匣舟
2025-11-11 13:45:47
2123文字
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甘い甘いくちびる

とあるだいすきな方へ送るショートショートの庄乱です。
ポッキーゲームをするふたりのはなしです。


 乱太郎は放課後、部活も委員会もなかったので帰ろうとしたところに庄左ヱ門がにこりと笑って現れて、何も知らないまま人気の少ない旧校舎の空き教室に連れていかれた。あれ、庄ちゃんとなんか約束してたっけ。と連れ去られながら考えていると、空き教室に入った途端、ぎゅっと抱き寄せられてそのまま一緒に座らされる。
 ここ、学校だよ?とソワソワしながら言う乱太郎に、知ってるよ。と返した庄左ヱ門は、乱太郎にはあの日の約束を果たしてもらおうと思って。とにこりと笑う。未だにどんな約束か分からない乱太郎に、庄左ヱ門はほら。と机の上にある物を置いた。
「乱太郎、こっちむいて?」
ぅ、」
 庄左ヱ門の方に向きたがらない乱太郎を彼はクスリと笑って、これじゃ約束と違うよ?とそっぽを向く彼の耳元で囁いた。乱太郎が口にくわえているのはポッキーで、どうやら二人でポッキーゲームをするみたいだ。
 どうして二人がポッキーゲームをする羽目になったのかと言うと、庄左ヱ門と二人でテスト勉強をしていた時に科学の点数ならきっと庄ちゃんに勝てると思う!と自信満々に言ってしまって、そんなに自信満々ならテストの点数が低い方が高い方のお願いを聞こうか。とにこりと庄左ヱ門が言って、それに乱太郎が乗ったのが運の尽きだった。
 結果はご覧の通り乱太郎が僅差で庄左ヱ門に負け、逃げないようにと正面で抱き抱えられている最中である。というか、結局どんなにいい点数を取ったところで庄左ヱ門に勝てるはずがない。彼のテストの点数は百点満点で、乱太郎が満点を取らない限り勝ち目など無に等しかったのだから。
 そして、負けてしまった乱太郎が庄左ヱ門のお願いを聞くことになり、それが今しようとしているポッキーゲームという訳だ。
 今回は自分の得意な分野だからと調子に乗ったのがいけなかったのかな、そもそも庄左ヱ門に挑むことすら無謀だったのかもしれない。口にポッキーを咥えながらそっぽを向いて、ああ、本当にこんなことなら挑まなきゃ良かった。と乱太郎が現実逃避をしているとそっぽを向いていた自分の頭が庄左ヱ門の方へと引き戻される。
「乱太郎、こっち向いて。」
 庄左ヱ門がポッキーをくわえている乱太郎の頬に手を添えると、彼はまたビクリと肩を揺らした。これではまるでポッキーゲームをしていない時の方が恋人らしい触れ合いをしているようなものだ。彼はまだ恥ずかしいのか目線を合わせずに視線を横に向けて、それを見た庄左ヱ門は思わずため息をついた。
「ねぇ、乱太郎。」

「僕とポッキーゲームするんじゃないの?」
んむ」
 目の前にいる恋人が寂しそうな目線をこちらに向けてくる。ああ、そんな顔をさせたい訳じゃなかったのに。と庄左ヱ門の目線にたじろいで彼と目線を合わせてしまった瞬間、乱太郎が咥えていたポッキーを庄左ヱ門も咥えてパキッ、パキッ、とわざとらしく音を鳴らしながら食べ始めた。
 乱太郎は急にポッキーゲームが始まったことにビックリして体勢を崩してしまうものの、庄左ヱ門が自分のことを支えていた腕により引き寄せられて逃げられなくなってしまう。
 彼がポッキーを食べる音がするたびに、目の前の庄左ヱ門がだんだんと自分の方に近づいてくるのが目に映り、自分の鼻先にも彼の吐息がかかった。
 だんだんと近くなる彼の瞳や、呼吸でさえも今の乱太郎には全て刺激的で思わず自分の目尻に涙が溜まるのがわかった。ああ、あと少しで唇同士が触れてしまう。目の前の彼とキスなんて何回もしてるのに、こんな状況になるだけで初めてのように緊張してしまう自分が恥ずかしい。
(キス、されちゃう!)
 これ以上近づかれたらポッキーごと食べられてしまいそうで怖くて、無意識に気がつけば咥えていたポッキーを離してしまっていた。その隙に乱太郎が咥えていたポッキーを食べ終えた庄左ヱ門が、目の前の恋人を愛おしそうに見つめる。
乱太郎、逃げちゃダメだよ?」
「んぅっ、」
 乱太郎が名前を呼ぶ前に彼の唇が庄左ヱ門の唇で塞がれて、深くて長くて甘いキスが送られる。いつものキスとは違って、庄左ヱ門の唾液や舌に染み渡るポッキーの味に乱太郎はクラクラしてしまいそうだった。
 濃厚なキスにだんだんと力が抜けていくかわいい恋人を膝に乗せていた片方の腕で支えて、もう片方の手で乱太郎の後頭部を抑えて庄左ヱ門は深く深く口付けを交わしていく。
 しばらく堪能し終わったのか、ようやくふたりの唇が離れた時には乱太郎は肩で息をしていて顔を真っ赤にして目の焦点が合っていなかった。それほどまでに視界も脳内もとろとろに溶けきってしまった恋人が可愛くて仕方ないらしく、庄左ヱ門は満足気に笑って、乱太郎を見つめる。
乱太郎。」
ぅん?」
「まだポッキーはあるよ、ポッキーゲームするでしょ?」
 だってそれが僕との約束、だもんね?といじらしく笑った彼を、焦点が合わないとろける瞳で捉える乱太郎。その光景を見て満足したのか、再び乱太郎の口へと庄左ヱ門はポッキーを咥えさせて彼を捕食するかのように音を立てながら距離を縮めてゆき、彼の唇を貪っていくのであった。