かげにん
2025-11-09 15:47:04
1195文字
Public BWN
 

無題(BWNSS)

■アニメ狸と漫画狸は同一人物であるという妄想の元書かれてるSSです。

──本日はお日柄もよく、旅立ちには絶好の日和であり……。いや、この「空間」に暦なんてものはないのだからお日柄も何もないのだが。
 まあ暦も気象も時間すらもないのであるからして、「オレ」がお日柄がいいと言えばお日柄はいいのだ。そう、先程も述べたが今日は新たな門出の日であり、つまりハレの日なのだから。

「やあー、調査員ええと……Sの3だったよねえ。ここを出ていくって本当なのかい?」

 廊下を歩いていたオレは同僚、いや今日からは元同僚の男に声をかけられた。
 そいつはとても間の抜けた声と顔をしており、話している内容とは裏腹に心配も残念さも何も読めないポケッとした表情をしていた。
 ……その悪口はだいたいオレ自身に返ってくるのだが、いや話が長くなるのでここでは割愛しよう。

「寂しくなるけどね。僕は新天地でやってくと決めたから」
「そうかあ。下の次元というのは僕達からすれば居心地が悪いと思うけどなあ」
「承知の上だよ。では、元気でね」

 元々仲がいいなんて関係でもないのだ。そもそも関係と呼ぶに値する繋がりがあったわけでもない。軽い挨拶だけしてオレはその場を去った。
 足を進めるにつれ人気がなくなっていく。それだけ特務機構に近づいている証拠だ。
 目的の部屋の前に辿り着く。ヒヤリとした扉に手をあてて、思わず身震いしてしまう。そんな自分に随分ニンゲン臭くなったと少し笑ってしまった。
 ──身震いしたのは怯えではない。未来への楽しみが隠しきれないからだ。

「S-3、貴官の次元下降を認める。準備が出来次第構成物変換器の下に立つように」

 この世界最後の言葉はなんとも味気ないが、これでいよいよお別れだ。装置の下について、少しずつ分解されたり圧縮されたりしていく自分の体をよそに、目を閉じて思い出に浸る。

 この空間に会えなくなることに寂しさを感じる相手はいないが──、別下級宇宙にいるかつての知り合い達に会えなくなるのは寂しくなるなと少し思ってしまう。

 「ハインラッド」、その名で呼んでくれた友─オレが一方的にそう思っているだけかもだが─を、オレは一生忘れないだろう。

 かつての級友達には挨拶はしなかった。彼らからしたら自分の存在はとても複雑なものだろうから。彼らは自分の事を忘れるぐらい真っ直ぐ充実して生きてほしいと思う。
 敬愛する我らが師、平穏な星で生きるビッグには一声かけた。相変わらずこちらの言葉は通じているか分からないけど、それでもしておきたかったのだ。とても大切な人なのだから。

 ──さよなら今までの世界。そしておはようこれからの宇宙。手の中の宇宙にオレは飛び込むのだ。
 ビッグよ、そして勇敢なるライオ部隊の魂よ、もし赦されるならどうか導いてほしい。またあの子達に出逢える、優しい風吹くあの星に。
 過去という未来で、君達を待ち続ける。