望月 鏡翠
2025-11-09 23:01:19
880文字
Public 日課
 

#1895 羊飼いの国

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 踏みしめられて硬くなり、草の生えなくなった素朴な道が、徐々に山の中に消えていく。道が消えて霧が晴れたら、もうそこは新しい世界だ。
 薄明るいが、霧が深くて景色は遠くまで見通せない。侘助の知る理のままの世界であれば、朝方だろうか。
 木が疎に生えている。人の手入れが入った森に見える。下草も邪魔になるほどは茂っていない。雨が降った様子はなく地面は乾いているが、霧のせいで草は濡れていた。
 角の間で眠っている雛を手で押さえながら、地面に腰を下ろす。
 雛が冷えないように頭に外套を頭に被せ、侘助も少し眠ることにした。動き回るのは視界が確保できてから。それが旅人の鉄則だ。
 もしかしたら次の瞬間には、地面がなくなっているかもしれない。ここが空の浮島の上で、今は雲の中である可能性だってあるのだ。
 目を閉じる。
 どのくらいそうしていただろうか。日差しの温もりを感じて目を覚ます。
 霧が晴れていた。
 緩やかな丘陵地が目の前に広がっていた。遠くに白い毛玉がチラチラと動いている。羊だろうか。
 頭上の雛を起こす。外套を外して頭を下げると、頭上から滑り落ちてきた。鱗が滑らかだから、しがみついていないと全く安定しないのだ。
 頭から膝の上に落ち、不服そうに唸ってからモゴモゴと動き回って顔を上げた。
「ここが新しい国だ」
 今は理解できずとも、たくさんの言葉を投げかけてやろう。
「まずは人を探す。できれば仕事も。威嚇せずに大人しくしていてくれ」
 この世界の人間に、雛がどう見えるのかはわからないが、酒場にいたときくらいの距離感で人と接してくれれば問題ない。
 羊がいるということは、人がいるはずだ。ある程度穏やかな営みが期待できる。毛織物があれば、雛に防寒用の服か、鞄でも見繕ってやりたい。
 侘助は羊がいる方に向かって歩き出した。少し進むと森を抜けて、牧草地に沿って柵が立っていた。
 柵で区切られている場所の中にはあえて入らぬ方がいい。柵沿いに歩いていくと、道に出た。
 旅人の道よりも幅の広い轍の残る道だ。
 侘助はそこに沿って歩いて行った。