「妹に執着してるキショくて変な兄」と聞いて、あなたは誰を想像するだろうか。私の発言を毎日眺めさせられている人たちであれば、きっと躊躇いなくチェシアレと答えることだろう。実際彼はキショい。1話からキショい。様子がおかしい。
だが、おそらく世間ではマヒルという回答が多数を占めるはずである。別にマヒルはキショくないのだが、どうにも時々おかしな発言をするため、その印象でなんかちょっとキショくて変扱いを受けがちなのだ。
そのせいだろうか。時折り、見かけてしまうのだ。
チェシアレとマヒルって似てるよね。
こうした言説を。
だが、本当に彼らは似ているのだろうか。確かに二人とも湿度の高い義兄である。揃って血の繋がらない妹への感情がバグりあそばせており、家族の枠を超えた恋愛感情を抱くに至っている。あと、どちらも近辺に銀髪赤目の激めろスパダリがいる。共通点は多い。
だがよく考えてみてほしい。マヒルは妹を殴らないし、家庭環境が終わってもいない。鞭打たないし首も絞めない。
言うほど似ているのだろうか?
共通点
義兄
二人とも妹と血は繋がっていない、いわゆる義兄だ。兄妹間の遺伝子情報に同じ部分は一つも全くない。二重螺旋の記載内容からして他人である。
他人だからこそ妹への恋愛感情を許されていると言ってもいい。特にチェシアレ。
そういうわけで、彼らの共通点として「血の繋がらない妹を持つ兄」が挙げられるだろう。
ついでに言えば、彼らは揃って「幼少期から妹と共に過ごしてきた兄」でもある。親の再婚でティーンになってから出会い……とかではない。二人揃って年齢一桁の妹を知っている、筋金入りのお兄ちゃんなのだ。
湿度が高い
二人とも感情がべちょべちょしている。妹がいないと生きていけない。おそらく妹に先立たれたら後を追う。彼らはそれくらいべちょべちょなのだ。
除湿剤が欲しい。特にチェシアレ。
その点、銀髪赤目激めろスパダリ男たちは凄い。あいつらはあいつらで「お前のいない世界なんて意味がない」みたいなことを言いかねないのだが、彼らがその手の発言をしても「激めろスパダリ理解ある夫……」になるだけで、決して兄たちに抱くような「 こ わ い 」という感情には至らない。
見習って欲しいものである。
こわい
兄たちは基本的に感情がクソ重いため、こわい。重たすぎてこわい。近寄らないでください……になる。特にチェシアレ。
だが、彼らは別に彼らなりの方法で愛を示しているだけである。その結果ちょっとこわい仕上がりになっているだけで。
悪気は(あんまり)ないのだ。そういう生き方しかできないので。
ぽっと出の銀髪赤目激めろスパダリ男に妹を奪われ失恋するのが大変似合う
義兄とか執着とか湿度とか言っておいてなんだが、正直ここが一番似ていると思う。私の偏見である。
だが、よく考えてもみてほしい。血の繋がらない妹に執着するあまりに様子が変なことになっている男、だけであればがるまにあたりにかなりいる。がるまににはなんでもある。
だが、そこにぽっと出の銀髪赤目激めろスパダリ男に妹を奪われてそうな義兄という条件をつけるとどうだろう。途端にチェシアレかマヒルの二択になる。
マヒルの場合は時と場合によって、チェシアレのケースでは確定的に、銀髪赤目激めろスパダリ男に妹を取られてしまうわけなので、なんというかしみじみと本当におもろい。特にチェシアレ。
なんでそんなところが似たんですか?
ところで、チェシアレにとって義弟は使い捨てる紙屑のような存在でしかなく、そのくせ禁欲主義を名乗りながら妹に手を出した憎い相手である。ルビの手を取って共に帰ったであろうあいつの手首を切り落としてやりたいなどと物騒なブチギレをかます程度には、イースケのことが嫌いである。ウケる。
で、シン主が成立した世界線において、マヒルから見たシンは「どこのどいつだ?」である。突然現れて妹の心を奪って行ったよくわからん反社の男だ。妹の同僚とか幼馴染みとか、妹がボディーガードをしている相手ならまだ理解できると思うのだが、さすがに自分が死んでいる間にいきなり現れていきなり妹を持って行ったよくわかんねー反社の男は理解できないだろう。かわいそう。ウケる。
だがしかし、マヒルにせよチェシアレにせよ、彼らにとってはぽっと出の相手に最愛の心を持っていかれる姿が大変よく似合うため、なんていうかその……、失恋……、してもらえませんかね……?
というわけで、確かに兄と兄はよく似た部分を持ち合わせている。
だがしかし、彼らは決定的に“違う”のだ。
相違点
帰りたいマヒル、帰りたくないチェシアレ
マヒルにとっての家は、そこで最愛が待っている、安心できる場所である。祖母と妹との三人で暮らした温かな思い出、自分に安らぎをくれる妹とのひととき、そうしたものの象徴が家なのだ。
特に遠空艦隊の執艦官となってからは、四方を敵に囲まれ気を張って任務遂行することを強いられている。時折り覗く情緒不安定さの根本原因はこうした労働環境への不信感も多いに寄与しているわけだ。
そのような極限状態によって精神がゴリゴリに削られているからこそ、家が帰りたいと願う場所になる。彼にとっての「家」は、恋しく帰りたく、なにより安らげる、ある種の“楽園”なのだ。
一方で、チェシアレにとっての「家」は、縛り付けられる枷や呪いのような場所である。望まない道を歩むことを強いられ、逆らえば暴力を振るわれ、心を許せる相手は妹しかおらず、他は全てが敵。
家名がもたらす利益を享受している自覚は持ちつつも、同時にその利益を捨ててすら逃げ出してしまいたい場所と化している。実際彼は妹に対して「どこか遠くの島でお前と二人きりで暮らす人生」を想像している旨を口にする。
チェシアレにとっての家は、帰りたくないどころか捨てられるものならば捨ててしまいたいような場所なのだ。
こう考えると、彼らのべちょべちょした感情も結構別物に見えてくる。
死は救済のチェシアレと、死んでしまえば全てがおしまいのマヒル
ノベル版のチェシアレは、作中で心中を仄めかしてくる。何もかもがぐちゃぐちゃになった状況にうんざりし、妹の首を軽く絞めながら「いっそ二人で死んでしまえば……」などと言い出す。
誰にも邪魔をされず、妹とずっと二人きりでいられる手段。それこそが死である。少々突飛な話ではあるが、帰りたい場所などないチェシアレにとって、選べる終着点は「死」しかないのだ。そう考えると腑に落ちる。
一方のマヒルは「すでに一度死んだことがある」身である。その経験が、彼に「死は全ての終わり」という価値観を植え付けている。故にマヒルは、自らの身を削ってでも妹を守るし、生きながらえさせようとする。心中などは考えない。なんらかの理由で自分と妹のどちらかが死ななければならなくなったら、彼は躊躇いなく自分の命を妹に捧げて彼女を生かすだろう。
逆に自分が生き残る側に立ったとしても、妹から「後を追ったりしないでね」と言われればその一言だけを胸に天寿を全うするその日まで約束を守り続けるだろう。俺が生きていればお前が生きていた証を残し続けられるから、とか言いながら。
というわけで、帰る場所、帰りたい場所のあるマヒルにとって、そこに辿り着けなくなる、すなわち全ての終わりとなる「死」は絶対的に避けたいことなのだ。
夢を見ることができたマヒルと、夢を見ることを許されなかったチェシアレ
マヒルも現在は望まぬ職位を与えられているため単純比較はできないのだが、それでも彼は「パイロットになる」という夢を一度は叶えた男である。自分が望む生き方を自分の手で掴み取った経験がある。
だからこそ、今の執艦官生活が余計に苦痛なわけだが、とはいえ彼には成功体験があるのだ。
ただまあ、執艦官も見方を変えれば一応は艦隊を率いて空を飛ぶ仕事ではあるので、なんらかの乗り物を操縦する立場という点でパイロットとは近からず遠からずな部分もある。もっとも、その近さが却って皮肉めいても見えるため、ある意味で悔しさに繋がっていそうなのだが。
……まあ、とはいえチェシアレよりは幸せだろう。
というのもチェシアレは、そもそも夢を見ることすら許されない立場にいるからだ。剣術を習いたい。その一言を口にしてしまったただそれだけで、水抜き飯抜き地下監禁なのだから。
妹の口からも「聖職者というよりは騎士のほうが向いている」などと言われており、事実はっきり剣術の才能もあった。だが、騎士を目指すことはおろか剣を習うことすらも許してはもらえなかった。チェシアレは夢を見る権利すらも奪われて生きているのだ。
一方のマヒルは祖母や妹からの応援を一身に受け、やりたいこと、叶えたいことのために努力し続けた過去がある。
どちらが幸せかと言われたら、今の現状では「どちらも不幸」でしかないのだが、とはいえ、夢を見ることを許されたマヒルと比べると、それすらも許してはもらえなかったチェシアレの境遇の悲惨さが浮き彫りになる。
そういうわけで、彼らは置かれた境遇自体がかなり異なっているのである。
忘れられたことが苦痛なチェシアレと、忘れられても構わないマヒル
これはある種の共通点とも言えるのだが、マヒルもチェシアレも、超常的理由により妹から自らのことを忘れられた兄である。
前者は妹が受けた人体実験の後遺症により、後者は憑依という特異的現象が発生したことにより、妹から「自分との思い出」の全てが失われる経験をしているのだ。
ただ、マヒルの場合は「記憶が飛ぶ可能性」を承知の上で妹と向き合っており、だからこそ何度忘れられようともめげずに「初めまして」を繰り返している。
だが一方でチェシアレは「記憶も思い出も失った(=中身が別人に入れ替わった)」可能性を最初から考慮していない。憑依などという不可思議な現象を想定して生きているいるわけもないのだから、彼のスタンスはなんら不思議ではなく、むしろ至極当たり前の話である。だが、だからこそ彼にとって「忘却」はより絶望的な事象となってしまった。
起こりうる事態があらかじめわかっていたからこそ、何度忘れられてもいい、思い出はまた作ればいいと強靭な覚悟を決められたマヒル。彼の極めて湿度の高い感情は、これらのバックボーンを踏まえて眺めると存外「前向き」に見えてくる。またやり直せばいい、修復できると思えたこと、自らの手で掴み取れるものがあると知っていること。そうした明るい可能性を理解しているからこそ、永劫奪われる死を忌避するし、妹をそこから遠ざけようと献身するのだ。
他方、予想外かつ想定外の突発的事象に見舞われ全てが一瞬にして失われたことで、決定的に壊れてしまったのがチェシアレだ。夢を見ることも許されず、妹の中からはあっけなく自分の存在が消え去り、家にいることは苦痛で堪らない彼の逃げ場はどこにもない。行き着く場所を失ってしまったチェシアレに残された最良の選択は、もはや死のみとなる。彼が妹へ抱く思いは極めて閉塞的で、息苦しく、後ろ向きなのだ。
妹を殴るチェシアレと、せいぜいマイルド監禁する程度のマヒル
チェシアレお兄ちゃんは本当に反省しような!!!!
でもマヒルは監禁するならちゃんとしてほしいです。優しすぎる。善性。なんなんだ。もっと本気で監禁しなさい。
結論
確かにチェシアレとマヒルは似ている。持ち合わせている要素が非常に近い。近辺に銀髪赤目激めろスパダリ男とかいるし、妹への愛マジで重いし。
だが、出力されるものが結果的に似ているだけで、精神構造自体はむしろ真逆である。
帰りたい場所があるからこそ今を抜け出そうと足掻けるマヒルと、帰りたい場所などどこにもなく行き場を失っているチェシアレとでは、明らかに抱えているものが違う。
妹がどこか遠くに行ったことを嘆きながらもマヒルが口にするのは、帰ってくるのを忘れるほどのいい場所なら、今度は俺も連れて行ってくれという言葉だ。マヒルにも今は枷が付いているけれど、彼は元来自由な男だ。その背中には妹のいるところまで飛んでいける翼がある。
一方で、嫁に出た妹を問い詰めたチェシアレの口から飛び出すのは「僕のことなんかすぐに忘れてしまうほど、ここでの生活が幸福だったのか?」「どうも僕の妹は、家に帰りたがっているように思えないんだ」である。チェシアレは妹を自分のそばに引き戻したいのだ。だって彼に翼はない。妹を探しに行く自由なんて彼には与えられていない。
だから妹を縛り付けて自分のそばに置くしかないのだ。
というわけで私の結論は「そりゃマヒルのほうが万人ウケするよな」である。
じゃ、私はチェシアレお兄ちゃんをよしよし撫で回す仕事に戻りますんで?
余談
チェシアレに似ていると言えば、もう一人見過ごせない人物がいる。エイステのイヴァンである。
シンプルに顔が似ているのだが、それ以外の情緒も結構近い。正直マヒルよりも遥かに似ているんじゃないだろうかとすら思う。
なんといってもイヴァンは好きな相手のことを殴る。チェシアレも妹を殴っている。だがマヒルはそんなことしない。善性の差は歴然だ。明らかにチェシアレとイヴァンのほうがヤバい。問題児だ。
とはいえイヴァンは愛情を抱いていてもその示し方を知らない故に、側から見ると嫌がらせでしかないような振る舞いをしてしまうだけで、まともな愛し方を教えてやればおそらくあんな真似はしない。何せ彼は基本的にめちゃくちゃいい子なのだ。
一方のチェシアレだが、彼は彼で、暴力とは相手への愛と関心があることの証明だというとんでもない刷り込みを受けている。漫画版限定設定だが、とにかく彼に取っての愛は暴力と密接に結びついてしまっている。
つまりそんなとんでもない学習をする前に彼を正しく誰かが愛していたならば、ああはならなかった可能性が高い。
……なんか、チェシアレに似てるのってイヴァンなのでは????????????????
以上です。
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