かげにん
2025-11-09 15:35:12
1311文字
Public BWⅡ
 

花指輪(烏賊蛙SS)


 春の陽気がうららかな昼下がり。
 スクーバがナイアガラベースで読書していると、森から自分の名前を呼ぶ声がする。気の抜けそうな声の主はダイバーだ。
 スクーバは読んでいた本をテーブルに置き顔をあげる。読書中の自分に彼が声をかけてくるのは珍しい。何かよほどのことがあったのか。

「これな、ビッグホーンはんに作ってもらったんよ」

 そう言ってダイバーは楽しそうに頭のそれを見せてくる。それは花冠という、ガイア人の子供の遊び道具だ。名前の通り花を組み合わせて丸く冠のようにした物体。
 子供騙しな冠だが、ダイバーは心底嬉しそうに頭のそれを見せつける。

(うむ、気にくわないな)

 スクーバは楽しそうなダイバーとは裏腹に酷く不満げな顔をしていた。ビッグホーンはイカ娘に盲目であり、この花冠に他意はないことは分かってる。ダイバーが喜んでるのだってただ仲間から何か作って貰えたのが嬉しかっただけだ。物珍しさもあるのかもしれない。
 分かってる、分かってはいるのだ。

(子供の嫉妬じゃあるまいし……)

 スクーバが不満げなのは単なるヤキモチ。自分で自分に呆れるが仕方がないことだ。どういう理由であれ、想い人の笑顔を他の者が作っていることはちょっと悔しいのだ。

「なあダイバー、その花冠から一本だけ花を貰っていいか?」

 ちゃんと元の冠の形にはするから、と言うと不思議そうな顔をしつつダイバーはスクーバに花冠を渡す。器用にスクーバは一本だけ花を抜き取り元の形にしたあとダイバーに返す。一本抜いただけならまあ大きさに支障はあるまい。
 不思議でたまらないという顔のダイバーを尻目に彼の手をとる。そして指に先程の花の茎を括り付け、キュッと結ぶ。
 そう、これは──

「花の指輪やねえ……

 細い茎にちょこんと白い花がついた指輪。
 自分も、何かあげたかったのだ。花冠に比べればずいぶん簡単な作りだし、元々その花もビッグホーンのあげたものなのだが……
 いささかやり方が子供じみている、自分らしくもないとスクーバは一人ごちる。
 ダイバーはしばらくその花の指輪を見つめていたが、やがてスクーバのほうに顔を向ける。

「スクーバはんが何かくれるって珍しいでんなあ……

 そう言う彼の口はだらしなく緩み、とても幸せそうな笑みを浮かべてる。
 凄くバカみたいな表情だ。だが、スクーバが見たかったのは紛れもなくこの表情であって。
 たまにはこういうのもいいのかもしれないと思うのであった。

 次の日、当たり前ではあるがダイバーの指には花の姿は無かった。それとなくあの指輪はどうしたのかとスクーバが聞くと、ダイバーはスクーバを自室に招いた。そして沢山積んであった技術書の下にあった一冊から、薄い紙を一枚取り出す。
 それは、押し花の栞だ。

「せっかくスクーバはんがくれたのに、枯らしちゃうのは勿体無くて」

 こうしておけば無くさへんしね、とダイバーは笑う。
 指輪であったことが分かるように薄い紙に綴じられた花。
 ああ、こういう発想力ではかなわないな、とスクーバもまた自身の顔の緩みを認めざるをえないのであった。