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かげにん
2025-11-09 15:43:11
1345文字
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BWⅡ
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無題(烏賊蛙SS)
まだ付き合ってない烏賊蛙のお話。
ジリジリと暑い真昼の中にいた。
緑が異様に強い葉、眩しすぎるほどに日に照らされた川。見慣れた森の中にいるはずなのに、そのコントラストの強さは現実離れしたものを感じさせる。
「スクーバはん」
すぐ隣から聞き慣れた声がした。いや、聞き慣れたというのは少し嘘になる。彼は、彼はそんな──。
「ふふ、スクーバ」
そんな優しい声で自分を呼んだことはないだろう。
己の顔を伝う汗に嫌なものを感じる。それはこの「シチュエーション」への罪悪感からだろうか。
自分は夏の湿気た空気を掻き分けるようにゆっくりと手を動かし──、その隣人の頬に触れた。遠慮がちに笑う彼の顔は暑さで火照っていて。
ついに目が合う。その瞳はとても優しい笑みを浮かべていて。そんなものは私は
……
。
「──なんという夢だ」
夢から醒めたスクーバは、あまりの自分の脳味噌の都合の良さに苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
愚かだろう。未だに向こうからの好意すら素直に受け取れない自分が、都合のいい世界で恋人のお遊戯を興じるのは。溜息しか出てこない。
スクーバとダイバーは同じ部隊に所属してからそれなりである。
ダイバーは何故か、スクーバには全く検討がつかないのだがふしぎと彼にとても懐いていた。
積極的なようでいてこちらの顔も伺っているような、そんなダイバーの控えめながら確かに存在する優しさがスクーバには暖かく、同時に怖くもあった。
理由も分からない優しさは酷く心を臆病にさせるのだとスクーバは初めて知った。
聞けばいいのだろう、何故そんなに自分に構うのか。触れてみればいいのだろう、その暖かい優しさに。
だが今でもスクーバは逃げてしまっていた。ヒラリヒラリと交わし続け、自分のメンタルが万全の時にだけおずおずと、ポーカーフェイスは崩さずに向かい合う。
だから、そんな卑怯者の自分に都合のいい夢を見る資格はないのだ。
「スクーバ、えらいしんどい顔してまっせ」
渋い顔を引きずったままのパトロール中、件の人物にスクーバは声をかけられた。
「夢見が悪くてな」
「はあ、スクーバはんも悪夢なんて見るんですなあ」
「
……
お前は私をなんだと思ってるゲソ」
思わずスクーバは渋い声を出してしまった。この件は少なからず謎の好意を押し付けてくるダイバーにも責任があるだろうと、酷い転嫁をしてしまってもいいだろうとつい思ってしまった。
そんなこと露知らずのダイバーは、気楽そうな顔で笑って口を開く。
「格好いい人でんがな、あんさんは」
思わずスクーバは小さい目を白黒させた。
「
……
格好いいのか」
「格好いいイカでっせ、とっても頼りになる仲間ですがな」
別に、仕事が出来るとか格好いいとかその手の褒め言葉を貰うのは、スクーバにとって自慢ではないが初めてではないのだ。
ただ相手が相手なのであって。
思わず見てしまったその言葉を伝える顔があまりに優しくて。
覚めた世界で夢を見ていいのだろうか。その言葉を拠り所にして、手を伸ばしてみてもいいのだろうか。
「
……
スクーバ?」
「いや、そうか。そうなんだな
……
」
川のせせらぎがスクーバの耳に長く残り続けるのであった。
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