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ミズト
2025-11-11 22:20:08
5618文字
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三次元版権二次創作
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Happy Birthday
当月中ならセーフだろ(アウトだよ)とブラクストン誕生日祝いに書き殴り/仲良し兄弟/本編程度のスキンシップ有
ひと月ほど前のことだった。
LAで八年ぶりに再会したあとも、兄貴は相変わらずの連絡無精で、もっぱら俺からメッセージを送るのが常だった。だから、そんな兄から久しぶりの着信が来た時、わずかに心拍数を上げつつも、どうせまた無茶苦茶な頼み事でもしてくるのだろうと、期待しそうになる自分を宥めながら電話に出た。
「今度は何だ。また明日までに国境越えろとか抜かしたら撃つからな」
「やぁブラクストン。そういった頼みは今はない」
「“今は”かよ。じゃ何だ」
用が無くても連絡して来い、と言ったくせに用件を求めてしまう。だってこの兄が本当にただの雑談で連絡することなんてまずあり得ない。ぬか喜びは後で惨めになる。
はたして、兄には“用件”があった。⸺が、それは俺の想像を遥かに超えるものだった。
「誕生日プレゼントのリクエストを聞かせてくれ。複数あると望ましい」
⸺今なんつった?
数秒、混乱の極みを経て、ようやく答える。
「え、誰の?」
「お前の誕生日だ。だからお前に訊いている」
In English please、と言いたくなって、とどまった。もしかして、本当に、兄貴が俺のために、誕生日プレゼントを考えてくれているのなら。そんな返事は、さすがにあんまり冷たいだろう。
「誕生日プレゼントの選び方について僕なりに調べて考えをまとめてみた。まず相手が欲しくないものを贈るリスクを避けるために、直接リクエストを訊くのが最も安全だ。しかし、何を贈られるかわからない不確定性もプレゼントの醍醐味だ。よってリスク回避と不確定性の両立を考えた結果、リクエストを複数上げてもらい、その中でどれが贈られるかはこちらの判断に委ねてもらう形を提案したい。ブラクストンの意見はどうだ?」
なんつーかそう難しくもないことをやたら回りくどく考えてんなぁ、と兄の説明を大人しく聞く。
「んー、いや、まぁそれはその通りなんだけどさ、欲しいものって言われても思いつかねぇんだよなぁ。あれば自分で買ってるし」
「
…………
」
隙のない完璧なはずの計画が前提から覆されて唖然としています、の雰囲気が電話の向こうから伝わってくる。
「そもそもなんで突然誕生日プレゼントとか言い出したんだよ? 今までそんなこと一度もなかったろ?」
「
……
お前が、連絡しろと言ったから。誕生日とか、クリスマスとか」
ベルリンでの電話の時だ。そういえばあの電話のあと、兄貴って俺の誕生日覚えてたんだなぁ、と少し意外に感じた。喜びも。ただ、兄は記憶力が良いから、単なる情報として頭に残ってるだけだろう、とその時は結論づけた。
「だから、まずは誕生日だと思って、誕生日について考えていたら、誕生日といえばプレゼントとケーキが必要だろう、ずっとそのことが頭から離れなくて、だからお前の誕生日を祝わないとこの計画を終わらせられない」
「あのさ、祝い事ってのはそんな追い詰められてするもんじゃねぇよ。気持ちが大事なの。俺は何もいらないし、ケーキも誕生日じゃなくたって食べたい時に食べる。祝おうとしてくれた気持ちだけで十分プレゼントになってるよ。そりゃ、もし本当に祝いに来てくれたら嬉しいけど、兄貴にだって都合があるだろ、無理すんなって」
「
……
。わかった」
本当にわかってんのか? まぁどっちでもいいや、結果は変わらない。兄貴は何が欲しいと訊いて、俺は何もいらないと答えた。以上、終了。そんなことよりも。
久しぶりに兄貴の声聞けたなぁと、そっちのほうが俺には重大で足元がふわふわしていた。
それがひと月ほど前のこと。この歳になると自分の誕生日なんかいちいち思い出さないから、今日なんてただの十一月十一日としか認識していなかったし、あの電話のこともすっかりそれで終わったものと片付けて油断していたのだ。
仕事を終えて一時的な住まいに帰る。駐車場を横切り、ポケットから鍵を取り出してドアを開けようとしたその時だった。
「やぁブラクストン」
「っわぁ!?」
数cmくらい地面から浮いた気がする。心臓をバクバクいわせながら反射的に背後を振り向けば、夜闇の中に浮かび上がる巨体の影。こんなに接近されるまで気付きもしなかった。若干の悔しさとか恥ずかしさに苛立ちつつ兄貴に問う。
「なんでここにいるんだよ!?」
「お前の誕生日を祝うためだ」
「は
……
」
「驚いたか」
「驚く通り越して心臓停まりそうになったっつうの!」
「それはよかった」
「何がいいんだよ!?」
「祝いに来てくれたら嬉しいと言っていただろう。だから来た。サプライズ要素を考慮して、いつどこで会うかは知らせずに来た」
サプライズじゃなくドッキリっうんだこういうのは。説明すると兄貴が理解できるまで数時間かかりそうだからやめとくが。
「
……
ああそう
……
。なら大成功だよ兄貴。どうもありがとう」
兄貴の表情が曇る。俺がそんなに喜んでいないように見えたためだろう。まったく、あんなビビらせ方さえしてこなければもっと素直に嬉しい態度が出せたのに。心拍を落ち着かせるため深く呼吸する。
「で? これからの予定は?」
「
……
?」
「俺の誕生日を祝うためにわざわざここまで来て、それで? 他に何か計画してんの?」
「
……
」
あ、してねぇなこの顔は。
「
……
お前に会うことだけ考えていて他のことは考えていなかった。目的は果たしたから特に何もなければ帰ろうと思う」
「ヘーイヘイヘイ、会いに来て本当に会うだけで終わらす奴がいるかよ、俺はこれから飯食おうと思ってたんだけど、兄貴も一緒に食う?」
「ああ」
「どっか行きたいところあるか?」
「お前に任せる」
「考えるの面倒だしファミレスでもいいか? 近いんだ、歩いて行ける」
「ああ」
夜道を二人並んでとことこ歩く。十一月の夜の空気はひんやりと澄んで、兄貴が隣にいる事実に舞い上がって火照る俺の頬を、心地良く撫でた。
兄貴は何も注文せず、俺が頼んだフライの盛り合わせや卵と肉料理のセットから何口かつまんで、あとは水を飲んでいた。そういえば兄貴はケーキがどうのと言っていたなと、パンケーキも注文した。別にそれだけが理由ではなく単に自分が食べたいのもあったが。パンケーキでもケーキはケーキだと言うと、あまり釈然としていなさそうな顔で頷いていた。兄貴の中には“誕生日ケーキ”のテンプレートなイメージがあるのだろう。食べさせたいなら兄貴が買ってきてくれ。それ以前に、スポンジとクリームが重なったカラフルな誕生日ケーキはそれを喜ぶような子供のためのものであって、独り身の中年男のために用意するようなものでは基本的にないということを知ってほしい。
「兄貴も食う?」
二枚重ねのパンケーキは、上にフルーツとホイップクリームとチョコソースが景気よくかかっていて、まぁ兄貴の好みではないだろうが、下の段のパンケーキはほとんど素のままだ。兄貴が頷いたので、取り皿を貰って、下の段のパンケーキを引きずり出して移す。
皿を兄貴に渡すと、円いパンケーキをほぼ完璧に三等分の扇形に切り分けたので、俺は感嘆の声を上げた。
「上手いもんだな、四等分とか八等分ならわかるけど、測りもしないでどうやってそんなきっちり三等分できるんだ?」
「複雑なことではない。要するに中心角を百二十度ずつ分割すれば、
……
まぁ、つまり、複雑なことではない」
「なんだよ、最後まで聞かせろよ」
「長くなるから」
「長くなってもいいよ、兄貴、こういう面白いネタは遠慮せずに話せばいいんだぜ」
「面白いかどうかの判断が僕には難しい」
「相手の反応見ながら判断すればいいんだよ、
……
それが難しいのか。まぁいいや。で? 続きは?」
「あぁ、
……
実際に切りながら説明しようか」
「おう、見せて」
自分の皿を渡して、迷いのない兄貴のナイフさばきを眺める。兄貴にとってはなんでもないことだろうが、俺がすごいすごいと褒め称えると満更でもない様子だった。兄貴が切り分けてくれたパンケーキは、綺麗な扇形でクリームが乗っていてフルーツが色とりどりで、なんだ、十分完璧な誕生日ケーキじゃないかと思った。どんなに絵に描いたような、でかくてゴージャスな誕生日ケーキより、これが俺にふさわしいものだという気がした。それに嬉しそうにかぶりつく俺をちらちら覗いながら、兄貴も自分のをもくもく咀嚼していた。少しだけやわらかく緩んでいる兄貴の目元を見ると、一滴もアルコールを飲んでいないのに、体がぽかぽかしてくる。なんだか胃袋以外のところがいっぱいに詰まったような感覚がして、ちょっと呼吸が苦しくなった。
帰り道も俺は兄貴に何やかやと話しかけ、兄貴は静かに頷き返し、ずっとこんな時間が続けばいいと思ったが大した距離じゃない、そのうち家に着いた。楽しい時間にも終わりが来る。当たり前のことだ。それにしたって短すぎると思う。
「兄貴はもう帰るのか?」
言ったあと恥ずかしくなった。まるで淋しいみたいじゃないか。いや、淋しくはあるんだけど、小さい子供じゃあるまいし。駄々こねて引き止めるような真似がしたいわけじゃない。聞いてみただけ。可能性を確認してみただけだ。
「僕の目的は終わらせたから」
「うん」
「
……
あとはお前次第だ」
たまらず項垂れる。いつもそういうのずるくねぇ? 責任を俺に押し付けている。もう慣れたけど。諦めたと言うべきか。
「じゃ俺がもう少し一緒に居たいって言ったらそうしてくれんの?」
「ああ」
ほらそうやって自分の言いたいことを俺に言わせるんだ。でも「まさに望んだ展開になった」とはにかむ兄貴の表情だけで、全部「まぁいいか」と流してしまう俺にも問題があるかもしれない。
「ならもう夜だし泊まって
……
いってほしいけどうちのベッド、二人で寝るにはさすがに狭いかもな、ソファも兄貴が横になるには厳しいか
……
」
「
……
お前がエアストリームに泊まるのは?」
「えっ。エアストリームで来てたのか?」
「少し離れた駐車場に停めてある」
「泊まっていいの?」
「構わない」
「じゃあ荷物取ってくる、着替えとか」
言うが早いか家に向かって踵を返す俺の背に兄貴が言う。
「そんなに慌てなくても逃げたりしない」
「
……
どうだか」
これくらいの嫌味はご愛嬌ということで。俺はさっさと少ない私物をまとめて、また兄貴と並び歩いてエアストリームに戻った。交代でシャワーを浴びて、俺は髪を拭くのもそこそこにベッドルームに向かう。せっかく一緒に居られる時間を無駄にしたくなかった。さすがにはしゃいでることを自覚せずにはいられない。まんま誕生日のガキだ。
「もう寝る?」
「寝る時間、
……
ではある」
あの兄貴が譲歩しようとしてくれている。俺のために。もうそれだけで聖人にでもなれるような気分で、兄貴のちょっとしたずるさもどうだってよくなる。
「じゃもう少し話そうぜ。水もらっていい?」
「ああ」
冷蔵庫に水を取りに行くと兄貴もなぜか後ろをついてきた。かと思えばいつのまにか手にしていたタオルを俺に被せてきて、まだ濡れたままの髪を拭き始める。ドライヤーを置いていないのだろう、兄貴は短髪で必要ないから。
狭いキッチンにでかい男二人で立ってると窮屈で仕方ないけど、俺はされるがまま、洗われてる犬にでもなった気分で水を飲んでいた。わりに上手い手つきだ。乱暴にゴシゴシ拭くわけでもなく、遠慮しすぎる弱さでもなく、丁度良い力加減で頭が揺すられる。⸺まずい、眠くなってきた。嘘だろう、まだ日付も変わってない。今夜は夜更かししたかったのに。いや、兄貴に無理させたくないから、今眠いくらいで好都合なのか
……
。俺の頭をすっぽり包み込む、大きな手の温かさも、やたら瞼を重くさせる。
兄貴が納得できる程度に髪が乾いて、俺の頭は解放された。ベッドルームに戻る兄貴の後ろを今度は俺がついていく。
二人並んでベッドに潜って照明を落とす。しばらく無言の時間が過ぎる。世界中で俺達二人だけになったみたいに静かだ。
「あー、今なら死んでもいいかも」
「
……
? 死にたい
……
」
「って意味じゃないぜ。今死んでも悔いがないと思えるくらい幸せってこと」
「
……
喩えが不穏だ」
「んーじゃあ、夢かな。夢かも。実は俺は超都合の良い夢を見てて、はっと目が覚めたら家の天井が見えて、自分のベッドに寝てたってオチ」
「
……
夢のように幸せ、という意味?」
「正解」
「わざわざ喩えなくても、幸せって言うだけでは足りないのか」
兄貴の素朴な疑問に、俺は、その考え方はシンプルで美しいなと思った。いわゆる“普通”の人間たちが飾り、操る言葉より、ある意味ではずっと真っ直ぐ人の心に届くだろうと思った。「美しい」なんて単語、口にしたら全身痒くなりそうで言わないけれど。
二人、言葉が途切れれば静寂が降りてくる。もう寝たかな、と思うとまたぽつりとどちらからともなく、独り言と呼びかけのあいだのような言葉を零す。しかしいよいよ、俺も兄貴も眠たそうに声がかすれてくる。
あと数分で日付が変わる、そんな時。
「そうだ、言い忘れていた」
天井を向いていた兄貴の視線が、隣の俺を捉える。俺も隣の兄貴を見て、視線が繋がる。
「誕生日おめでとう、ブラクストン」
兄貴は自分の感情を表に出すのが得意ではない。感情が無いわけじゃない。表現が不器用なだけなのだ。でもさ、今のそれは、気分が良いって顔だろう? 俺と飯食って、枕並べて、他愛もない話をしてるのが、悪くないって顔だろう?
不器用だって構わない。言葉選びはもう少し、上手くなってほしいけど。苦しみでも喜びでも、隣にいれば。
「ありがと、兄貴」
わかるのさ。弟だからな。
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