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まきわ
2025-11-10 21:03:39
4149文字
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クロリン
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炎の約束
学院時代クロリンで、ひょんなトラブルから野宿することになった話です
先輩はひどいな!(?
炎の中でパチパチと薪が爆ぜる音がしている。
焚き火の炎はその周囲だけを照らしているからリィン達の背後は闇に沈んでいて、炎の明かりがある分余計に暗く感じる。
その闇の向こうからは秋虫の声が静かに聞こえていた。
「まったくもう
…
」
焚き火を囲んで膝を抱えて座りながらリィンはため息をついた。
既に何度か聞いたそのため息に、同じ焚き火を囲んで斜め向かい辺りに座るクロウは視線だけリィンに向けて小さく笑った。
「ま、朝にはサラ達が探しに来てくれるっていうし大丈夫だろ」
軽く言うクロウをリィンは横目で睨んだ。
「大丈夫か大丈夫じゃないかの問題じゃない。
…
まぁノった俺も悪いんだけど」
そもそもの発端は街道へ出て行こうとしているクロウを見かけたことだった。
どうも東口方面の街道脇にちょっと大きめの魔獣が出ると学院で噂になっているらしく、クロウはそれを討伐しにいこうとしていたのだ。
「大丈夫なのかそれ
…
?サラ教官とかに任せた方がいいんじゃ」
心配げに眉を下げたリィンに、クロウは何故かどや顔を返した。
「帝国じゃ遊撃士が活動を制限されてんだろ?サラだって暇じゃねーだろうし、オレ様の武勇伝に加えてやろーと思ってな」
「あのな
…
」
「なんならお前も行くか?ストレス発散
…
お前の場合鍛錬か、にはなると思うぜ」
その誘いにリィンの心は揺らいだ。
学生の身で勝手な行動は慎むべきではあるが、クロウと二人でなら旧校舎地下であの鋼鉄のゴーレムを撃退できた実績もある。
何より武勇伝に興味はないものの、クロウと二人で魔獣討伐というのはちょっとした冒険のようで心惹かれる。
「な、いこーぜ」
その一押しに負けて、リィンは頷いてしまった。
魔獣自体は大したことがなく、二人で上手く追い詰めることができたもののなにぶん動きがすばしっこかった。
傷を負ってパニックになったのか滅多やたらに逃げ回り、それを追いかけ回した結果トリスタからかなり離れてしまった。
その上街道灯のある街道を魔獣が避けた為街道からも離されて、魔獣を討伐できた時には二人はどこともしれぬ森の中にいた。
トリスタを出たのがすでに夕暮れ近かった為、その時にはもう辺りは暗くなり始めていた。
下手に動くと更に迷うから、とクロウに言われてかろうじて繋がっていた導力波を頼りにサラに連絡を取った。
折悪くサラも用事で夕方からトリスタを離れているという。
翌朝早くに探しにいくからそこで大人しくしていなさいと軽くお説教を食らってから二人は野宿の準備を始めた、というわけだった。
クロウはそもそもサバイバル術が得意で、リィンも父と山に狩りにいくことがあったから野営の支度は慣れたものだった。
手早く薪を集めて火を起こし、近くの川で魚を取って、小さい獣を狩って食事の準備をした。
飲み物についてはどちらもたまたま携帯していたので一晩程度ならなんとかなりそうだった。
「しかしお前があんなに手際よく獣を捌けるとはなー」
「まぁ父さんに付き合って狩りもするからな。猪くらいまでなら捌けるぞ。クロウは釣りも魚の処理も上手だったな」
「ま、オレはなんでもできちまうからなー」
調子よくそう言うクロウだが、実際同じクラスになって良く見ていると本当になんでもできるものだと感心する。
銃の扱いや人との対し方が得意なのは当初の印象通りだが、料理もこなすし裁縫も、なんなら楽器類も相応にこなす。
トワに聞くところによると座学の成績も一年の序盤はかなり良い方だったらしい。
途中で追い付けなくなって挫折した
…
というタイプには見えないから恐らくサボり癖が出ているだけだろう。
苦笑して火の傍で油を零し始めた肉と魚を見つめる。
「
…
この季節でよかったな。もう少し前なら暑かったし、真冬もさすがになんの準備もない状態じゃきついだろうし」
「だなー。なんならちょっと風情があるもんな」
確かに、秋虫の声を聞きながら二人静かに焚火を見つめるというのは悪くない。
火に炙られた魚と肉がいい匂いをさせ始めているのも良い感じだ。
「まぁ
…
確かに。たまには悪くないか」
呟いて膝に顎を乗せて火明かりを見つめる。
リィンはこのくらいの季節よりもユミルの人々がお互い支えあうことで人の温かさを感じる真冬が好きだ。
だが今はその真冬が来る分クロウの卒業近付くということに一抹の寂しさと切なさを覚えていた。
本当に同級生だったらよかったのに、とこのところ何度も思う。
今当たり前のようにいつも傍にいるクロウを一切学内で見かけなくなるということが今はまだ想像できなかった。
想像してみようとして、寒いわけでもないのにリィンは思わず体を震わせた。
「
…
どした?寒いならこっち来るか?」
クロウはこういう変化を見逃さない。
声を掛けられてリィンは顔を上げた。
「
…
いいのか?」
「ブランケットとかねーしなぁ。くっついて火に当たってりゃ多少はあったかいだろ」
北の山地育ちのリィンにとって寒いという気候ではなかったけれど、クロウの提案に乗ることにして立ち上がる。
火を囲むように刺してある串に触れないようそっと移動してクロウの隣に腰を下ろし、そのまま体を押し付けるようにして寄り掛かった。
「ったく、甘ったれめ」
言いながらクロウの大きな手がリィンの頭を撫でた。
目を閉じてそれに浸りながら、リィンは不思議に感じていた。
多分他の人相手だったらこんな風に当たり前のようにくっついたりは自分にはできないだろう。
クロウにはそれを許してもらえるとリィンが感じるような雰囲気がある。
だからこそ子供のように甘ったれでいられるのだ。
「
…
こういうの、結構悪くないな」
「んー?」
クロウが手元の小枝を焚き火に投げ込みながら答える。
リィンは少しだけ顔を上向けてクロウの横顔を見た。
「今回は遭難しただけだけどさ。いつかちゃんと準備して、防寒具か寝具も持ってキャンプとかしてみたいな、クロウと」
「あー」
クロウは一瞬遠い目をした。
火明かりの加減なのか、その横顔はどこか悲しげに見えた。
「いいかもな。ちょっと良いコーヒーとかも持ってな。お前となら食いもんは現地調達できそうだし、どっかの山とかで」
けれどこちらを見たクロウの顔にはいつもの笑みが浮かんでいる。
リィンは想像してみた。
香ばしいコーヒーの香り、二人で狩った獲物を焼いて焚き火を囲んで尽きることなく星空の下語り明かす。
少しだけ大人の遊びのような気がしてわくわくした。
「まーぜってー泊まりになるからなぁ。卒業してからだなやるとしたら」
「
…
うん。そうだな」
リィンも卒業してからと考えると二年後だろうか。
それでも、クロウが卒業してしまった後にもそんな楽しみが待っているなら悪くない気がした。
約束だ、と言おうとした時クロウが手を伸ばして肉の串を取った。
「お、焼けてそうだな。ほれ食え」
「
…
うん、ありがとう」
まぁそれは後でもいいかと串を受け取る。
火傷しないよう、そっと口をつけると塩味の効いた肉の旨みが口の中に広がった。
「ん
…
クロウの持ってた塩、美味しいな」
「だろー。便利なんでいつも持ち歩いてんだよな。こういう時さらっと使えばポイントアップになるしな」
格好つけてウィンクしてくるが、今回に関してはポイントアップの対象は女子ではなくリィンだ。
呆れ混じりのジト目を向けつつ二口目を頬張る。
「岩塩、だっけ。肉に合うな」
「今回はまぁそこらの獣だが良い肉に使うとこれだけでいくらでも食えるぜ。ま、シャロンさんの料理食ってりゃそんな必要ねぇけどなぁ」
「いやでも男の料理って感じでちょっとかっこいいかな。
…
俺も買ってみようかな。トリスタで買えるか?」
クロウの方は魚の串を頬張りつつ、にやりと笑って横目でリィンを見た。
「気に入ったんなら予備で持ってるやつ一つやるよ」
「いいのか?ならありがたくいただこうかな」
他愛ない会話を重ねる内に焚き火を囲むほどあった肉や魚はあっという間に二人の腹に消えた。
可食部以外は地面に埋めて一息つくと、魔獣を追い回したのもあってじんわりと疲れが全身を包んできた。
本当ならシャワーを浴びたいところだが、さすがに川で水浴びをすると風邪を引きそうな季節だ。
「さすがに揃って寝るとあぶねぇだろうし交代で寝ようぜ」
その様子を察したらしいクロウの提案にリィンは頷いて返した。
「そうだな。クロウ先にいいぞ」
「いやお前朝早いの得意だろ。オレは夜型だからな、お前先に寝ろよ」
「
…
それで授業中寝てたらだめなんだからな」
ジト目で睨んでやるとクロウは口笛を吹く素振りで誤魔化す。
呆れのため息をついてからリィンはジャケットを脱いだ。
「ならお言葉に甘えて先に寝させてもらう。適当に起こしてくれ」
「へいよ。なんなら膝枕してやろうか」
にやにや笑って自分を膝を叩いてみせるクロウに、ジャケットを上半身に掛けて横になろうとしていたリィンは目を瞬かせた。
「
…
本当に乗るぞそういうこと言うと」
「別にいいぜ。寝具の類は一切ねぇし。丸太を枕にってのもな。男の膝でも多少はマシだろ」
リィンは少し考えこんだ。
さすがにやや気恥ずかしいが、膝枕されていればクロウが動けば起きる。
何かあっても一人で対処させることにはならずに済むだろう
……
加えて黙ってどこかへ行かせてしまうことも。
(
…
ってどこに行くっていうんだこの状況で)
リィンは頭を振ってから微笑んだ。
「ならありがたくお借りしようかな」
言って横になってクロウのふとももに頭を乗せる。
じんわりと温かくて、なんだか安心した。
だからか、急激に眠気が頭の中に満ちてきた。
なんだかすぐ寝入ってしまうのがもったいない気がしながらも重たくなった瞼を閉じて眠りの中に意識を沈ませていく。
「
……
くろう
…
」
「ん?」
「やくそく
……
」
うわごとのように呟いた一言のあと一瞬の沈黙、そしてクロウの大きな手がリィンの頭を撫でた。
「
……
おやすみ」
低い声を聞いたのを最後にリィンは眠りに落ちていった。
このしたかしていないか微妙な約束が追及され、果たされるのは実に三年後のことになる。
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