匣舟
2025-11-09 22:10:18
4305文字
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あのふたりはいつも甘いにおいがする

秋リクエストで頂いた秋限定スイーツを食べに行く三乱を書かせて頂きました〜!リクエストありがとうございました〜🫶

 三治郎からここ、検索のリール動画を眺めてたら見つけたんだけど、ここの秋限定のスイーツどれも美味しそうじゃない?とスマートフォンの画面を向けられたのは、大学の講義が終わった後だった。彼の画面に映る秋限定のスイーツはどれも美味しそうで、緩む頬を抑えられずにスイーツが画面に出ると乱太郎の瞳はそれに釘付けになっていた。
 乱太郎は俗に言うスイーツ男子で辛いものよりしょっぱいものより、甘いものがだいすきであった。最近は甘いものが好きな男性というのも世間的に受け入れられてきて、スイーツ好きにはたまらないスイパラやケーキバイキングにも一人で行くような男性が増えてきたが、乱太郎にはまだ女性が大勢いる中で一人でスイーツを食べて楽しむといった勇気はなく、いつも予定が空いてそうな友人をついてきてくれたら奢るからという項目で誘ってはスイーツを味わっていた。
 大抵、この条件で釣れるのは奢ってあげるという単語に釣られるきり丸と、乱太郎が誘うと絶対にいいよ。と言ってくれる三治郎が着いてきてくれて、大体いつもここに行きたい!と言ってメッセージにここに行きたいんだけど。と誘うのだが、今回は珍しく三治郎からお誘いが来たので、瞳を輝かせながら三治郎の手を取って喜んで!と言ったのも記憶に新しい。
 三治郎が見つけたカフェは二人が通っている大学の最寄り駅から五駅先にあるらしく、移動も含めると三十分程度の距離だった。乱太郎と三治郎は運よく被っている講義が多く、時間割もほぼ一緒なのでそれなら水曜日の二コマ受けた後に大学から一緒に行こうか。ということになり、今、電車移動を終えて目的地であるカフェに向けて歩いている最中であった。
「ねえ、土井教授のレポート提出の量、見た?」
「見た。あれを一週間でやれって大分鬼畜じゃない?」
「終わる気がしないよ。」
「誰でもそうじゃない?」
 先ほどまで受けていた講義の話題や、次の授業で課された宿題などの話をしながら目的の場所へ向かう。本格的な冬が始まる前の季節特有のひんやりとした風が二人の頬を撫でて最近急に寒くなったよね。と言いながら肩を寄せて歩いていると、地図アプリの口コミの写真で見た外見がだんだんと近づいてくる。
「あ、そこじゃない?」
「本当だ!あそこの店だね。なんか落ち着いた感じのお店で可愛いね〜!」
「乱太郎はかわいいお店よりこういう落ち着いてる方が安心するよねぇ。よぉーしっ!なら行こうか!」
「あっ待ってよお、三治郎〜!」
 乱太郎は小走りでお店に向かう三治郎の後ろ姿を慌てて追いかけた。カフェ自体はテラス席ではなく店内で先に注文してから空いてる席について食べる形式のようで、三治郎が扉を開けてくれてチリンチリンと軽やかな音が鳴った。
 ランチタイムを少し過ぎた位の時刻であるからだろうかどうやら人が少ない時間帯らしく、店内には二人しかお客さんがいないようだった。三治郎に続いて店内に入ると、スイーツの甘い香りと珈琲のほろ苦い香りが二人の鼻を掠めた。
 レジ横にあるメニュー表を手に取ってどれを食べようか吟味する二人であったが、どれも本当においしそうでなかなか決めきれずにいた。
「この和栗のモンブランとマロンタルトもおいしそうだし、シャインマスカットタルトもおいしそうだよ。」
「うわあ、乱太郎、これ見て。いちじくアップルパイとかもあるよ?」
「いや、もう全部美味しいと思う……。」
「同感。どれが良いんだろう……。」
 ずっと二人で悩んでいるのを見かねた店員が微笑みながら、どれも食べたいのであればシェアして食べてみてはいかがですか?という助言をもらったおかげで決心がついた二人は三治郎が和栗のモンブランといちじくのアップルパイ、乱太郎がシャインマスカットのタルトとマロンタルトを頼み、飲み物は乱太郎がホットの紅茶、三治郎がホットのコーヒーにしていつも乱太郎に奢ってもらうから今回は僕が奢るよ。と三治郎が財布を出してくれたので、乱太郎はそれに甘えることにした。
 空いている席にどうぞ。と言われた二人は店員にありがとうございます。とお礼の言葉を言って、店の奥側にある窓側の席に座った。店内は白を基調としており、観葉植物のグリーンがバランス良く配置されていて緑のある空間が、二人を穏やかな気持ちにさせてくれた。乱太郎と三治郎はカフェの中に飾られている絵画や陶器、店内BGMのジャズ調の曲などを取り上げてあれいいね。とか、この絵かっこいいなあ。など話してしばらくすると先程頼んだスイーツ達が店員によってテーブルの上に置かれたので、二人は目をキラキラさせながら店員に頭を下げた。
「わぁあ……!見て三治郎!すごい綺麗なタルト……!」
「モンブランもすごく美味しそうだよ、乱太郎!」
「ほんとだ、本当に美味しそう!それじゃあ三治郎、食べよ!」
「もちろん!いただきます!」
「いただきまーす!」
 フォークを握りしめた乱太郎はまず目の前に置いてあるシャインマスカットのタルトから食べようとタルト生地をザクザクと切っていき、一口サイズになったところでフォークに乗せて口に入れた。タルトのサクサク感とカスタードクリームの滑らかさに加え、シャインマスカットのジューシーな甘味が相まってとてもおいしかった。
 隣にいる三治郎の様子を盗み見ると、和栗のモンブランに舌鼓を打っており、目元が若干蕩けていた。目の前の三治郎が本当に美味しそうに食べるものだから乱太郎は自分も同じ顔をしているくせに自分のことを棚に上げて思わず笑ってしまった。
「ふふ、三治郎。美味しい?」
「んぅ、乱太郎、めちゃくちゃ美味しいよこれ。すごい美味しい。はい、あげる。」
「いいの〜?ありがとう。」
 三治郎の手によってフォークに刺され、手ずから差し出された和栗のモンブランを口に入れると、和栗の優しい甘さとモンブランの濃厚な甘さが広がる。
 今まで食べたことのある洋菓子屋のモンブランよりも断然おいしく、栗本来の甘さが口いっぱいに広がる。思わずうっとりしていると三治郎が、乱太郎って本当においしそうに食べるよね。とこちらを見ながらそう呟いた。その声色はどこか幸せそうで、本当に楽しそうだった。
「乱太郎がめちゃくちゃおいしい!って顔で食べるからさ、僕もここ勧めてよかったなあって。」
「ふふ、だって本当においしいんだもん。三治郎、今日ここに連れてきてくれて本当にありがとう。本当に嬉しいし、とってもおいしいよ。」
「うん。それが聞けて良かった。」
 にひひと歯を見せて笑う三治郎につられて乱太郎もへにゃりと表情を崩すと、再び目の前のタルトに視線を戻した。タルトは乱太郎の大好物の中に入るくらいだいすきで、あのザクザクとした食感を味わう為に先程食べたシャインマスカットのタルトと違って大きく切り分けたマロンタルトを大きな口を開けて一口で頬張る。
 ゆっくり咀嚼しながら噛むと口の中で柔らかいカスタードクリームの甘さとマロンペーストの芳醇な香りが口の中に広がっていく。舌で感じるマロンペーストの程よい甘さが絶妙で、それに加えてタルト生地のザクザク食感が楽しくて、自然と頬が緩んでしまう。三治郎はそんな乱太郎の様子を見てニコニコと嬉しそうにしていた。
ふふ、乱太郎、おいしいものを食べるとわかりやすく顔に出るところ、僕はすっごくすきだよ。」
えへへ、褒めてもなんも出ないよ?あ、そうだ、さっきもらったから私のもちょっとあげる。三治郎、口開けて。」
「えっ、いいの?」
「このおいしさをシェアしたいからね。はい、あーん?」
じゃあ、遠慮なく。あーん。」
 三治郎の言葉に応えるように乱太郎は自分が先程食べていたタルトをフォークに乗せて、三治郎の口元に運ぶ。三治郎がぱかりと口を開けると、そのままタルトを放り込んだ。
 一口サイズとは言い難い大きさであったが、口に放り込まれたタルトは柔らかく、フォークで切るようにして食べて三治郎の口にちょうどよいサイズになった。
 もぐもぐと咀嚼していくとタルト生地のザクザク食感が際立ち、噛む度に口の中に広がる味が違うのがわかる。中に入っているマロンクリームがまた濃厚で、本当に栗の甘味を存分に活かした作りになっているからか、三治郎は目をキラキラさせながら咀嚼していた。
「んん~……美味しい~!」
「ねっ、おいしいでしょ!」
「うん!本当においしい~!」
 二人でシェアしながらもぐもぐと残りのスイーツを食べていると、乱太郎の口周りについていたタルト生地の欠片を三治郎が取ってそれをぺろりと舐める。乱太郎がそれに気がつくと、恥ずかしそうに笑ってごめん。と言った。
全然気にしないよ。だって乱太郎だし。」
……まあ、私も三治郎の頬にマロンクリーム付いてたらついついとっちゃうなあ。」
「へへ、乱太郎なら全然気にしない。」
「ふふ。私たち、お互いのこと大好きすぎない?」
「うん。それは絶対。」
「ふふふ、そんな改めて言われると照れちゃうなあ。」
 スイーツを全部食べ終わった二人は、最後にコーヒーと紅茶で甘さを流し込み、お腹を満たした二人は再び並んで歩く。大学で講義を受けた後の帰り道にお腹いっぱいになるまでスイーツを堪能できたからなのか、お腹がいっぱいで乱太郎は少し眠くなってしまっていた。
……ふああ。」
乱太郎、眠いの?」
「少しだけ……。なんだか今日はあたたかいし眠くなっちゃった。」
「確かにそうかも。温かいものも飲んだし、お腹いっぱいだからか眠たくなるね。」
「うん……。でも、もう帰らなきゃだから頑張って起きる。」
「乱太郎が寝てても運んであげるのに。」
「三治郎の細腕じゃ私運べないよぉ。せめて団蔵くらい力がないとさ……あ。」
「むぅ。乱太郎だって非力なくせにぃ。」
 ぷくりと膨れた三治郎を見て乱太郎はくすくすと笑いながら、三治郎の手を掴んだ。突然繋がれた手に驚きながら三治郎が乱太郎の方を見ると、乱太郎はこちらを見ることもなく前を向いて歩いていた。三治郎はそんな乱太郎の横顔を見て思わず愛おしさが爆発してしまい、あまりにも愛らしい恋人にときめきながらぎゅっと握り返すと乱太郎はちらりと三治郎の方を振り向いた。
「ふふ、なあに。三治郎。」
「ううん、すきだなあって思って。」
二人の視線が重なり合うと、とどちらともなくふにゃりと表情を崩して、肩を寄せ合って他愛もない会話を続けながら歩幅を合わせて歩き始めたのだった。