦那がいる位置からズレている。旦那は深い穴に収まっているのだから地上で多少ぶっ放しても直撃さえ避ければ問題ないだろう。
必要なのは相性不利をぶち抜く火力。
俺は腕のブレードを首筋に当てた。
引き裂く。
「アシュヴァッターマンっ!!」
己の首を引き裂こうとした腕を寸前で掴まれて俺は顔を巡らせた。
今の声はカルナの声ではなかった。
「──旦那?」
掴まれていた腕がそっと首から離される。腕を掴んでいるカルナの姿がゆるりと溶けた。
そこにいたのはドゥリーヨダナだった。
旦那がカルナの姿を被っていたなら、あの動きも納得出来る。慣れない神槍と神性の異能。例えその形を真似ただけだとしても人でしかない旦那に扱えるものではない。
分からないのは。
「旦那、どうして」
俺の疑問に旦那は泣き出しそうに表情を崩した。
「わし様が、おまえが会いに来た時に代理を立てたことがあったか?」
「──ありません。貴方はいつも私を、」
見てくれた。と傲慢な事は言えなかった。
俺に会いたくない旦那は、それでも俺と向き合うためにカルナの姿を借りたのだろう。
旦那はいつもそうだ。小心で強い者の影にすぐ隠れてしまう。
それでも、優しい人なのだ。
旦那の気持ちを今になって踏みにじった俺をずっとこの霧の中で迷わせておくことだって出来ただろう。
本物に近いカルナを作り上げて俺を打ち負かす事だって可能だった。
生前も不愉快な進言を繰り返した臣下など理由をつけて遠ざけてしまえばいいのに。もういい、と言った後もこの人は俺を重用し続けた。その命が尽きるまで。そして今も。
俺の腕を掴んだままの旦那が言う。
「おまえは自傷してまで何がしたかったのだ?」
「──宝具の威力を上げようと」
俺の宝具はHPが少ないほど火力が上がる。相性不利を乗り越えるにはそれが必要だと俺は判断したのだ。
それは旦那の顔に浮かんだ表情で後悔に変わった。
「愚か者が」
「────はい」
俺は愚かだ。
瀕死になってカルナを倒したとしても、こんな表情をする旦那の前に顔を出せるはずもない。
項垂れた俺の腕を旦那は離す。掴まれていた所に残っていた体温があっという間に失われていった。
霧の中で沈黙が重く横たわる。
旦那は俺から目を逸らせて何かを考えている。
口を開くべきは俺だ。
「──旦那、」
俺の唇を旦那の指が抑えた。至近で笑う紫水晶の瞳。
「アシュヴァッターマン。この事は他言無用だ。勝手に持ち出した聖杯で騒ぎを起こしたと知られてはマスターに怒られてしまうからな」
俺は旦那の手を退かした。
「──なにもかも無かったことにしようって言うのか、」
「そうだ」
「嫌だと言ったら?」
「今のわし様は聖杯を持っておるからな。──ちょっと記憶が無くなってもたいしたものではないだろう?」
目の前が真っ赤に染まる。
その怒りは俺の告白を無かったことにされる事ではなく、俺に知られた自分の想いをたいしたものではないと否定した旦那に向けられていた。
俺は手を伸ばす。
旦那の体を抱き寄せた。
「!!!」
驚いて離れようとする旦那を逆に引き寄せる。
筋力値では俺は旦那に叶わない。だというのに旦那は俺の腕の中に収まっている。
「──愛しています」
「今更、」
そう言われても仕方のない事をしていた。謝罪も懇願もするべきでない俺はただ旦那を抱きしめる。
旦那は何も言わない。ただ俺達を包んでいた霧がざわめいた。
──スヨーダナ様、
声がした。いくつもの同じ声が葉擦れのように重なっていく。
──スヨーダナ様
──我が王
俺の声が口々に旦那を呼ぶ。柔らかく、硬く、笑いながら、──嘆きながら。
──世界の王よ、どうして貴方がこんな目に
「ドゥリーヨダナ」
俺は旦那を呼ぶ。
あの頃の俺は旦那に恋愛感情こそ持っていなかったが、それでも旦那のことを愛していた。
それを旦那もよく知っている。
旦那がぽつりと呟いた。
「ここから動かなければよかった。いくらパーンダヴァの奴らが知った風な事をぬかしても、わし様はここから動くべきではなかったのだ」
湖に隠れていたドゥリーヨダナはパーンダヴァの挑発に耐えきれずその場所から出てしまった。そしてビーマとの一騎打ちに応じ──。
「そうすれば。貴方はあんな風に死ぬことはなかった」
俺の言葉に旦那は首を振った。
「違う、その先だ」
旦那の腕が俺の背中にまわされる。重みが掛かる。
ドゥリーヨダナは俺を強く抱きしめていた。まるで大事なものであるかのように。
旦那の死の先にあった出来事。夜襲の事は気にしていないと本人が言っていた。それが真実なら、残るのは。
俺の体は旦那に抱きしめられている。
この身は三千年の間、病苦の呪いに侵されていた。その事に関しては俺が犯した罪に対して妥当な罰だと思っている。足りないとさえ思う。
だけど、俺が自分で首を切り裂こうとしただけであんな顔をする旦那はそれを知って何を思っただろうか。
「あ──」
言葉が形になる前に消え失せる。何を言えばいい? 分からない。
旦那が息を吐く。
「──今更だ。おまえが何を言おうとも俺はおまえの気持ちを受け入れるつもりはない」
「ふざけんな!!」
旦那の体を引っ剥がす。
目を丸くした旦那を睨みつけた。
「らしくねぇこと言ってんじゃねぇぞ!ドゥリーヨダナ!! ──俺がやった事は俺のモノだ!!」
だから妙な責任を感じて自罰的になってんじゃねぇ!
怒鳴りつけると、旦那は目を瞬かせる。
俺はその額に自分のそれを打ち付けた。
いい音がした。
「──いいか旦那。俺はあんたが好きで、あんたは俺のことが好きだろう? それで充分じゃねぇか」
至近の紫水晶の瞳がゆっくりと色を取り戻す。
「充分
…
充分か? ──いいや、充分などではない。もっと寄越せ、アシュヴァッターマン!」
にやりと笑った旦那が顔の角度を変える。俺はそれに合わせて唇を触れ合わせた。
「俺があんたに応えなかったことなんかねぇだろ」
「ずっとわし様の気持ちに気づかなかったくせに」
「言ってくれれば俺も自分の気持ちに気づいたかもしれねぇな」
「立場的に言えるか、馬鹿」
唇を触れ合わせながら喋る。掠める唇がくすぐったくて二人して笑う。
ふと視線を巡らせれば霧が晴れていた。
生い茂った雑草の向こう、何もない夜明けの空が広がっている。
「カルデアに帰ろう、旦那」
「──そうだな」
俺の促しに同じ光景を見て、旦那は胸のあたりを光らせる。聖杯が浮かび上がった。
「愛しておるぞ、アシュヴァッターマン」
「俺も愛しているぜ、ドゥリーヨダナ」
恋人同士となった俺達は、今度はふたりでこの場所を後にした。
「──ところで、おまえの宝珠のせいで額がまだ痛いのだが」
「すまねぇ」
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