【スタゼノ】風が吹く時に

スタゼノワンドロワンライ第227回お題「髪」「風」
セックスの後、ケーブルテレビで紛争地のニュースを見る二人の話。

 喉がからからになるまで散々ファックして、それから何度もキスをしてミネラルウォーターを飲み合った後、ゼノは俺の髪を触って笑ってみせた。それがあまりにも楽しそうだったので、俺は「そんなに良かった?」って彼の耳元に囁いた。いや、別にセックスに満足して機嫌が良いわけじゃないのは分かっていたが、それでもそんな軽口を叩いてしまうくらい、彼の様子はいつもとは違ったから。
「最高だったよ、いつだって君は最高さ」
 でも、ゼノはそんなふうに言って、俺を抱き締めキスをした。何度も何度も髪を撫で、親が子を慈しむように。だからなのだろう、さっきまでの熱は冷めてゆき、俺はゼノの汗が浮いた肌をそっと触った。やっぱり、子を慈しむように。
「まだ足りないかい?」
「いいや、あんたは最高だったからね」
 俺はゼノと同じ言葉を返して、彼をそのまま抱き締めた。ゼノはされるがままで、決して嫌がらなかった。俺達は裸のまま抱き合い、言葉少なにキスをした。でも言葉があまりにも少なかったからもの寂しかったのだろう、ゼノはなんとはなしにテレビをつけ、寝室を言葉で満たした。
 ケーブルテレビは、タイミング良く先月の俺の派兵先の紛争地の状況を報道していた。紛争が始まってすぐの爆撃キャンペーンを繰り返し流し、部隊に同行した記者が敵兵の降伏シーンを報道し、民衆が解放されて喜ぶ歓迎映像で勝利ムードを煽っていた。
 ゼノはどちらかというとリベラル寄りに育てられた男だったし、彼の抱く政治理念もそうなのだろうが、俺が軍に入ってからは、保守系のメディアしか俺の前では流さなかった。じゃなきゃ、したり顔のアナウンサーやコメンテーターが、悲しい紛争地の人々の現実を映し出すから。だから反戦デモを行う者たちを偉大な未洗脳者と嘲笑するくらいの愛国者しか、俺の目には映らなかった。民間人の被害も、棺の帰還映像も流れはしなかった。いや、それが見たくてチャンネルを変えたとしても、リベラル寄りのメディアですら、解放作戦と俺の仕事を位置付けていたから、俺にはもう、行き場はなかった。
……明日、ブリトーを食べに行こうよ」
「で、あんたはチーズバーガー?」
「そうだよ。一九〇〇年に発明された我が国最高の発明品さ」
 ゼノは自然な仕草でテレビを消し、そして俺にキスをした。また額に揺れる髪に、彼は口付けた。
 俺は紛争地にまた行くんだろう。そこでさっきテレビに映し出されていたような景色を見て、あの乾いた風に髪を揺らすんだろう。ゼノがこの国で研究に没頭していることだけを信じて、俺は自分の仕事をこなすんだろう。
 俺は多分、反戦デモでプラカードを掲げるような元兵士にはならない。俺はきっと、星条旗を掲げて死んでゆくのだ。そして、ゼノの手には、その国旗が残る。そんな残酷なことを俺はしている。この男のためと言って、そんなことをしている。罪悪感なんてとうの昔に消えてしまって、ただ夢のためと言い訳をして、俺はいつも銃を握っている。
 でもどうか、どうかゼノがやりたい研究に没頭出来ますようにって俺は思う。俺の力が必要になった時、彼に協力してやれますようにって俺は思う。そんなの難しいことは分かっているけど、俺はずっと、ゼノのために生きていくと決めていたから。
「さぁ、おやすみ、スタン。それとももう一回するかい?」
「あんた、さっきからそればっかじゃん。そんなにしたいん? 食いもんよりこっちがいいん?」
「今は色気より食い気かもね。君がたっぷり満たしてくれたからさ」
 俺達は笑って抱き合い、そしてキスをしてベッドルームの電気を消す。そうしたら彼の輪郭の残像が目に残って、俺はまばたきをしてそれを愛しくなぞる。彼が教えてくれた星座を、紛争地で目でなぞったように。
 ゼノ、あんたを愛してる、あんたがそうじゃなくたって、俺はあんたを愛してる。どんな風が吹く時だって、俺はあんたのことを思ってる。紛争地で子供が銃を構えていても、未亡人が自爆テロを仕掛けてきても、敵兵が俺達米兵を取り囲んで殺そうとしても、俺はあんたのことを思っている。だからどうか、あんたはこの国で安全に暮らして、やりたいことをやって、俺のことなんて気にかけないで日々を過ごしていてくれ。
 あぁ、でもそれじゃあ少し寂しいか。そうだな、少し寂しい。たまに俺のことを思い出して、そんでたまに電話に出てよ。あまり長いことは喋れないけどさ、あんたの声は俺を奮い立たせるから、電話をかけた時くらい、俺に愛してるって言って。あの乾いた地で風が吹く時に、風が髪を揺らす時に、俺に愛してると言って。


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