両親の事件から数週間後、久しぶりの登校となった高明を待ち伏せるかのように、通学路に敢助が立っていた。何となく、お節介な幼馴染ならそうするだろうと思っていた高明は、別に驚かなかった。
おはよう。ぎこちない挨拶のあとに、敢助は続ける。
「俺にできることがあったら、つっても大したことしてやれねーけど、なんでも言ってくれ。休みたい日は休んでいいぜ。ノート、特別にタダで見せてやるから」
敢助が視線を落とすので、高明は彼の姿をよく観察することができた。何かに耐えるようにぎゅっと眉間に皺を寄せた表情も、握りしめられた拳が震えているのも。
「いいえ。君の字は汚いので、自分でノートを取ります」
「……そうかよ」
「ですから、そのかわり」
敢助が視線だけで続きを乞う。
「そのかわり、これからも友達でいてください」
瞠目した彼の瞳から、気が抜けたのだろう、ポロリと一粒だけ涙が落ちた。きっとそれは、震える拳で必死に堪えてたものだった。
「当たり前だろ!」
その一粒を最後に、敢助が高明の前で涙を零すことはなかった。
たくさん、たくさんのことが変わってしまった高明の周りで、唯一。幼馴染の不器用な優しさがそこにはあって。どんなことがあっても変わらないものが、こんなに有り難いものなのだと、齢13にして高明は知った。
***
補足
あの事件、心優しい敢が傷つかない訳がないので、自室とか両親の前とかでは「どうしてあんなに優しかったおじさんとおばさんが死ななきゃいけなかったんだよ!」って泣いたと思うんですよ。
でも、高の前ではいつもと変わらない自分でいたかったから、必死に気持ちを押し殺して、耐えてたと思う。
それが、高の言葉に驚いた拍子にポロッと零れてしまって、でもその後は絶対に涙を見せない。そして、その優しさに高も気付いてるよって話。
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