ユニクロンとの戦いの後、セイバートロン星は徐々に昔の活気溢れる姿を取り戻しつつある。和平を結んだサイバトロンとデストロン共同で復興作業を続けてきたからだ。
ある程度自分の持ち場が片づいてきたこともあり、スタンピーは久々の休暇をとっていた。我が家でゆっくりと過ごす。何日ぶりだろうか。
せっかくだしと、ある本を持ち出す。
ビッグコンボイ部隊のこれまでの戦いを記録した本だ。多分ハインラッドが旅の途中途中で書いていた報告書を元に纏めたものだろう。ペラペラと捲ると今となっては懐かしい色々な思い出が詰まっている。
しかし、読んでいてある異変に気づいた。
(ハインラッドの名前が出てこない……?)
戦闘や調査の記録だけでない、最後のページのビッグコンボイ部隊の隊員の名前欄にすら載ってないのだ。
──まるで彼の存在は始めからいなかったかのように。
(そういえば彼に最後に会ったのはいつでしたっけ……?)
──嫌な胸騒ぎがする。スタンピーは本を閉じてある場所に向かった。
今、スタンピーの目の前には神々しい青い球体を持つ一つの巨大な像がある。言わずとも知れたセイバートロン星のスーパーコンピューター、ベクターシグマだ。
このような神に近い存在、普通なら自分のような一軍人なら人生で二度も会う機会などないだろう。今はグレートコンボイの地位に就いているライオコンボイに無理を言ったのだ。
目の前の女神は静かに喋る。
「賢いあなたならすぐに気づいて訪れるだろうと思っていました。ハインラッドのことですね?」
その通りだ。
ハインラッドは彼女の直属の部下だと言っていた。今きっと彼の行方を知っているのは彼女しかいないと思ったのだ。
「そうです、ベクターシグマ様。その、彼は今どこにいるのでしょうか…?それになんで記録書に彼の名前が載ってないんですか?」
声が震える。体の震えも止まらない。神に対して質問をするなんて甚だしいもいいところだ。
しかし彼女は優しく質問に答えてくれた。
「まずは後者の質問から答えましょうか。ハインラッドは記録にその名を易々とは残せない身なのです。その強力すぎる能力の持ち主が故に」
そして彼女は語り始める。
ハインラッドの時を止める能力は強力すぎる。
彼が温厚な性格だから良かったが、世界を一つ滅ぼしかねないほどの力を秘めていること。だからその力が悪に知られぬよう歴史の表舞台には姿を残せないということ。
そう考えると伝説の人物マニアなマッハキックがベクターシグマ直属の部下というかなりの大物である彼を知らなかったのも頷ける。
ベクターシグマは語り続ける。
「だからこそ彼は普段は隠れ続けなければいけないのです。任務を終えた今、彼はまたどこかで隠れ暮らしています。流石にその場所はあなたでも言うことは出来ませんのですが」
「そう……ですか」
家をでる前の胸騒ぎ。もう一生彼に会えないような予感は当たってしまった。
落胆しつつ礼と感謝の言葉を述べ、ベクターシグマの元を去った。
帰り道、夕日を背にトボトボと歩く。もう彼には会えない。まだ仕事が忙しくて他の仲間達は気づいてないだろう。この事実を知ったらどんな顔をするだろうか。
彼のことを思い出す。マイペースでサボってばっかなやつだった気がする。
でもよく僕のことを助けてくれた。優しいやつだった。
ポロポロと目から涙が溢れてくる。
「酷いよハインラッド、サヨナラもなしだなんて」
「うん、僕もそう思うんだなあー。だから帰ってきちゃった」
「そうです帰って……ってえっ!?」
目を見開く。
横にはニコニコ笑っている、よく知ってる間抜けた顔の狸がいた。
「は、ハインラッド?!どーしてここにいるんですっ?!」
「いやあ、だから僕も勝手にお別れなんて悪いなあと思ってちょっとだけ戻ってきたんだなあ」
でもベクターシグマは僕がセイバートロン星を去ろうとする前にスタンピーがそのうちここに来るなんて言ってたし絶対確信犯だよね。なんてちっとも悪びれてない顔でいう。
ああ、本当に彼だ。
何を言おうか。
一生会えないと思ったとか、また会えて嬉しいとか、これからどうするのとか、色んな言葉が頭に溢れる。
先に口を切ったのはハインラッドだった。
「僕さあ、ちょっとしばらく南の島でバカンスなんだなあ」
「ハハハ、僕ら皆復興作業で忙しいのに一人だけズルいです」
「ごめーん」
本当なんだろうか。分からない。でもやっぱり。
「ハインラッドはどっかいっちゃうんですね。僕らの会えない所へ」
「うん、もしかしたらずっと会う機会はないかも知れないんだなあ」
熟知してるくせに、また会えた嬉しさで嘘だと思いたい自分がいる。引き止めることはできない。
「他の皆にも代わりにごめんとサヨナラを言っててほしいんだなあ」
「うん、分かった」
そう約束して頷く。ただ、どうしてもまた溢れだした涙は止められない。
笑顔で送ってあげたいのだけど。
「そろそろ行かなくちゃ。……ねえ、スタンピー──」
彼は僕の耳元に近づいて言った。
「────」
気づくと彼はもういなかった。
数日後、ビッグコンボイ部隊の皆にハインラッドのことを告げるとやっぱり凄く驚いて凄く悲しんでいた。ブレイクなんか涙を流していた。流石に僕はあのとき涙を流し尽くしたし、皆のフォローに回った。
きっとまた会えるよ、って。
皆には教えなかった彼の最後の言葉を思い出す。
「僕にまた会えるぐらい凄くなればいいんだよ、例えばベクターシグマの直属の部下とかさ」
おどけた顔でなんて無理難題を言うんだろうか。でも希望は沸いてきた気がする。
彼にはまた会える。だから今日も一生懸命勉強するし一生懸命戦う。コンボイになる為の試験も控えている(あのときの新兵皆で受けにいくのだ)
一歩一歩ゆっくりでも進んでいく。だから、もうちょっと待っててね。
空は今日も澄んでいる。
ハインラッドは惑星ガイアに来ていた。ベクターシグマからまた命令が下されるまで隠れている為にだ。
この惑星にはかすかなアンゴルモアエネルギーの跡があり、自分の力をカモフラージュすることが出来る。それに狸は元々この星の生物だ。まさに木の葉を隠すには森の中というわけだ。
ユニクロンやブレントロンの存在のおかげで正直ずっと気を休めることが出来ずにいた。ようやく羽を伸ばせる。簡単に作った巣穴に潜り、目を閉じながらあの訓練飛行で共に旅した仲間を思い出す。
流石ユニクロン討伐の最後の希望に選ばれただけあって、新兵らしい若さ故の過ちはあっても素晴らしいやつばっかだった。大事なのは戦闘力とかじゃなくて、心なのだ。皆そこにかけてはほんと素晴らしかった。
……あと、何より嬉しかったのは自分の正体を知ったあとも特別扱いせず、今まで通り同じ新兵仲間みたいに接してくれたことだろうか。色々な兵士達を見てきたけど、自分を特別な目でみるようになかったのは彼らぐらいな気がする。
脳天気というかなんというか。
でも、すっごく嬉しかった。
また彼らに会える日は来るだろうか。でも、彼らなら大丈夫な気がする。彼らなら心も体も立派になって自分に会いに来るだろう。
そんな日を思いながら、来るべき日が来るまで深い眠りにつくことにする。
夢の中に彼らとの思い出を映しながら。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.